「そこから何かを作り出したい」IAMAS小林茂教授[1]:電子工作部列伝

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小林茂さん(情報科学芸術大学院大学 [IAMAS] 教授)

2013年8月に最初のEngadget電子工作部がスタートして、今年で4年目。さまざまな人、多種多様なものが出会い、確実に"何か"が生まれています。このシリーズでは「電子工作部列伝」として、電子工作部にまつわる人たちに登場してもらいます。

第1回は"この人がいなくては始まらない" IAMAS小林茂教授です。小林さんの活動は非常に多岐にわたるのですが、ここでは電子工作部のはじまりやその流れを通して広がっている動きについて、さらに小林さんが、いま"この先"として考えていることなどを中心に話を聞きました。

まず[1]では、電子工作部のはじまりや活動、イベントとしての位置づけについてお聞きします。

「そこから何かを作り出したい」IAMAS小林茂教授:電子工作部列伝

「誰か一人ががんばればいいというわけではない」IAMAS小林茂教授:電子工作部列伝

「IoTの領域はもっと広がっていく」IAMAS小林茂教授:電子工作部列伝

ワークショップではない、参加型のイベントとしての設計

Engadget電子工作部を初めて実施したのは2013年8月。当時、初対面の人たちがチームを組んでプロトタイプを作るという参加型のイベントはまだまだ珍しく、プロトタイプとはいえ、短期間で形にすることができるのか、主催側にとっても手探りのチャレンジだったといいます。

小林: そもそも、なぜそういう活動をやりたいのかというところでは、鷹木さん(Engadget Japanese 編集長)から「メディア自体がオリジナルなプロダクトを生み出すということをやってみたい」という野望を聞かせていただいて、そこに共感したのがきっかけでした。メディアであれば、最終的な成果物だけでなく、参加者のみなさんが取り組むプロジェクトとして途中のプロセス、経過を取り上げることができるので、そこへの期待もあったと思います。

ただ、当初からファンイベントみたいな感じでもなく、単なるプロモーションでもなく、そんな中からプロダクトが生まれてくるみたいなことが起きたらいいよねということは話していました。
小林さんは、この2カ月前の2013年6月にロフトワークのOpenCUで「konashiメイカソン」を行っています。実は、Engadget鷹木編集長と何かこういう活動をしたいよねと話をしていた野崎(錬太郎)さん(ディレクターとして現在も電子工作部の活動に関わる)がこのメイカソンに参加しており、「ぜひ、これを続けていきたい!」ということだったそうなのですが、そもそも、どうしてkonashiだったのでしょうか?

ご存知のように、konashiはBLE(Bluetooth Low Energy)で通信可能なモジュールを搭載した基板と開発用SDKで構成されるツールキットです。

2013年のその時点でkonashiというと、おそらく発売されたばかりという時期。iBeaconを標準搭載したiPhoneのiOS7の正式リリースが2013年9月、Bluetooth Low Energyがキーワードとして注目を集め始めたころでしたが、「スマートフォンと通信するデバイス」なんて、まだまだ認知が及ばない状況でした。

小林: 当時は、いまほどIoTという言葉が浸透していたわけではありませんが、パソコンにつないでインタフェースを拡張するというところに留まるのでなく、もっと実際の生活、活動する場面に近いところで何か新しいものをつくりたいと考えていたんです。そう考えたとき、やはりスマートフォンとつながることができる何かみたいなものが一番いいんじゃないかなというのがあったんです。

OpenCUでやってみてkonashiというツールでいけるなという感触もあったので、同じメンバーで、さらに改良を加えつつ、実際に製品を出すところまでいけたらいいよねということはありましたね。
当時、konashi以外にもブルーギガ(旧名、現シリコン・ラボラトリーズ)の独自スクリプトが動くモジュールや評価キットなどがありましたが、それらはツールキットとして完成度が必ずしも高くありません。誰にでもすぐに使えるかというと難しく、参加者にとってハードルが上がることになります。また、小林さんは「技術的に自由度が高いということは、短期間でものを作る場合に参加者の興味によってブレてしまう可能性がある、自由度が高すぎるゆえに何も決まらないということになりかねない」と言います。

小林: セミナーみたいに、そこに来て何か新しい知識を得て「勉強になりました、ありがとうございました」と帰るのではなく、短期間だけど、そこに来ている人と一緒にものを一緒に作るということに重きをおいています。

求めるアウトプットの像をIoTに置いていたというのはあります。"もの"の部分だけで完結してしまうと、プロダクトデザインをやる人、電子回路をやる人、組み込みのソフトウェアを書く人、機構を作る人だけで完結してしまうのですが、IoTというとネットワークサービスまでつながっていく。すると、スマートフォンアプリやフロントエンドのエンジニアやデザイナー、バックエンドのエンジニアなど幅広いスキルが必要で、それを統合して全体のサービスとしてどう設計するんだということになります。とても一人では完結しないものになっていく。

参加する前は、みんなそんなこと不可能だと思っている人もけっこういたと思うんです。そもそもコラボレーションするって非常に難しい。できたとして、発表のときにお茶を濁す程度のものしかできないんじゃないかって思っていた人もいて。それが、予想以上のクオリティでみなさんがどんどん作り上げていくというのが見えてきたこともあって、途中からはわりと自信を持ってできるようになりましたが、1回目は本当に手探りでした。

スポンサー+参加者、それぞれのメリットのバランス

初回の手応えをさらに発展させる形で、第2回を岐阜県大垣市で開催します。大垣では、大垣側(ソフトピア)のイベント予算を使いつつ、第1回と同じような持ち出しに近い感じでした。そして、それ以降はスポンサードで、という形をとるようになっていきます。

小林: 2014年の2月末〜3月にかけて大垣でやって、同じ月にIntelのGalileoを使って東京で電子工作部をやっていると思います。ほぼ同時期に第2回、第3回という感じに動いていたと思いますね。

1回目は実績を作らないといけないので、持ち出しでというのは仕方がないとして、ずっとそれだと継続できないので。あとやはり、限られた期間で初めて会った人同士がちゃんと動くものを作るというのが、ほっといてできるものではない。それが実際できているという実績を見て、いろいろな企業の方がじゃあうちでやってほしいというのを持ってこられるということを聞いています。
イベントにスポンサーを入れる場合、ちょっと難しいなと思うのは、スポンサーの意向、参加者のメリット、運営側のポリシー、それらをどううまくバランスさせるか、という点です。それぞれ立場が違うわけで、当然、それぞれの思惑が一致しないことのほうが多いでしょう。そのあたりの設計が失敗すると、関わったみんなが不幸になるという結果に終わってしまうこともあります。

課題やテーマの設定に関わってくることでもありますが、一番、重視しているのはやはり参加者のメリットだと言います。

小林: 基本的にEngadgetというメディアの読者が参加するということでもあるので、その人達が参加して嫌な思い、損な思いをしたり、二度と関わりたくないと思ったりするのが一番ダメだと思うんです。そこは重視しています。

主催者、スポンサーとして入ってもらう方に、そこが持っているツールを使いたいとか明確な意思がある場合もあれば、何かたくさんの人に参加してもらうようなイベントをしたいが明確にはプランがないという場合もある、と結構いろいろなんですが、スポンサー側の意向も聞きつつも、参加してくれる人にメリットがあるようにしようというのは重視してやっているところです。
参加者のメリットという意味でも、提供する技術、ツールについての対応はきちんとできるように、何かトラブルが起きたらそれに対応できるサポートの体制にも重視していると言います。あくまでワークショップやハンズオンという形式ではないのですが、「参加者が何かトラブルが起きたとき、わからないままというのはおもしろくないことになってしまう」ので。

ツールについて熟知した、技術的なフォローのできるサポートエンジニアに来てもらう場合もあったり、これは本当に"トラブル対応"ですが、担当していた参加者が病気で来れない場合にその部分のコーディングに主催者側のメンバーが入ってサポートしたといった例もあります。


適切なルールで--「ハッカソン/メイカソンの参加同意書」

現在、電子工作部だけではなく、こうしたものづくり系のイベントにおいて、かなりの頻度で使われている「ハッカソン/メイカソン参加同意書と終了後の確認書およびFAQ」。小林さんがクリエーターの立場をよく知る水野祐弁護士とまとめたものですが、実は第1回を終えて、第2回を大垣で開催しようというタイミングで作成することにしました。

小林: 第1回の中で出てきたものを事業化してみたいと思われた人がいて、短期間とはいえ、いろいろなスキルを持つ人達が集まって出てきた知的財産をどうやって扱えばいいかというのを深刻に考えなきゃいけない時期だなって思ったんです。

人によってスタンスが違うので、そのまま製品になることはないから別にそんな取り決めはいらないという方もいて、それも理解できます。でも、一方で、出てきてから決めましょうとしてしまうと、ケースバイケースになってしまって決めるだけで非常にコストがかかるので、最初に決めておく必要があるだろうということになったんです。
大垣で開催する2回目を対象にはするが、テンプレートとして公開しようという話は最初から水野さんとしていたそうです。テンプレートとして公開するという考え方のもとになったのは、YCAMの「GRP Contract Form」。成果のオープン化を前提とした共同研究開発のための契約書類の雛形で、GitHub上で公開・開発しており、オープンソースのコードと同じように改変や派生物が作成できます。このGRPも水野さんが担当しています。

テンプレートとして公開するので、自由に使ってください--とすることで適切なルールでハッカソンが開催されるようになってほしいという思いがあったといいます。

小林: 最近はほぼなくなってきましたが、当時は企業側だけの論理でやってしまうイベントが結構ありました。出てきた権利は全部企業側で、何か問題が起きたら全部参加者側で責任をとりなさい、とか。そうすると、力を持っているクリエイターが参加しようと思っても、こんな条件じゃできないよねというのが起きてしまったりする。

そうじゃない方法を採りましょうと、こういうテンプレートを提示するというのは、幸いIAMASが企業でも参加者でもなく、ある意味中立なのでやりやすかったというのがあります。

企業側が出した条件に参加者が同意するという力関係なら、企業の法務部門も納得がしやすいですよね。参加同意書という形式をとっておきながら、そこに書かれているのは企業が知的権利を独占するのではなく参加者にあるよ、と。参加者に対しても、そもそもアイデアは権利では保護されないからねと。これは、トリックといえばトリックなんです。いまある、いろいろな契約のやり方をハックしている感じではありますかね。こうした基本的なアイデアを基に、法律の専門家である弁護士に入ってもらって実現したということになります。

「協賛企業から強い要望があればハッカソンとつけますが、そうでない場合はあえてそういう言い方はしない」という小林さん。ハッカソンという言葉の定義に幅があり、どういうものかがわかりにくくなってしまうと言います。

いま、ものづくり系のハッカソンは"原始ハッカソン"とは違うものといった声や、ハッカソンイベントにまつわるトラブルなども表面化しています。ただ、多くのトラブルはハッカソンにベースがあるものではなく、どのコミュニティにも起こり得ることなのだと思います。実は呼び方は何でもよくて、大事なのは、それで何をしたいのか、何を起こすかということなのでしょう。

続いて[2]では電子工作部の中身の部分、アイデアスケッチやプロトタイピングへの流れをどう設定しているのか、お聞きします。「そこから何かを作り出したい」IAMAS小林茂教授:電子工作部列伝

「誰か一人ががんばればいいというわけではない」IAMAS小林茂教授:電子工作部列伝

「IoTの領域はもっと広がっていく」IAMAS小林茂教授:電子工作部列伝

大内孝子(おおうち・たかこ):フリーライター/エディター。主に技術系の書籍を中心に企画・編集に携わる。2013年よりフリーランスで活動をはじめる。IT関連の技術・トピックから、デバイス、ツールキット、デジタルファブまで幅広く執筆活動を行う。makezine.jpにてハードウェアスタートアップ関連のインタビューを、livedoorニュースにてニュースコラムを好評連載中。著書に『ハッカソンの作り方』(BNN新社)がある。