監督就任から1年が経った3月のW杯アジア2次予選は、ハリルホジッチ監督の変化や進化を感じられる試合だった。

 象徴的だったのが2トップを採用したことだ。これまで対戦相手のレベルにかかわらず、フォーメーションは4−2−3−1や4−3−3に固執してきた。中盤の組み合わせを変えることはあっても、岡崎慎司や武藤嘉紀を1トップに据えて戦うスタイルは変えなかった。

 それが、3月24日のアフガニスタン戦では、本田圭佑や香川真司のコンディションを考慮して欠場させたこともあるが、初めて2トップを採用して4−4−2の布陣で臨んだ。岡崎と金崎夢生に2トップを組ませ、中盤をダイヤモンド型にして、トップ下に清武弘嗣、左MFに柏木陽介、右MFに原口元気、ボランチに長谷部誠を据えた。

 中盤の構成は本田、香川の起用や、対戦相手の実力に応じて変える余地を残しているが、今後、日本代表を待っている戦いを見据えて、新たな可能性を探るものだった。

 日本代表のストロングポイントは中盤の選手層の厚さにある。攻撃的ポジションには本田、香川を筆頭に、原口や清武、宇佐美貴史らがいて、今回は代表に呼ばれなかった乾貴士やU-23代表の南野拓実など、特長の異なる豊富なタレントが揃っている。こうした選手たちに相手ゴールに向いた状態でボールを持たせる。これが日本代表の攻撃にとっては最も大切なことだ。

 1トップの場合、4−2−3−1にしろ、4−3−3にしろ、中盤の選手たちを数多くピッチに立たせることができる。そして、試合では1トップにボールを当てて、中盤やサイドの選手たちが1トップの後方から相手ゴールに向かって走りながらボールを受け、素早いパスやドリブルで攻撃を展開していく。こうした日本代表のストロングポイントを生かした攻撃をするために重要になるのが1トップの選手だ。

 1トップは世界最先端ではスタンダードなスタイルであるが、それは1トップを張れる高さや強いフィジカルを備えた選手がいるからこそ可能なことでもある。日本代表の場合、岡崎にしろ、武藤にしろ、決してフィジカルに恵まれているとはいえない。対戦国のレベルが上がれば1トップとしてポストプレーの役割を果たせないケースも想定される。ここが機能しなければ中盤からの押し上げにはつながらず、タレントが豊富な日本代表の中盤は宝の持ち腐れになってしまう。

 2トップの場合、4−4−2なら中盤に起用できる選手数は減るものの、個々のフィジカルで劣っていても、ふたりのFWが連携することで前線に起点を作れる。アフガニスタン戦でハーフナー・マイクがクロスを折り返して金崎がゴールに押し込んだシーンのように、相手ゴール前にFWがふたりいれば、クロスのターゲットが増えるという利点もある。

 また、2トップならどちらかが中盤に下がった時に、もうひとりがDFラインの裏を突く動きをしやすいというメリットもある。これは岡崎や小林悠など、こうした動きを得意とするFWにとっては、1トップの時よりも特長を生かしやすいと言える。

 このように1トップと2トップには、それぞれにメリットがあるが、いずれも日本代表のストロングポイントを最大限活用するためのアプローチの違いに過ぎない。どちらが日本代表に合っているという問題ではなく、対戦相手や試合展開に応じてどちらも使えるように準備しておくことが重要だ。

 ただ、これまでのハリルホジッチ監督は自らの思い描くフォーメーションを優先し、そこに選手たちをハメ込もうとする印象が強かった。しかし、監督がこの1年で選手たちの特長を把握し、選手の個性が最も生きる効果的な組み合わせを探ろうとしていることで、アフガニスタン戦を2トップで臨んだように感じた。

 ハリルホジッチ監督の変化やチームの進化は、アフガニスタン戦の試合中にも見られた。試合が中断した時に、これまでならピッチサイドに選手を呼び寄せて監督が指示を出していたが、アフガニスタン戦ではGKを含めた選手全員が集まって意見を交わすシーンがあった。選手たちの自主性を尊重したのは、ハリルホジッチ監督が日本代表を率いた1年間で、日本人特有のメンタリティをつかんできたことの表れでもある。

 これまでは、海外クラブや各国代表を指導する際に使ってきた "ハリルホジッチ流"を押し通したことで、日本代表では彼の強いメッセージが選手たちを萎縮させ、結果的に日本代表から柔軟性を奪っていたと気づいたのだろう。

 こうした変化は、今後の日本代表にとって大きな意味がある。サッカーについての見識や手腕、実績は申し分ないハリルホジッチ監督が、日本代表を率いるうえで欠かせない日本人特有のメンタリティを理解する姿を見せた。そのことで、その指導力がこれまで以上の効果を生む可能性が高まったと思うからだ。

 9月1日からホーム&アウェーで行なわれるW杯最終予選で4つの出場枠を争う国が出揃った。サウジアラビア、UAE、オーストラリア、カタール、中国、イラン、シリア、タイ、イラク、韓国、ウズベキスタン。12カ国が6チームずつに分かれた長丁場の戦いを勝ち抜くため、ハリルホジッチ監督が日本代表チームをどう作っていくのか。高い関心をもって注視していきたい。

福田正博●解説 analysis by Fukuda Masahiro