「李克強首相が中国政府の会議で、両手で机を叩いて、証券問題の担当者を怒鳴りつけるなど、怒りを爆発させたらしい」。上海駐在の日系金融機関の幹部がこのような小道消息(口コミ)を披露した。写真はCCTVで報道された全人代の李克強首相(筆者撮影)。

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「李克強(リー・カーチアン)首相が中国政府の会議で、両手で机を叩いて、証券問題の担当者を怒鳴りつけるなど、怒りを爆発させたらしい」。

上海駐在の日系金融機関の幹部がこのような小道消息(口コミ)を披露した。

中国では毎年、春節(旧正月)休暇明けの初日に国務院常務会議(閣議に相当)を開いている。今年は2月14日に行われたが、それが今回の現場となった。

当初決まっていた議題は中国独自の新薬の開発や流通、国際化などだったが、李首相は議題に入る前に、今年初めからの株式市場の混乱について「もっとしっかりと仕事をしろ」と怒鳴り、顔を真っ赤にして担当責任者を強く叱責したというのだ。

北京の政府系メディアの編集幹部は「いつもは温和な李首相としては極めて珍しいことだ。それだけ、怒り心頭に発したということだろう」と指摘する。

この原因は中国証券業監督管理委員会が株価の安定化を目的に導入した「サーキットブレーカー」制度が一切機能せず、逆に株式市場が大幅に下落。取引開始からわずか30分で取引が全面停止となるという前代未聞の事態を引き起こしたことだった。

これが世界同時株安の大きな要因となり、国際的にも中国の金融政策への信頼が大幅に失墜したのだ。

同委員会のトップである肖鋼(シャオ・ガン)主席は会議の1週間後、何の前触れもなく、突如解任されてしまった。一連の流れから考えると、このトップ人事には李首相の意向が強く反映されているのは間違いない。

後任には中国農業銀行の劉士余(リウ・シーユー)会長が就任したが、前出の編集幹部は「劉氏は肖氏同様、中国人民銀行副総裁を経験するなど金融政策の専門家だが、やはり肖氏同様、証券業界の門外漢であることには変わりない。今後も同じような事態が想定される」と悲観的だ。

同氏はこのように述べたうえで、「株式がだめなら、今後の中国の余剰資金がどこに流れるかが重要だ」とも語っている。

「株安」「原油安」という不透明な経済状況の中で、いま世界的に注目されているのが金相場だ。一時は1オンス1000ドル台で推移していた金相場だが、2月に入って1200ドルの大台を超えている。日本でも1グラム5000円に迫る勢いで、4月に入ってもこの状態が続いている。

この傾向は中国も同じだ。昨年末には1グラム220元(約3700円)だったものの、春節後には260元(約4400円)と値上がりした。「今後も上昇が期待できるだけに、今年の中国は『黄金時代』の再来だ」(北京紙「新京報」)との見方も出ており、金は緊急時に強いだけに、中国では熱い期待を集めている。

◆筆者プロフィール:相馬勝
1956年、青森県生まれ。東京外国語大学中国学科卒業。産経新聞外信部記者、次長、香港支局長、米ジョージワシントン大学東アジア研究所でフルブライト研究員、米ハーバード大学でニーマン特別ジャーナリズム研究員を経て、2010年6月末で産経新聞社を退社し現在ジャーナリスト。著書は「中国共産党に消された人々」(小学館刊=小学館ノンフィクション大賞優秀賞受賞作品)、「中国軍300万人次の戦争」(講談社)、「ハーバード大学で日本はこう教えられている」(新潮社刊)、「習近平の『反日計画』―中国『機密文書』に記された危険な野望」(小学館刊)など多数。