「はじめまして。映画『蔦監督』を監督しました、蔦監督と言います……これがいいたいがために、このタイトルにしました(笑)」

発言の主は、映画監督・蔦哲一朗。高校野球界では知らぬ者はいない伝説の名将、蔦文也の孫である。

かつて「さわやかイレブン」「やまびこ打線」で高校野球に新風を巻き起こし、優勝3回、準優勝2回という“池田王朝時代”を築き上げた蔦文也監督。「攻めダルマ」とも呼ばれたその豪快な生き様の光と影にスポットを当てたドキュメンタリー映画が「蔦監督 高校野球を変えた男の真実」だ。


4月9日から東京・新宿K’sシネマでの上映がスタート。その初日舞台挨拶が同劇場で行われた。孫が監督、そして高校野球の理念にのっとっての無料公開といった話題性も手伝って立ち見客が出るほどの盛況ぶり。12時15分からの上映にもかかわらず8時から並ぶファンがいたというから、死して尚、その変わらぬ人気ぶりを示した形だ。

この日、登壇したのは蔦監督(孫の方)のほか、池田黄金期を築いたレジェンドOBである畠山準(元南海ほか)と水野雄仁(元巨人)。劇中音楽を担当した音楽家の新垣隆。さらには「高校野球大好き芸人」として知られるトータルテンボス・藤田憲右が応援に駆けつけ、蔦監督(野球の方)にまつわる思い出話で大いに盛り上がりを見せた。


あの時代って、うねりが凄いじゃないですか!?


「私、話は”ツタない“んですけれども、今日は“ツタある”話をさせていただきます」

この日、まず会場を沸かせたのは新垣隆のユーモアコメント。一方、トータルテンボス藤田は笑い無しの高校野球愛で熱弁を振るった

「僕が高校野球を見始めたのが小学4年、それこそKKコンビが1年生のとき。KKのPL学園を見て、『すごい高校があるんだな』と知ったわけです」

KKコンビ1年の夏、とは1983年。池田高校はそのKKコンビに準決勝で敗れ、夏春夏の3連覇、という大偉業を逃してしまう。劇中ではその試合映像も含め、当時の池田野球部に何が起こっていたのかを改めて振り返っている。藤田が興奮しながら話を続ける。

「あの時代って、うねりが凄いじゃないですか!? 1年生ピッチャーの荒木大輔(早稲田実業※1980〜82年)がいて、その荒木を打った池田の水野さん(※82年夏)。その水野さんから打ったKKコンビ(※83年夏)。わずか5年くらいの出来事だと思うんですけども、伝説ですよ」

そんな「伝説の高校野球史」を彩ったのが、この日のゲストである畠山準と水野雄仁だ。

「銀幕デビューということで、これからオファーが来ることをお待ちしています」(畠山)
「おばあちゃん(※蔦文也監督夫人)から『水野はん。哲一朗が何かやるみたいだから、手伝ってあげてね』といわれて、頑張りました。何年経っても、蔦先生の思いが語られるっていうのは嬉しいですね」(水野)


教え子がいつまでも越えられない大きな山


「おばあちゃん」の名が出たが、この映画は蔦監督のドラマであり、同時に蔦夫婦の物語でもある。劇中、蔦監督夫人の自由奔放な発言に、観客からは何度も笑いが漏れていた。

「あの夫婦じゃなきゃ、(池田野球部は)できなかったのかな、と。我々が想像を絶する苦労があって、はじめは負けてばかりだったんです。でも、畠山さんを見て『優勝できる』と思い、我々(の代)はその畠山さんがいたことで池田高校に進学しました。まあ、はじめは優しいおじいちゃんなんですけども、入ったあとは、私と畠山さんが一番怒られた二人なんじゃないかなと思いますね」(水野)


印象的だったのは、畠山・水野の二人が揃って「山」という表現を使ったことだ。

「映画を観て感じたのは、やはり蔦先生は大きな山だな、と。我々教え子がいつまでも越えられない大きな山だと思いましたね」(畠山)

「本当に映画になるのかな? とずっと心配していました。いろんな乗り越えなきゃいけない山があって、本当にその山を越えられるのかなと。ぜひ皆さん、(入場無料であるからこそ)カンパをしてあげてください」(水野)

この発言を聞いて思い出したのは、劇中でも紹介され、池田高校に石碑として掲げられている蔦監督の有名な一節だ。

《山あいの町の子供たちに一度でいいから 大海(甲子園)を見せてやりたかったんじゃ》

大きな山は、豊かな実りを生むこともあれば、高い障壁として外界との交流を阻むこともある。本作では、蔦監督をただ賞賛するのではなく、酒飲みで野球しか取り柄のなかった男によって翻弄された人々の姿もありのままに描いている。蔦監督の生き様を通して、「高校野球とは?」「監督のあり方とは?」といった命題を問いかけているようでもある。


東京・新宿K’sシネマ(※連日12時15分〜)での上映は4月15日(金)まで。以降、愛知・名古屋シネマスコーレで4月16日(土)から22日(金)まで。大阪・第七藝術劇場でも5月に公開予定となっている。高校野球の理念に則り、全て入場無料だ。

また、本作は上映会を開催できる行政、企業、個人についても募集中。上映方法や上映時期などについて、詳しくは映画「蔦監督」公式サイトでチェックを!
(オグマナオト)