WEEKLY TOUR REPORT
米ツアー・トピックス

 PGAツアーの選手には"人生を変える出来事"というものがある。

 シェルヒューストンオープン(3月31日〜4月3日/テキサス州)でツアー初優勝を飾って、今季メジャー初戦となるマスターズ(4月7日〜10日/ジョージア州)の出場権を最後の最後で手にしたジム・ハーマン(38歳/アメリカ)にとって、この勝利はまさにそのひとつだろう。 

 そんなハーマンには、過去に今回の優勝にも関わる大きな出来事があった。それは、ある人との出会いである。

 ハーマンは20代の頃、何度挑戦してもPGAツアーの2次予選会を突破できなかった。そのため、当時の彼はフロリダ州のミニツアーを転戦していた。そんなある日、ニュージャージー州の、とあるゴルフコースに勤務していた友人から仕事の誘いがあった。

 そのコースは、トランプ・ナショナルGC。何を隠そう、現在アメリカ大統領選の共和党の候補者として名乗りを挙げている、あのドナルド・トランプ氏が所有するゴルフ場だ。

 ハーマンは、そこでクラブプロとして働くこととなり、しばらくしてトランプ氏と出会った。ふたりはすぐに打ち解けて、その関係はオーナーとクラブプロというものから、たちまち友人へと発展し、ふたりで頻繁にラウンドを楽しむほどの間柄になったという。

「ドナルドは、名もないボクの才能を信じてくれた。彼は、プロアマで多くのプロとプレーしているから、彼の言葉には説得力があった。あるとき、彼はボクのために小切手まで切ってくれて、経済的にも支援してくれた。PGAツアーに参戦することはほとんど諦めかけていたけれど、おかげで、2007年についに2次予選を突破することができたんだ」

 シェルヒューストンオープン優勝後のインタビュー、ハーマンは当時のことを振り返って最後に言葉を詰まらせた。

 とはいえ、トランプ氏の支援のもと、2008年からPGAツアーのメンバーになったハーマンのゴルフ人生が、その後も順風満帆だったわけではない。

 2014年にはツアーカード(シード権)を維持できず、下部ツアーであるウェブ・ドット・コムツアーのファイナルズを戦っている。そうした状況にあったハーマンは、夕食時に妻の肩に手を置きながら、「もう、ゴルフをやめたほうがいいのかもしれない」と泣いた夜もあったという。

 それでもハーマンがゴルフをやめなかったのは、その妻がずっと献身的に支えてくれていたからだ。さらに、トランプ氏がハーマンのことを見捨てることなく、サポートし続けてくれたことが大きかった。

 トランプ氏は、機会があればハーマンの応援に駆けつけた。この勝利のおよそ1週間前にも、ふたりは一緒にラウンド。トランプ氏は多忙に関わらず、ハーマンを激励してくれたそうだ。それが、今回の優勝につながったのかもしれない。

「カジュアルなラウンドだったけど、ボクは8アンダーで回った。ドナルドの言葉は、いつだってボクに大きな自信を与えてくれる」(ハーマン)

 そして、いよいよマスターズに挑むハーマン。初出場となる今回が初ラウンドと思われたが、実は昨年の11月末に彼は会場となるオーガスタ・ナショナルGCでラウンドしているという。

 トランプ・ナショナルGCで働いていた頃にトランプ氏を通じて知り合った、友人でビジネスパーソンでもあるジェイ・ハースという人物が、ハーマンのためにオーガスタでのプレーをアレンジしてくれたのだ。その日のラウンドについて、ハーマンはこう語った。

「その日は18番でボギーを叩いたけど、1アンダーだった。11月だというのに、グリーンはとても速かった。そしてハース氏には、『マスターズに出る日のための練習ラウンドだ。決して一生に一度のプレーにしないように』と言われた。今回、その言葉に報いることができてよかった」

 トランプ氏のバックアップを受けて、ツアー初優勝を遂げ、マスターズの出場まで果たしたハーマン。大統領選では過激な発言で世間を騒がせているトランプ氏だが、政治的なことはさておき、こんな一面があることは、日本ではあまり知られていないだろう。

 ハーマンにとって、トランプ氏との出会いは、まさに人生を変える出来事だった。そしてマスターズ出場が、さらに彼の人生を変える大きな出来事になればいい――優勝に歓喜するハーマンの姿を見て、そう思わずにはいられなかった。

武川玲子●文 text by Takekawa Reiko