「本のソムリエ」が説く核心的読書術――世の中に振り回されないための本選びとは?
◆時空を超えて「人生をどう生きるか」学ぶ

 ある中学校で1年生を相手に一席ぶった時の話です。今どきの子はみんな素直でいい子ばかりで、少し心配になってしまいましたが、話をしていて一番びっくりしたのは、

「尊敬する人はいますか?」

 と尋ねた時です。多くの子が手を上げてくれたので、誰なのかを聞くと、お父さんとか部活の先生とかばかり。偉人や歴史上の人物などは一人も出なかったのです。これはたぶん、伝記などの本と出会う機会がないのでは、と思いました。

 伝記や評伝は「人生をどう生きるか」を考えるのに大変に役立ちます。といっても、なにも歴史の教科書に登場するような人の伝記を読む必要はありません。自分が好きなアスリートや、実業家、今をがんばっている人の本から、気になる人、憧れの人が書いた本などを読んでみてください。もし、本に書かれたその人生に「アホちゃうか?!」と思える部分があったらめっけものです。おおいに参考にしてみてください。

 伝記の面白さに味を占めたら、豊臣秀吉や、坂本龍馬、勝海舟、吉田松陰、渋沢栄一、シュバイツァーやキュリー夫人など、日本史や世界史に登場するような人の伝記もどんどん読んでいきましょう。一般的なイメージの裏にある深い人間ドラマ、苦悩とチャレンジ、そして何かを成し遂げようとする燃えたぎる情熱が見えるはずです。

 私たちは、心から何かを知りたいと思い本を読めば、時空を超えて、多くの先輩の魂にいつでもアクセスできるのです。その人からのメッセージを受け取ることができるのです。

 大人になってからも、伝記を読むのに決して遅いということはありません。「読もう!」と思ったときが読み時です。私がいつもオススメするのは、『ものがたり伝記シリーズ・全21巻』(明徳出版社)です。この本は教育者・哲学者として有名な森信三先生が独自に選ばれた21人の伝記がわかりやすく編集されています。じつは私もこの本に大人になってから出会ったのですが、あまりの面白さに、それこそむさぼるようにして読みました。

 人間は自らを成長させようとする生き物です。その成長スイッチになるのが、「尊敬の念」であり、「畏敬の念」です。心の中にこれがあれば勝手にスイッチが入ってしまい、人に言われなくても自ら向上するための努力をし出すのです。

 実は私が今、書店を経営しているのも、一人の偉人との出会いからでした。その偉人とは坂本龍馬です。子供の頃から私は警察官になることが夢で、そのために柔道も一生懸命にやっていました。それが大学2年生の時に、たまたま時間が空いてぶらりと入った本屋で、司馬遼太郎の『竜馬がゆく』に出会い、「商い」に憧れたのです。「商い」の持つ楽しさや喜び、そして商売を通じて人の役に立つことの充実感……。

 一冊の本との出会いで人生がビックリするほど変わった瞬間でした。「オレも龍馬みたいに、もっと自由に生きてみたい。商人になって、自分の力で世の中を動かしてみたい!」そう思ったときの自由でワクワクする気持ちは、今思い出しても力が湧いてきます。

◆世の中に振り回されたくなかったら本を読め

 人はその一生のうちで、誰から学ぶかで大きく人生を左右されます。日本人は「真似る」のが得意だと言われています。「真似る」とは「学ぶ」の語源です。日本人は、古くは中国大陸に学び、明治に入ると今度はヨーロッパに学び、そして戦後はアメリカに学び、70年経ちました。

 しかし、もうアメリカに学ぶことってあるのでしょうか? 日本はこれから大きな矛盾にたくさんぶつからなければなりません。原発を含むエネルギーの矛盾や、少子高齢社会、経済のしくみ、集団的自衛権、沖縄の基地、教育や医療に関する矛盾……。私はアメリカに学ぶ時代はもうとっくに終わっていると考えています。では、これからの日本はどこから学んだらいいのでしょうか?