インディカー・シリーズの第2戦はアメリカの南西部、砂漠の中のアリゾナ州フェニックスで行なわれた。今年初となるオーバルレースは、全長1マイルの小さいが伝統あるコースでの11年ぶりの開催。シーズン開幕前にインディカーが2日間の合同テストを行なったフェニックス・インターナショナル・レースウェイが舞台となった。

 予選では、テストでも最速だったエリオ・カストロネベス(チーム・ペンスキー)が1周の平均時速192mph(308km/h)オーバーのコースレコードでポールポジションを獲得。予選2位は2強のもう一方のチーム、チップ・ガナッシ・レーシングのトニー・カナーンとなった。

 開幕戦ウィナーのファン・パブロ・モントーヤ(チーム・ペンスキー)は、予選3位の好位置を確保。ガナッシ勢では若手のチャーリー・キンボールが予選4位と健闘したが、チームのエースであるスコット・ディクソンは、マシン・セッティングが微妙に外れて予選は6位に甘んじた。グリッド3列目は決して悪くはないが、チームメイト2人より後方なのだから、チャンピオンとしては納得がいかないだろう。

 予選ではこれらのトップ4......どころかトップ10をシボレー勢エンジンが占めた。開幕前のテストでもシボレーの優位は見られていたが、それでもトップ4独占までだった。テストで5番手、今回の予選では11位と、ともにホンダ勢エンジン最上位となったマルコ・アンドレッティ(アンドレッティ・オートスポート)も、「いい走りができたのに結果は11位。マシンの力を引き出せた時にはポールポジションが争えるべきなのに......」と、ライバルとの差に驚いていた。

 また、フェニックスでは予選まででホンダ勢3人がクラッシュしたが、それはホンダのエアロキットに原因があったようだ。マシンの前後ダウンフォースをバランスさせるのが難しく、コーナリングに入ったところで突如としてリアタイヤのグリップが低下。佐藤琢磨(AJ・フォイト・レーシング)、ジェームズ・ヒンチクリフ(シュミット・ピーターソン・モータースポーツ)、カルロス・ムニョス(アンドレッティ・オートスポート)が、ターン1のほぼ同じ場所で、ほぼ同じようなハードなクラッシュを演じた。

 最初にアクシデントを起こしたのは琢磨だった。2月にテストを行なっていることもあり、予選前には1回しかプラクティスが予定されていなかった。週末に使用できるタイヤのセット数にも限りがある。そうした状況下だけに、セッションの最初に予選のシミュレーションを行なうのはセオリーとなっていた。2月のテストで充分に走り込んでいたチームは、ダウンフォース量を小さくした、つまりはドライビングがシビアな予選用セッティングをチェックすることから始めたのだった。

 しかし、テスト時よりも一歩進化させていたはずのマシン・セッティングが間違っていた。ショートオーバルでの走りには自信を持っている琢磨だったが、シミュレーション上でのアタック1ラップ目、ターン1へと飛び込んだ直後、スパーンッとリアが流れた。バンクをスピンしながら駆け上がったマシンはリアから壁に激突。ドライバーが反応してコントロールをすることなど一切不可能な、唐突かつ大きなマシンの挙動だった。ダメージはリア・ウイング、ギアボックス、ホイールガード、サイドポッド、そしてエンジンにまで及んだ。

 レースでは予選ほどの差は出ない。昨シーズンも見られた傾向だ。しかし、予選で出た差がレースで完全に消え去ることも、去年と同様なかった。優勝はディクソン。2位はシモン・パジェノー(チーム・ペンスキー)で、3位はウィル・パワー(チーム・ペンスキー)。シボレーは今季初の表彰台独占で開幕2連勝。シリーズの2強、ペンスキーとガナッシが開幕2戦を1勝ずつで分け合った。

 ディクソンの優勝は、最速作業を繰り返したピットクルーの功績が大。1回目のピットストップで5位から2位に上がり、前を走るモントーヤがタイヤトラブルで失速してトップに躍り出た。そこからは、冷静でスマートな走りが身上で"アイスマン"とも呼ばれる彼がタイヤを労(いた)わり、燃費もセーブしながら完璧にペースをコントロールした走りで勝利を手に入れた。

 予選は今ひとつだったチーム・ペンスキーの2人がレースでは奮闘した。パジェノーは10番手グリッドから2戦連続2位でポイントリーダーに。開幕戦欠場のパワーは予選9位からトップ3に食い込み、シリーズポイントで上位陣に大きな差をつけられずに済んだ。

 ペンスキー勢の予選上位ふたり、カストロネベスとモントーヤは序盤のタイヤトラブルで優勝戦線から脱落した。「(マシンの破片か何かを踏んで)タイヤをカットした」と2人は言っていたが、マシン・セッティングとドライビングでタイヤにストレスをかけ過ぎたというのが真相だろう。2人とも右フロント・タイヤの内側トレッドにダメージが出ており、走行距離もレースペースで40周弱をこなしたところと、症状がまったく同じだった。

 ホンダ勢のトップはグレアム・レイホール(レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング)による5位だった。19番グリッドからの大躍進は、レイホール二世(父はインディ500優勝1回、インディカー・タイトル獲得3回のボビー・レイホール=現チーム・オーナー)がレーサーとしての完成度を高めていることの証である。

 結局、佐藤琢磨はマシンが修復できず予選に出走できなかった。ファイナルプラクティスも走れなかったことからレース直前に5分間の走行許可をもらってマシンをチェック。20番グリッドから出場したレースでは、マシンも完璧でないことからアグレッシブに走ることはせず、15位でフィニッシュした。ショートオーバルのレースが大好きで、その巧さに定評のある彼にとっては、非常に悔しい週末となってしまった。

 全長1マイルのフェニックス。インディカーはここを平均時速300kmで飛ぶように走る。ストレートとコーナーでのスピード差は5km/hほどしかない。インディカーだからこそ可能な常軌を逸した走りは、現場で見れば鳥肌が立つ。

 しかし、空力によって生み出される巨大なダウンフォースによって走行するマシンの安定感は非常に高い。タイヤはガッチリと路面をグリップしているために摩耗が少ないから、周回を重ねても操縦性低下が起こらず、オーバーテイクのチャンスが生まれにくい。手に汗握る豪快なパッシングは幾つか見られたが、近年のインディカー・シリーズならではの"抜きつ抜かれつの息詰まるバトル満載"というレースにはならなかった。

 ある程度の間隔を保って20数台が1列での周回を重ね、バックマーカーに追いついたトップがそれをなかなかパスできないような状況では、予選から走行パフォーマンスで優位にあったシボレー勢が燃費セーブでも有利だった。来シーズンは、ダウンフォースを小さくさせるなどのルール変更が必要だろう。

 今シーズン、もうショートオーバルでのレースはアイオワ・スピードウェイでの1戦しか残されていないが、そのレースが行なわれる7月までにホンダはエアロキットの性能向上を図らねばならない。改造や新パーツの投入はルールで許されていないので、今あるパーツのコンビネーションで最大限のパフォーマンスを引き出すことが求められる。

 第3戦はカリフォルニア州ロングビーチのストリート。第4戦、第5戦は常設ロードコースのバーバー・モータースポーツ・パーク(アラバマ州)とインディアナポリス・モーター・スピードウェイ(インディアナ州)だ。シボレーもホンダもこれらのコースでは今回とほぼ同じ仕様のエアロキットを使うが、超高速での連続走行であるために繊細極まりないセッティングが必要とされるショートオーバルほどの性能差は現れないだろう。

 しかし、今シーズンも空力バトルではシボレーが一歩リードの状況を保っているのは確か。ホンダ、そしてホンダ勢のチームは、重ねたテストと2回の実戦で得られたデータを改めて深く解析し直し、風洞実験を重ね、新しいセッティングを見出して対抗していくしかない。

天野雅彦●文 text by Masahiko Jack Amano