PCを操るには複数の脳機能が必要(shutterstock.com)

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 今年3月、ヴァイオリニストの高嶋ちさ子さん(47)が、息子のゲーム機を「バキバキ」に折って壊した、という東京新聞コラムのエピソードが物議を醸した。

 9歳の長男が「平日に任天堂DSで遊ぶのは禁止」とのルールを破ったため、6歳の次男のものと合わせて2台を「バキバキ」に。真っ二つになったDSの写真も紙面に掲載され、「子どもへの虐待」などとネット上で批判が相次いだ。

 ゲームを巡る子どもの教育方針は、家庭用TVゲームの登場以来、保護者などを悩ましてきたテーマのひとつ。現代では、それに慣れ親しんできた大人たちもゲーム、ネットサーフィン、SNS......、PCやスマホ、デジタルデバイスといかに距離をとるかに頭を悩ましている。

 が、ゲームに溺れて勉学に障りのある児童や、日常生活が破綻した"ネトゲ廃人"ならいざ知らず、高齢者とPCの関係に限っては、電源オフまでの時間は長いほうがよさそうだ。

 どうも、昔に較べてPCをあまり触らなくなってきた気がする――。身近な高齢者にそんな感想を抱いたら、それは「アルツハイマー病の初期徴候」かもしれない。

 そんなPC使用時間の減少傾向と、脳細胞がゆっくりと死んでゆく変性疾患の関連性に着目した研究の報告が3月9日、『Journal of Alzheimer's Disease』(オンライン版)に掲載された。

 米ポートランドにあるオレゴン健康科学大学加齢・アルツハイマー病センターのLisa Silbert氏らの論文だ。

海馬の容積を左右するPCライフ

 この研究では、認知症やその他の思考/記憶障害の徴候がみられない男女(65歳以上)を対象に選び、各自のコンピュータの使用時間を記録した。加えて記憶に関する重要な脳領域として知られる「海馬」のMRI撮影を実施した。

 大脳側頭葉の内側部で側脳室下角底部に位置する海馬(hippocampus)。その容積減少は「アルツハイマーの徴候」としてよく知られている。

 一方、PCを操るには注意力・計画力・記憶力などの複数の脳機能が必要とされるのも周知の事実だ。また、現在の高齢層はPC第一世代として仕事や趣味の領域でもその文明の恩恵を浴びてきた人々だ。

 そんなOB世代も寄せる年の波で個人差はあるものの、オンラインで過ごす時間を一様に減らしてゆく。きっかけは定年退職や趣味の卒業など、その減少理由は十人十色だろうが、Silbert氏らの報告は「精神機能の低下」がひとつの可能性である点を示唆している。

 文字どおり寄せる年の波には勝てないわけだが、確かに「ネトゲ老人」の存在はあまり耳にしない。
寄せる年の波はキーボードで防ぐ!?

 良し悪しを別にすれば、PCと向き合える時間が長ければ長いほど若さの証明ともいえるのか。

 使用時間の記録とMRI撮影で解析した本研究でも、PCを1日あたり1時間長く使うと「海馬の容積が0.025%大きくなる」という関連が認められたという。

 PCを使ったリハビリ効果は、医学誌『Journal of Physical Therapy Science』に載った研究論文でも示唆された。これはアルツハイマー型認知症の患者35人を対象に、PCを週5回の頻度で1日あたり30分使ってリハビリに臨ませた。

 具体的にはPC画面上に絵やコトバを表示し、被験者が記憶した内容(=回答)をマウス操作で応えていくというもの。約4週間に渡るこのリハビリの結果、被験者間で単語やモノを記憶する成績の向上が認められたという。

海馬の容積も比例して減少する可能性

 厚生労働省の概算によれば日本人の場合、65歳以上の高齢者のおよそ7人に1人が認知症とみられている。予備軍の軽度認知障害(MCI)を含めれば4人に1人だ。日米間の事情格差は諸々あろうが、ポートランド発の研究対象が同じ「65歳以上」である点は看過できない。

 もっとも、今回の研究はオンライン時間と精神機能の関連性には迫ったものの、直接の因果関係を突き止めたものではない。だが、PCの使用時間が減ったぶん、海馬の容積も比例して減少する可能性にたどりついた。

 であれば、その関連性から「将来の思考や記憶低下の程度を予測しうるかどうか?」は今後の課題だ。Silbert氏らも「今回の被験者たちの追跡調査を行なう予定」と表明している。
(文=編集部)