監禁されていた母と息子の勇気に大感動。アカデミー賞主演女優賞受賞作『ルーム』は生きる力を与えてくれる【最新シネマ批評】

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[公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画のなかから、おススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。

今回ピックアップしたのは、主演のブリー・ラーソンがアカデミー賞主演女優賞を受賞した『ルーム』(2016年4月8日公開)です。

監禁されていた母と息子の毎日と、命を懸けて脱出したあとの生活を丁寧に描いたこの作品は、ブリーの熱演だけでなく、作品そのものも高く評価されています。誘拐され、7年も監禁されたヒロイン……と書くとスキャンダラスに聞こえますが、この映画は5歳の息子の視点で描かれており、見えてくる世界は、想像とは違うのです。

では、映画『ルーム』が描く世界を見ていきましょう!

【物語】

主人公の男の子、ジャック(ジェイコブ・トレンブレイ)は5歳の誕生日を迎えます。ママのジョイ(ブリー・ラーソン)は、ジャックにケーキを作りますが、そのケーキはシンプルで5本のろうそくはなく、それどころか、この部屋には最低限生活できるものしかないのです。

狭い部屋の窓は天窓だけ。ジャックは生まれてから、この部屋から外に出たことがありません。テレビ番組とママとの会話で言葉を学んでいますが、空も海も木も鳥も、何もかも見たことがないのです。

なぜなら二人は監禁されているから。しかし、二人にその監禁生活から脱出する機会がやってきて……。

【監禁生活のその後も描く】

日本でも、2年間監禁されていた少女が脱出して無事保護された事件がありました。その2年間に何があったのか、なぜ逃げられなかったのかに大きな関心が寄せられています。

確かに犯行の動機や背景、状況を知ることは大切なのかもしれませんが、監禁されていた被害者が今後どのように生きていくのか、家族や周囲の人はどう接していくのか、被害者がどうやって乗り越えていくのか……という、脱出後のことは明確にされていません(できないのかもしれませんが)。

この映画では、監禁されていた時間と脱出後の時間、その両方を丁寧に描いています。それも、生まれてから一度も外へ出たことがない5歳の少年ジャックの目を通して描いているのです。

【清らかな二人の世界と厳しい現実】

監禁部屋という犯罪めいた響きの部屋が、少年の視点で描かれることで不思議な空間に見えてくるのが、この映画の最初の驚きです。ママとジャック、二人だけの世界は、貧しいけれど清らかなのです。

その清らかな世界を打ち破るのが、オールド・ニックという男。その男こそ、ジョイを誘拐した男なのですが、幼いジャックは何も知りません。この描き方も素晴らしいです。清らかな二人だけの世界から一瞬にして現実の悪夢に引きずり込む感じ。物凄い嫌悪を誰もが感じるでしょう。

【小さな部屋から広い世界へ】

ママのジョイが脱出に積極的になるのにはある理由があり、二人は脱出計画を実行に移します。しかし、二人は脱出してからの世界でも、たくさん戸惑い悩むことになります。それは周囲の人々も同じ。ジョイがいなかった7年の間に、家族も変化していました。彼女は元の家庭に戻れると思っていますが、それは叶わないのです。

そして外の世界に出たジャックは、小さな部屋からいきなり大きな世界へ出て、初めてママとオールド・ニック以外の人間に会い、空や木や道の存在を知るのです。テレビの中だけだと思っていたものが、目の前に現れたときの彼の驚きや戸惑い。ジャックを演じたジェイコブ・トレンブレイはブリーに負けない名演で、ジャックの変化を見事に体現しています。

ジェイコブを抜擢したレニー・アブラハムソン監督はこう語っています。

「ジャック役は演技ができる子が必要だった。ジェイコブはひときわ目立っていたんだ。彼との出会いはカジノで大金をあてたような気持ちだったよ。天井からキラキラと光が落ちて来たようだった」

と語っています。

もちろん、ジョイを演じたブリー・ラーソンについても絶賛しています。

「もし、ブリーをキャスティングできなかったら、この映画は今ある姿になっていなかっただろう」

【成長する二人】

二人が自分たちが経験した過去と今ある現実とどう向き合っていくのかが、この映画の核です。ブリーはこの映画について「人の成長を描いた作品」と語っていますが、確かに成長です。ジョイは失われた7年に苦しみますが、これからの人生を見つめる力を得ようと努力します。

そしてジャックは、愛する人はママだけだったけど、自分を愛してくれる家族がほかにもいて、ジャック自身の中に情が芽生え、人生の歩みを進める力が生まれて来るのです。

映画『ルーム』は、一度見たら忘れられない映画です。何かに悩んだり苦しんだりしたときに思い出したくなるかも。観る人を選ばず、生きる力を与えてくれる作品なのです。

執筆=斎藤 香(c)Pouch

『ルーム』
(2016年4月8日より、TOHOシネマズ新宿ほか全国ロードショー)
監督:レニー・アブラハムソン
出演:ブリー・ラーソン、ジェイコブ・トレンブレイ、ジョーン・アレン、ショーン・ブリジャース、ウィリアム・H・メイシーほか
(C)Element Pictures/Room Productions Inc/Channel Four Television Corporation 2015

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