今年のマスターズはいつになく、初日から選手たちが「攻めのゴルフ」を見せるかもしれない。理由は、タイガー・ウッズ(40歳/アメリカ)が欠場したからだ。

 タイガーがピークのときは、まずはタイガーのゴルフを想定して、自分のポジショニング(初日の位置取り)を考える。要は、各選手が「今のタイガーの調子ならば、おそらく初日のスコアはこのぐらいだろう」というイメージを基軸に、自らのゴルフと照らし合わせながら「では、自分はこのスコア想定でいこう」といった具合だ。

 ここ数年、その座標軸となるタイガーの存在が次第に薄れていた。にもかかわらず、マスターズでは常にタイガーが中心だった。彼が出場するかしないかで、ゲームの空気感は一変。誰もが彼の存在を意識して、スコアメークしていた。

 しかし今年は、そのタイガーが不在。すでに世界の勢力図も、タイガー中心からジョーダン・スピース(22歳/アメリカ)、ロリー・マキロイ(26歳/北アイルランド)、ジェイソン・デイ(28歳/オーストラリア)の"トップ3"をはじめ、リッキー・ファウラー(27歳/アメリカ)、松山英樹(24歳/日本)らを中心とした時代へと変わってきた。加えて、長尺パター(アンカリング)禁止で悩んでいたアダム・スコット(35歳/オーストラリア)も見事に復活して今季すでに2勝をマーク。さらに、マスターズ2勝のバッバ・ワトソン(37歳/アメリカ)もヒーロー・ワールドチャレンジ(※賞金ランク対象外の試合)を含めると今季2勝を挙げて、目が離せない存在となっている。

 各選手にとって、マークする選手、ライバルがこれほど多いマスターズは久しぶりである。昨年優勝したスピースにしても、今年のマスターズは「ライバルが多すぎる」とコメントするほどだ。

 したがって、選手たちはまず、自分が4日間、72ホールのシナリオをどう作って演出していくかが悩みどころとなる。

 そうなると、初日のポジションニング(位置取り=スコアと順位)が、シナリオ作りと演出の中でまさに重要なオープニングとなる。ゆえに今年は、初日から選手たちが攻めていくのではないか、と思うわけだ。

 ライバルが多く、誰もが「主役に立ちたい」という状況にあって、キーマンがいなければ、自分がそのキーマンになろうとする選手が増えてくるだろう。しかも、これまでのマスターズの優勝スコアは8〜12アンダーの幅にあったものが、昨年はスピースが18アンダーでフィニッシュ。全体レベルが上がっていることの影響を受けて、初日から4、5、6アンダーを目指す選手が増えてくる可能性が大きい。

 いつものマスターズなら、初日イーブンから4アンダーに位置している選手の中から優勝者が出る確率が高い。しかし今年は、それ以上の攻撃的なゴルフで幕を開けるかもしれない。

 そんな中、もちろん日本期待の松山英樹も優勝候補のひとりだ。

 今季も2月のフェニックスオープンで優勝し、ツアー通算2勝目を飾った。それも、決して絶好調ではなく、ショットに苦しみながらファウラーから勝ち取った勝利である。この優勝は、かなりの自信につながっている。

 オーガスタ入りの時点で、ショットの精度はより高くなっており、ショートゲームも悪くない。残るはパッティングだが、これは松山に限らず、どの選手も苦しむもの。本人がそう思えるかどうかがポイントだ。

 ただし、マスターズに対する思い入れが強過ぎることによって、いい方向に進む場合と、逆に悪いほうに出てしまう場合がある。

 ここはひとつ、マスターズの創設者である"球聖"ボビー・ジョーンズが遺した言葉を、松山に贈りたい。

「自分のゴルフをベストに仕上げていく『最良の方法』がきっとあるに違いない。そう思っていた。けれども、そんな"秘策"なんて簡単に見つけ出せるものではない。そして、あるとすればたったひとつ......。(ゲームの前に)あまりゴルフに根をつめるなと言いたい。ゴルフのストローク(ショット)は、高純度の精神コントロールと肉体(筋肉)がうまく溶け込むことによって成立する。もっとも肉体は、日頃の鍛練、繰り返しスイングの練習をすることが行き届いていれば、とりたてて問題にすることはない」

 そしてボビー・ジョーンズは、「問題は精神面」なのだと力説している。

 さあ、マスターズが始まる。松山英樹の活躍に注目したい。

三田村昌鳳●文 text by Mitamura Shoho