「フロア340」にある「SKYTREE CAFE」は丸々氏お気に入りの休憩スポット

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秋の月見や夏の花火など、日本には古くから「夜の景色」を大切にする文化がある。近年、高層ビルやタワーの発展で、より高い目線から夜景を楽しめるようになり、2012年に完成した東京スカイツリーの展望台「天望回廊」の登場で、その視点は一気に450mにまで達した。

【写真を見る】夜景に関するパイオニアでもある夜景評論家、夜景プロデューサーの丸々もとお氏

そんな日本最高高度の展望台から望む夜景の魅力や見方のポイントを、夜景観光コンベンション・ビューローの代表理事を務める、夜景プロデューサーの丸々もとお氏に聞いた。

――日本にはさまざまなビルやタワーがありますが、そこから見える夜景の特色を教えてください。

「親しみやすい高さのタワーの代表が、94mの展望台を持つ横浜マリンタワー。この高さからは横浜ベイブリッジや氷川丸など、有名なランドマークを見つけるという「知識や頭を使う楽しみ」ができます。一方、200mを超える展望台を持つ東京タワー(特別展望台=250m) や、横浜ランドマークタワー(展望フロア=273m)からの眺めは、なじみ深い建物が風景に溶け込み始め、街を流れる川などの地形に興味を引かれるようになります」

■ 展望台がタイムマシンになる高さとは?

――高くなれば高くなるほど、より日常から切り離された気持ちになりますよね。

「そうなんです。300mを超えると急激に非現実感が増すのです。東京スカイツリーには、340mから450mまであわせて5層の展望スペースがありますが、そこから目に入る景色は人間の本能に直接働きかけるような力を持っていますね。東京にいるという感覚すら無くなって、広大な星空や抽象絵画を眺めているような気分にさせてくれます」

――その街の個性や特徴が薄まり、どこか海外の街にも似て見えるような気がします。

「面白いのは、見た目の特徴が薄まると同時に時間の尺度や感覚も超えてしまうこと。東京スカイツリーの「天望回廊」に立つと、ふと過去のことを思い出したり、逆に遠い未来に思いを馳せたくなる。開業以来、ここには何度も足を運んでいますが、タイムマシンのように記憶の中を旅することができる稀有な場所だと来るたびに実感します」

――首都圏で暮らしたことのある人なら、必ず自分の過去に関係する場所が目に入ります。

「都内はもちろん、埼玉、千葉、神奈川の県境を360度見渡せるので、街の明かりや列車の流れをぼんやり眺めていると、忘れかけていた記憶の一つ一つに光が当たる。良いことも悪いことも蘇ってきて、嬉しさや心地よさだけでなく、悔しさや恥ずかしさなどがダイレクトに迫ってきて、心に染みこんでいく。自分の存在と向き合って過去の記憶を受け入れることで、前向きな気持ちになれるんです」

――そういう非日常的な感覚を都会にいながら得られる機会はなかなかありませんね。

「駅の改札から数分で、450mの高さから大都会の夜景を見下ろせる場所へ来ることができるのはすごく贅沢なこと。パートナーや家族と感動を共有するものはもちろん、一人で夜景を眺めながら自分と向き合う時間も悪くない。夜景を堪能して地上に降り立つころには、かけがえない思い出が胸の中に生まれているはずです」

地上450mという非日常の風景を楽しませてくれる東京スカイツリーの展望台。晴れ、雨、曇り…天候によってもそれぞれの魅力を体感できる唯一無二の夜景スポットで、自分のお気に入りの風景に出会う時間を過ごしてはいかがだろうか。【ウォーカープラス「夜景時間」/取材・文=杉山元洋】