村井良大、華麗なミュージカルから血みどろ映画へ「見る人の予想を裏切り続けたい」
“バランスのいい男”というと、平凡でつまらない男のように聞こえるがとんでもない! タイトロープの上で軽快にステップを踏みつつ、下でハラハラ見守る人々を楽しそうに眺める。そんな自覚的かつ危うい平衡感覚。それが村井良大の魅力である。ミュージカル『テニスの王子様』に『弱虫ペダル』 、『RENT』と舞台での彼に魅了されたファンは、まもなく2週間限定で公開となる映画『ドクムシ』での変貌ぶりをどう受け止めるのか? 「常に見る人の予想を裏切りたい」――。まさにその言葉通りの姿を見せている。

撮影/平岩亨 取材・文/黒豆直樹 制作/iD inc.

残酷なシーンの撮影も「意外と楽しんでました(笑)」



――映画『ドクムシ』では、閉ざされた空間に放り込まれた男女がタイムリミットが迫る中、生き残るために人間性をむき出しにしていきます。

お話をいただいたとき、ちょうど舞台『殺意の衝動 〜なぜ殺すのか?それが生きてる証明だから〜』でワンシチュエーションのサスペンスをやってて、極限の空間での状況や心理について考えて考えて…何かを掴めそうなタイミングだったんですよ。

――まさにドンピシャのタイミングで…!

誰かが導いてくれているのかな?(笑)と思って引き受けました。



――村井さんが演じた主人公のレイジは、わりと中立的というか等身大の若者ですね。もしも村井さんが同じような状況に放り込まれたら…?

レイジと同じような感じになるかな…? 率先してみんなを引っ張るわけでもないし、日本人らしく空気を読みつつ(笑)、必死で何とか生き残る道を探しますね。

――血しぶきやいろんな武器も登場し、過激な描写もありますが、実際の撮影もかなり壮絶だったんでしょうか?

特に後半、物語が進むにつれて壮絶になっていきましたね。ある部屋が“仕掛け部屋”になってて、そこにいろんな武器やら仕掛けがあるんですよ。そこをのぞくとだいたい、今後やらされることがわかるという(笑)。あと、スゴかったのがスープ!



――コンロにかけられた、スープ用の大きな鍋と肉切り包丁が、物語の中でも大きな役割を果たしますね…。

あれで実際にスープを煮込んでるんですけど、ものすごいニオイなんですよ! 監督によると動物の内臓とかが入っていたらしく…(苦笑)。閉じた空間で窓も開けられないので、あの部屋が地獄そのものでした!

――朝倉加葉子監督はTVでもホラー作品を制作してますが、女性監督ならではの演出はありましたか?

女性監督のほうが、女性のエグさや恐怖みたいなものを、自分でよく理解できるからなのか、じっくり大切に撮られますよね。あと、ユミちゃん(水上京香)が襲われるシーンの撮影でも、叫び声が控室のほうまで何度も聞こえてきて「これ大丈夫なのかな…?」って(笑)。



――ご自身が参加した残虐なシーンはいかがでしたか?

意外と楽しんでましたね(笑)。「うわっ、これ絶対痛いでしょ!」とか思いつつ…。ただ、物語の展開上、次々と人が死んでいくので、共演者のみなさんが徐々にいなくなってしまうのが寂しかったです。

決められたイメージにとらわれたくない





――一昨年から舞台『マホロバ』『シアワセでなくちゃいけないリユウ』『殺意の衝動』『RENT』、そして映画でも本作、昨年の『Hunger Z』と主演が続いていますね。

ありがたいお話をいただけて嬉しいです。いまは、自分の中でもあまり固めたくなくて、いろんなことをやりたいと思っています。直感的に「これ面白そう!」と感じた作品に出演させていただき、いい出会いが続いてるんですが、一方で、俺は何もしてないんじゃないかって思いもあって…。

――「何もしてない」? と言いますと…

今回の映画もそうですが、物語は個性的で、面白いシチュエーションやスゴい展開が用意されているんですけど、僕自身が演じる役は、平凡というか、等身大の青年が多くて…。ぜいたくな悩みですが、このままでいいのか?と思う自分もいて、満たされつつも半面、何かが足りないと感じてるところもありますね。



――2.5次元舞台から『RENT』のような王道、今回のようなホラーサスペンスまで多彩な作品に出演されていますが、ジャンルや舞台と映像作品のバランスについてはどのように意識されていますか?

舞台に関してはずっとやっていきたいと思ってます。僕は堤真一さんが大好きなんですけど、まさに堤さんのようなバランスで舞台と映像、両方やっていけたらいいですね。



――これだけジャンルが多様だと、ファンの層も幅広いかと思います。

ファンを常に裏切り、いろんな作品に連れ回したいという意識はあります。ひとつの作品、ひとつのジャンルで成功しても、そこにとどまりたくはない。言葉は悪いですが、当たり役のヒット作で付いてくれたファンを次の作品で置き去りにしちゃうような(笑)。

――正統派ミュージカル『RENT』のファンを血みどろの世界へといざなったり…?(笑)

そうそう(笑)。ずっとひとつのイメージで役者を続けるって、それはそれでスゴいことだと思いますが、僕自身、決められたイメージにとらわれたくない! 常にギャップを生み出していきたいんです。