財閥系総合商社が苦しんでいる。長年業界トップに君臨してきた三菱商事の2016年3月期連結最終赤字は1500億円、2位の三井物産も赤字額が700億円と、両社ともに初の連結赤字に陥る見通しだ。

 そんな中、三菱商事が15年間守り抜いてきたトップの座を奪ったのは、非財閥系で野武士集団とも呼ばれる伊藤忠商事だった。3300億円の利益をたたき出しての王座奪取だ。ジャーナリスト・有森隆氏がいう。

「伊藤忠がトップに立つというのは並大抵のことではありません。ここまでの一人勝ちを実現したのは、この6年間の岡藤正広社長(66)の手腕によるところが大きい。これは高く評価されていいでしょう」

 偉業を成し遂げた岡藤氏が社長に就任したのは2010年4月のこと。繊維畑を歩み、海外駐在経験はゼロ。出世コースと言われる経営企画室も経験していないトップが異色であることは、その言動にも見て取れる。

「非常にお洒落。いつ見ても生地も仕立てもいいスーツを着ています。関西弁での会話も洒脱でお酒の飲み方もスマート。かと思うと、ずけずけとモノを言う。社員を鼓舞するのも上手く、社長就任後あっという間に社内の支持を取り付けました」(専門紙記者)

 社員の心をつかんだのは、万年4位だった伊藤忠を「財閥系と渡り合える商社にする」と公言してきたからでもある。昨年11月に開いたアナリスト向けの説明会ではこう発言していた。

「僕が社長になった当時、三菱商事は4位だった伊藤忠の倍以上の利益を出していた。それが、2年目で住友商事を抜き、5年目で三井物産との差が60億円になった。今期(2016年3月期)、ひょっとしたら三菱商事を抜くかもしれない」

 この言葉は「有言実行」された。蓋を開けてみれば、三菱商事に5000億円近くの差をつけていた。

 ここまで差が開いたのは、2011年以降続く資源価格下落が理由だ。三菱商事や三井物産は原油やLNG(液化天然ガス)など資源に力を入れてきた。三井物産は利益の7割近くを資源で稼いでおり、両社は「資源商社」とも称される。

 事実上、資源の輸入は限られた企業にしかできないため、なかば寡占状態。したがって、価格が上がっているときは大きな利ざやを稼ぐが、一度下落すると巨額の損失を出すリスクをはらんだ投資となる。

 一方で岡藤社長は、自分が育った“非資源”分野こそが伊藤忠の戦場だと信じて疑わず、“非資源ナンバーワン商社”をスローガンに掲げた。

「象徴的なのは、社長応接室に額装して飾られている『か・け・ふ』の3文字です。これは、『稼ぐ』『削る』『防ぐ』の頭文字。商いの原理原則を日々、実践するという宣言なのでしょう」(前出・専門紙記者)

 今年1月、「純利益で商社トップに立ったら全社員に臨時ボーナスを支給する」と宣言したことも話題になったが、これも有言実行される。6月の株主総会で承認後に支給の予定だ。

「ン十万円、あるいは百万円超えもあるのではと噂になっています」(30代社員)

※週刊ポスト2016年4月15日号