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米国のロケット運用企業ユナイテッド・ローンチ・アライアンスは3月23日12時05分(日本時間)、国際宇宙ステーション(ISS)へ補給物資を届ける「シグナス」補給船運用6号機を搭載した「アトラスV」ロケットを打ち上げた。

シグナスには食料品や生活必需品、ISS内で使用されるコンピューターやカメラ、実験機器など、約3500kgの物資が搭載されている。その中でも、今回日本でとくに注目を集めたのが、千葉工業大学が開発した実験装置「メテオ」だった。

ロケットによる打ち上げは成功し、シグナスはその後、26日にISSに到着した。

しかし後に、この打ち上げは、実は失敗と紙一重の危ういものだったことが判明した。

○メテオ、三度目の挑戦

メテオは、千葉工業大学惑星探査研究センターが開発した実験装置で、超高感度CMOSカラ―・ハイビジョン・カメラを使い、流星の長期連続観測を行うことを目的としている。

流星とは、彗星や小惑星から放出された塵の集まりの中を地球が通過する際、塵が大気との摩擦により加熱され発光する現象のこと。メテオの観測では、流星の飛跡や明るさから流星塵の大きさを求めたり、回折格子をレンズの前に取付けて分光観測を行い、流星塵の化学組成を調べたりといったことが計画されている。

また、毎年決まった時期に現れる流星群は、流星塵の元となる彗星や小惑星がわかっているので、流星群の観測結果から直接探査が難しい流星群母天体の特性を知ることができるという。

メテオはシグナスでISSに到着した後、米国の実験棟「デスティニー」内の観測用ラックに設置され、窓越しに流星観測を行う。観測期間は約2年間が予定されている。

同センターによると、地上からの観測とは違い、ISSから観測することで天候や大気の影響を受けず、定常的な観測が可能となるという。メテオの観測により観測データ数が飛躍的に増え、より統計的な流星科学研究が可能になることが期待されるとしている。

しかし、メテオが宇宙に上がるまでには大変な道のりがあった。同センターではメテオ・プロジェクトを2012年から進め、2014年10月にはシグナス補給船運用3号機に搭載され、打ち上げを迎えた。しかし、シグナスを搭載したアンタリーズ・ロケットが爆発し、打ち上げは失敗。メテオは失われることになった。

翌2015年6月には、2台目のメテオが、前回失敗したものとはまったく別の「ドラゴン」補給船と「ファルコン9」ロケットを使って打ち上げられることになった。ところが、このロケットも打ち上げに失敗し、メテオは再び失われてしまった。

こうした2度の悲劇を乗り越えて、メテオはついに宇宙へ辿り着いた。今後、どのような成果が生み出されるのか、期待が高まる。

○薄氷を履むが如しの危うい成功

シグナスを載せたアトラスVロケットの打ち上げは、一見すると順調で、結果的にはシグナスを予定通りの軌道へ送り届けることに成功した。しかし、実は今回の打ち上げもまた、ロケットのトラブルにより失敗に終わる可能性があった。

打ち上げの生中継を見ていた何人かは、ある奇妙なことに気がついた。第2段「セントール」のロケットエンジンの燃焼時間が、予定されていたより約1分も長かったのである。これは通常ではありえないことだった。このことはすぐに、宇宙メディアの「NASASpaceflight」のフォーラムやTwitterなどで話題となった。

打ち上げ後の記者会見ではこの件に関する質問も出たが、ULAは「実際に飛行してみると、予定されていた燃焼時間と、実際の燃焼時間とが異なるのは珍しいことではない」と回答した。確かに、他のロケットでも計画値と実測値が少々異なることはあるが、しかし1分も違いが出るというのは、やはり通常はありえないことだった。

その後、打ち上げの中継を分析した人により、第1段エンジンの燃焼時間が予定よりも約6秒も短かったことが判明した。そこから、第1段で不足した増速量を、第2段が燃焼時間を延ばすことで補ったのではないか、という説が浮上した。最初にまとまった形で論陣を張ったのは、宇宙メディアの「Spaceflight101」であった。

そして、それは正しかった。翌日になり米国の複数の宇宙メディアは、「アトラスVの第1段に異常が起き、第2段でそれを補った」ことをULAが認めたと報じ、31日にはULAも異常が起きたことを公式に発表し、経緯と今後の対応を明らかにしている。

それによると、第1段の燃料システムと、それに関連する部品に異常が起き、通常よりもより多くの燃料がエンジンに供給されたという。その場合、エンジンは動くものの、燃料が酸化剤よりも早く空になってしまうことになる。酸化剤だけではロケットエンジンは動かせないため、早期のエンジン停止に至った。

その結果、ロケットは第1段エンジン燃焼終了時点で、約165m/s分の速度が足らない状態に陥った。ロケットのセンサーとコンピューターはそれを検知し、その不足分を補うために第2段エンジンを予定よりも長く燃焼させることで、打ち上げをなんとか成功させた、というわけである。

これは、今回のアトラスVの打ち上げ能力に対してシグナスが軽かった、つまりロケットに余力があったからこそ成功したもので、この余力がなければ、第2段で挽回することはできず、打ち上げは失敗していた。さらに、燃焼終了後の第2段には、推進剤がほんの数秒分しか残っていなかったことから、もし第1段がもうわずかでも早く燃焼停止を起こしていれば、やはり失敗に終わっていただろう。まさに薄氷を履むが如しの、危うい成功だった。

アトラスVはこれまでに62機が打ち上げられているが、おおよそ失敗らしい失敗は起こしていない[*1]。それだけ高い信頼性をもつロケットでも、今回のようなあわや失敗といった事態は起こりうる。今回の出来事は、ほんのわずかの異常がきっかけですべてが水泡に帰することもあるという、ロケットの、そして宇宙開発の難しさを、改めて示している。

【脚注】
*1: 2007年に一度、偵察衛星を予定より低い軌道に投入してしまっているが、墜落などは起こしておらず、衛星の状態の正常だったため、ULAや米空軍などは打ち上げ成功と位置付けている。
【参考】
・United Launch Alliance Successfully Launches 7,745 Pounds of Cargo to International Space Station - United Launch Alliance
 
title=United+Launch+Alliance+Successfully+Launches+
7%2c745+Pounds+of+Cargo+to+International+Space+Station
・NASA Sends Fire, Meteor Science to Space Station on Commercial Mission | NASA
 
international-space-station-on-commercial-cargo
・Atlas V OA-6 Anomaly Status - United Launch Alliance
 
・Potential Performance Hit suffered by Atlas V ? - A closer Look at the Data - Spaceflight101
 
・ISS流星観測プロジェクト - 千葉工業大学 惑星探査研究センター(PERC)
 

(鳥嶋真也)