NHK大河ドラマ「真田丸」(作:作三谷幸喜/毎週日曜 総合テレビ午後8時 BSプレミアム 午後6時)
4月3日放送 第13回「決戦」 演出:木村隆文


圧倒的な筆力


天正13年(1585年)に起った真田と徳川の戦い「第一次上田合戦」はこのうえもなくアクティブに描かれた。真田昌幸(草刈正雄)の立てた奇策に従い、上杉(遠藤憲一)の元から一時帰還を許された源次郎・信繁(堺雅人)が道化のようにコミカルに動いて、徳川軍をかく乱しまくる。真田よりも兵の数が多く有利なはずの徳川が、真田の罠にまんまとはまっていく小気味よさ。
ドラマ開始23分、今日も折り返しの時間あたりから、勇猛な太鼓の入った曲が鳴って、合戦がはじまる。
史実どおり「高砂」を謡いだし、対岸の敵を挑発する源次郎。全身をつかって六文銭の書かれた旗を振り回せば振り回すほど、生き生きとしてくる堺雅人。
これだけでも充分面白く見られるところを、三谷幸喜はさらに、梅(黒木華)の死亡フラグを立て、死んじゃう? だとしたら、いつ死んじゃう? の興味で引っぱる。前線で戦っている源次郎と、赤ん坊に授乳するために本丸と兄・作兵衛(藤本隆宏)が待機する寺を行ったり来たりする梅が、戦場でときどき交錯する。
戦のトリックと梅の行動を、二重螺旋のように絡めながら1本のドラマを編んでいる巧さはもはや巨匠級だ。さらにそこに六文銭のエピソードまで差し込んでいるのだ。数がすべてではないとはいえ、舞台、映画、テレビドラマと休むことなくたくさん描き続けているからこそ鍛えられた圧倒的な筆力。
圧巻なのは、梅の行動原理の軸を子育て(授乳)にもって来ていることだ。戦待機中に、乳が張って来たと赤ん坊の元に走るなんて、戦と育児の両立は、現代の仕事と育児を両立している女性よりも大変そう。

「高砂」は実際、上田合戦で謡われたということだが、11回で祝言のエピソードがあること、梅と源次郎の愛が描かれていることで、いっそう生きてくる。能という演劇的なものだからか、広々したところでロケしている爽快感からか、堺が水を得た魚のように躍動していて、見ているほうの体温も一気に上がる。舞台人は、たくさんのひとの中央に立って空気を凝縮させることがうまく、門のセンターに立った時の堺のハマり具合は最高だった。早稲田大学在学中から小劇場活動をしていた時代は、劇団のスター(小劇場界のプリンスと呼ばれていたことも)としてセンターに君臨していた堺。次第に、ハデにセンターに立つタイプの舞台よりも、演技重視の舞台のほうが増えていくが、劇団☆新感線「蛮幽鬼」(09年)のヒールでは、新橋演舞場の大きな舞台でけれん味を見せ、今回の源次郎の動きも、やはり舞台人としての出自を感じさせてくれた。

梅を演じる黒木華も舞台出身で、源次郎が倒れている梅を発見した時の、彼女の体の使い方は並大抵の表現力ではない。左足を曲げ、右足を伸ばし、動いている途中で倒れたのだ、最後まで生きようとしたのだろうと思わせる。黒木華は、高校時代から演劇部に所属、京都造型芸術大学在学中に、野田秀樹のワークショップに参加、09年「ザ・キャラクターズ」のアンサンブルとして出演、翌年には、野田秀樹、中村勘三郎の芝居「表に出ろいッ」の主要キャストに大抜擢され、以後、長塚圭史、蜷川幸雄、栗山民也、永井愛などの舞台に次々出演。山田洋次監督に起用され、ベルリン国際映画祭で銀熊賞受賞も凄いが、20代前半で、野田秀樹と中村勘三郎とがっつり共演することだってかなり凄いことなのだ。だからやっぱり、ちょっとした仕草に深みがある。
演劇人といえば、大泉洋も。北海道の大学生時代から劇団TEAMNACSの一員として活躍し、いまや、日本で最もチケットがとれない劇団になった。とにかく大きい赤坂ACTシアター(座席数1324)で明智光秀役を演じていたこともある。そんな大泉だから、やっぱり馬に乗って、たくさんの兵士を率いて出てきた時の空気感が力強い。

舞台出身俳優の活躍


昔は、テレビに出ると動きが大仰で浮くと言われていた舞台出身俳優たちが、昨今、こんなに大活躍しているのは、大画面テレビになって、ダイナミックな動きが必要になったからかもしれない。とりわけ時代劇では舞台人の演技は重宝される。
徳川軍で指揮を執っていた鳥居元忠役の大堀こういちも舞台出身。ナイロン100℃の前身である劇団健康の旗揚げメンバーで、退団後も、エッジの効いた舞台に数多く出演、音楽コントなどもやっている。4月22日からは「歌歌劇 市場三郎〜温泉宿の恋」に出演。
家康の内野聖陽も、14回以降、活躍しそうな豊臣秀吉役の小日向文世も、舞台出身俳優として、今後、どれだけ心奮わせてくれるか楽しみでならない。長澤まさみだって、三谷幸喜の舞台に出ているし、芥川賞もとった本谷有希子が作、演出した舞台にも主演しているのだ。

そんな長澤まさみ演じるきり。梅の赤ん坊を抱いて、泣いていたが、さんざん、梅ときりの女の騙し合いを見せられてきたので、源次郎のことを好きなきりは、これでチャンスが・・・と思っているのではと思えてちょっとこわかった。
三谷の練られた脚本が疑心暗鬼の気持ちを呼びながら、14回からはいよいよ新展開を迎える。

さて、本編終了後、「真田丸紀行」で、月窓寺(上田合戦で消失したのを信繁が再興した)が取り上げられたのは、ドラマでは、作兵衛や梅が戦う拠点にしていた場所ということだからだろうか。そう思うと、信繁が後に再興させたことが切ない。
(木俣冬)