左から、橋田氏、佐野氏、青忙

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2016年3月30日、「健康とデザイン」をテーマに、Aging Styleとグッドデザイン賞のコラボレーショントークイベントが開催された。第1回となった今回は、「歩行と姿勢のデザイン」がテーマ。

歩行と健康に関する研究を進める東京都健康長寿医療センター研究所の青胗幸利氏、歩行支援機「ACSIVE (アクシブ)」を開発した佐野明人名古屋工業大学教授、グッドデザイン賞審査委員を務めてきたプロダクトデザイナー橋田規子氏、3者による興味深いトークセッションで、30人限定だった会場のGOOD DESIGN MARUNOUCHIは満席となった。

広がる「活動量を増やすデザイン」

青胗氏は、自身が群馬県中之条町で、65歳以上の全住民5000人を対象に2000年から実施している「中之条研究」の成果から、健康長寿の実現には生活習慣の改善、特に「足腰が丈夫である」こと、つまり、歩行能力の重要性を力説した。

例えば、日本の横断歩道は「1メートルを1秒」で歩けることを前提に信号の時間が設定されているが、横断歩道を青信号のうちに渡りきれるかどうか(1メートル1秒以内で歩行できるか)で、認知症予備軍かが判断できるという。なぜ歩行からそこまでわかるのか。

中之条研究では、対象者に加速度センサー付きの身体活動量計を配布。身体活動に関する客観的なデータを365日24時間収集している。これにより、客観的な身体活動の「量(歩数)」と「質(運動強度)」のデータと、健康状態の関係性が分析できたのだ。

病気予防や健康長寿に最も効果的な、歩行の具体的数値までわかっている。「1日8000歩、そのうち20分は中強度活動」だ。

20分間歩き続ける必要はなく、5〜10分の積み重ねで問題ない。中強度は、歩きながら会話はできる程度の「早歩き」にあたるが、そのスピードは個人の体力や年齢によって変わるため、身体活動量計などを利用し、自分に最適な歩行をする必要があるだろう。

また、自立歩行はできるが、加齢によって質も量も低下してしまった高齢者にとって、「ACSIVE」のような歩行支援機の存在が欠かせないと、青胗氏は指摘した。

「身体活動量を増やすデザインがなされた機器や装置が、ようやく社会に広がりつつあります。今後は、もっと大きな部分のデザイン、自然に歩行を促す家や都市など、環境のデザインも求められるようになるでしょう」(青胗氏)

自分の足で自分の歩行をサポートする

佐野教授は、ロボティクス分野で従来の重心移動制御による歩行ではなく、歩行の際に自然と生じる、前に出ようとする物理現象「受動歩行」を研究してきた第一人者だ。

受動歩行ロボットは、モーターによって力任せに足を動かすのではなく、自分の作り出すエネルギーの余剰を前進する力に変換し、自然に歩いている。「歩かされているのではなく、歩こうという意志のもとに歩いているとすら感じる」と、佐野教授は表現する。

歩行は、それほど大きなエネルギーを必要とせず、むしろエネルギーをうまく再分配して機能している、非常にシンプルな行為。無動力の受動歩行ロボットが、自然に歩けるのも、その一例といえる。

ACSIVEもこの考えに基づき、最少の力で人間の歩行をサポートするように設計されている。

実際にACSIVEを装着してみても、付け心地は軽く、歩き出しても「足が動かされている、サポートされている」というようなパワーも感じないが、アンクルウェイトをつけてみると、はっきりと違いが感じられる。重くなったはずの足にまったく重量感がなく、踏み出すごとに、より前に出ようとするのだ。

「システムに人が依存しすぎない、自分の足で自分の歩行をサポートすることが重要だと考えています」(佐野教授)

橋田氏も、ACSIVEのシンプルなデザインやコンセプトを称賛しつつ、感性工学の視点から、ACSIVEのデザインに曲線を取り入れることを提案した。

「人間の体には完全な直線という部分がありません。歩行という人にとって基本的でありながら大切な動作をサポートするものだからこそ、外観的にも、体にフィットするという意味でも、曲線が合うように感じました」(橋田氏)

(Aging Style)