『ルーム』 (C)ElementPictures/RoomProductionsInc/ChannelFourTelevisionCorporation2015

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父親の血を感じさせる出来事に
子との距離感を実感する瞬間

(…「2」より続く)母親が「子どもは他者である」ことを忘れがちという話に戻すと、『ルーム』の母子、ジョイとジャックにもそれを感じ取ることができる。

本作では、外界から隔離されたある“部屋”で暮らす母・ジョイと5歳の息子・ジャックが描かれる。2人にとって、“部屋”から出てもおそらく一生頭から離れることはないだろう大きな存在であるはずの“部屋”。2人で共に過ごした空間であり時間であり、それ以上のものであるはずの“部屋”だが、ジョイにとっての“部屋”と息子にとっての“部屋”は同じ存在とはならない。広い世界から隔離されて押し込められていたことを知るジョイにとっては忌まわしい空間となってしまったかもしれないし、息子にとってはそここそが世界のすべてであり、母との蜜月の塊であり、愛の詰まった空間なのかもしれない。普通の母子以上に密接なジョイとジャックが共有した空間でも、他者である2人の捉え方は違ってくる。

さらに本作を見ていると、息子が大きくなって「父親」に似てきたときに、ジョイはそれをどうやって受け入れようとするのだろうとも考えてしまった。ふとした表情や声変わり、体格など、いやがおうでも感じる瞬間は出てくるだろう。このことに関しても、ここまで過酷な関係性でなくても、子どもに父親の血を感じることは、母親にとって子どもは自分の血だけを引いた分身なんかじゃない、と改めて認識させられるものだ。

自分の中から生まれてきながらも、自分の分身ではなくれっきとした別人格の他者であり、と同時に守るべき存在でもある子ども。母親にとって子どもとの良い距離の取り方は難しく、いつでも誰にでも当てはまる正解は見つからない永遠のテーマなんじゃないだろうか。『ルーム』を見ながら、そんなことを考えていた。(文:入江奈々/ライター)

『ルーム』は全国公開中。

入江奈々(いりえ・なな)
1968年5月12日生まれ。兵庫県神戸市出身。都内録音スタジオの映像制作部にて演出助手を経験したのち、出版業界に転身。レンタルビデオ業界誌編集部を経て、フリーランスのライター兼編集者に。さまざまな雑誌や書籍、Webサイトに携わり、映画をメインに幅広い分野で活躍中。

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