山田孝之・初の著書はバカらしすぎて怖くなる。『実録山田』謎のヒット中
 山田孝之には、相反する魅力がせめぎ合っているように感じます。役者の業とも言える狂気を匂わせながら、道を踏み外すことはないだろうという、妙な安心感があるのです。

 してみると、エッセイとも妄想ともつかないグダグダ満載の『実録山田』も同様(2016年3月12日、ワニブックス刊。初の著書)。

◆山田孝之自身が言うとおり、読んでイライラしてくる

 山田自身は、本書についてこう語っています。

<ふざけているだけですけどね。(中略)最初からあったのは、読んでイライラしてきて、『なんだ、このくそったれ』って投げるんだけど、2、3秒考えて、『でもちょっと面白いから読んでみよう』って拾っちゃうような本にしたいということ。>
(雑誌「+ act.」2016年4月号 より)

 事実、本書の9割以上が、この「くそったれ」で占められています。

 たとえば、小学校時代に苦手だった国語の授業を振り返るときに登場する女性教師。その“退屈な幸の薄さ”を表現するために、山田はわざわざ彼女に成り切ってみせるのですが、それ自体が耐えがたい退屈に陥っている。

<このままこんな生活いつまで続くんだろう…教員免許をとった時はあんなに嬉しかったのに…(中略)
でもなぁ…人生は一度きり、あたしだって自分の生きたい様に生きたいもん…今日の朝『めざましテレビ』の占いビリだったなぁ…>(「学力」)

 以後、妄想は『めざましテレビ』から女子アナに移り、メジャーリーガーとの結婚、アメリカで起業に成功し、牧場を買い取って両親にA5ランクの肉を食べさせる、と展開していく。

 この何一つ読むべきところのない記述に3ページを要しているのですから、恐れ入ります。加えて、60ページにも及ぶ武井壮との対談「人間の弱点」を読み切るのは、もはや苦行。

 けれども、それは“スベっている”つまらなさというよりも、ファンをからかうことにすら飽きているかのような無内容なのですね。だから、いらだちつつも、どこか山田孝之の冷たいまなざしを思い出して怖くなってくる。

◆ガンで亡くなった「おじぃ」の思い出

 その一方で、沖縄の祖父を回想した「おじぃ」の文章に、愛おしさが凝縮されている。

 土地を売却したお金でラブホテルを建てた後、60歳で2000万円の借金をしてその改装に乗り出した、バイタリティーあふれる「おじぃ」。孫にかける言葉は、決まって「頑張りなさいね」。

 そんな祖父にガンが見つかる。山田と「おじぃ」最後の思い出は、こうつづられます。

<お別れの際、おじぃに顔を近づけると、おじぃは必死に口を動かして何かを伝えようとしていたが、耳をすませても何も聞こえず、「何? おじぃ。なんて言ってるの?」と問う僕に、おじぃは一生懸命話しかけ続けてくれた。結局おじぃの声を聞けないまま僕は東京へと帰り、その3週間後、おじぃは亡くなった。
(中略)
その時僕は病院でおじぃとお別れする時のことを思い出した。あの時もおじぃはきっと「頑張りなさいね」「頑張りなさいね」と、何度も何度も言ってくれていたんだなと思った。あの時それがわかっていれば、僕は素直におじぃに「ありがとう。頑張るね」と伝えられたのにと思ったし、僕が何度も聞き返すから、自分の言葉を伝えられないと、おじぃに悔しい思いをさせてしまったなと、最後の最後に大きな後悔が残ってしまった。>
(「おじぃ」)

 死者へ向けて真っ直ぐに悔いる姿に、山田孝之が愛される理由の一端を垣間見た気がします。

<TEXT/比嘉静六>