by Evan Long

世界最大手の空き部屋シェアサイト「Airbnb」は世界191カ国で利用され、ゴールドマンサックスによって「Airbnbがホテル業界を駆逐する可能性がある」と示唆されるほどの成長を見せています。「見知らぬ他人を自宅に泊める」という一見すると危険にも思える方法が、どうして広く利用されるようになったのかというと、そこには「見知らぬ人=危険」という偏見をなくすための「デザイン」の追求があったとAirbnb共同設立者のジョー・ゲビアさんが語っています。

ジョー・ゲビア: Airbnbの成功の裏にある信頼のためのデザイン | TED Talk | TED.com

https://www.ted.com/talks/joe_gebbia_how_airbnb_designs_for_trust

ムービーは以下から見ることが可能です。

画像に写っている男性がAirbnbの共同設立者であるゲビアさん。講演はゲビアさんが美大を卒業してからすぐ、ある男性に「誘拐されそうになった」エピソードから始まります。



ある日ゲビアさんが庭先でヤードセールをやっていると、1人の男性が来てゲビアさんのアートを購入しました。赤いロードスターに乗った男性は1人で自動車旅行をしていて、近いうちに平和部隊に参加する予定だったと話します。意気投合した2人は夜に街に飲みに出かけました。



別れぎわにゲビアさんが「今日はどこに泊まるの?」と男性に尋ねると、男性は「実は泊まるところがないんだ」と答えます。ゲビアさんは「しまったな」と自分の発言をすぐに後悔しました。ゲビアさんは男性と知り合ったばかりで平和部隊に行く話が本当かどうかはわからないものの、宿無しと知ってしまっては、男性を「じゃあね」とその場に放置するわけもいかなくなったためです。



「もしかしたらロードスターのトランクに押し込まれて誘拐されるかもしれない。こんなに小さなトランクなのに!」と思いつつも、ゲビアさんは「じゃあうちに泊まりなよ」と申し出てしまったそうです。



見知らぬ男性を家に泊めた夜、ベッドルームの天井を見つめながらゲビアさんは「なんてことをしてしまったんだ!知らない男が隣のリビングにいる!頭のおかしいヤツだったらどうしよう」とパニックに陥り、そっとベッドを抜け出すと扉に鍵をかけたとのこと。



これがAirbnbのアイデアの種となった出来事。幸いなことに男性は異常者ではなく、今では教師として働き、ヤードセールで購入したゲビアさんのアートを教室に飾っているそうです。



この経験はゲビアさんの物の見方を完全に変えました。幼い頃、私たちは「知らない人=危険である」と教えられますが、本当のところは知らない人がまだ見ぬ友人である可能性もあるのです。その後、引っ越したゲビアさんですが、男性が泊まる際に使ったエアーベッドは捨てずに新しい家に持っていったとのこと。



しばらくして、ゲビアさんは「無職・破産寸前・ルームメイトが出て行き家賃が上がる」という危機的状況に見舞われます。そんな時、「街でデザインのカンファレスが行われるのにホテルの予約がいっぱいでとれない」という状態が起こっているとゲビアさんは耳にします。そこで、「恐れを楽しみに変えることがクリエイティビティだ」と考えていたゲビアさんは、ある行動に出ました。



これがゲビアさんからルームメイトのブライアンさんに送られたアイデア。「お金をかせぐ方法があるぞ。僕たちの部屋を『デザイナーズ向けB&B』に変えて、4日間のイベントのために街にやってきた若いデザイナーたちに提供するんだ。敷き布団とWi-Fi、机、朝食と一緒にさ」とメールに書かれています。



簡単なウェブサイトを作りデザイナーズ向けB&Bをアピールしたところ、3人のゲストが部屋にやってきたとのこと。宿泊料は1人20ドル。ホストとして3人に朝食を作り、街を案内し、最終日にゲストたちに別れを告げてドアのカギをかけたあと、ゲビアさんとブライアンさんは顔を見合わせました。「僕たちは賃貸を行いながら友だちを作る方法を発見したのかもしれない!」



その後、以前のルームメイトだった ネイサン・ブレチャージクさんが技術担当として加わり、このアイデアをビジネスにする取り組みが始まったわけです。



投資家たちにゲビアさんが放った言葉はこうです。「自分の部屋のお風呂やトイレやベッドルームなど、普通は公開しないようなすごくプライベートな写真を載せるウェブサイトを作りたいんです。そしてインターネットを通じて全く知らない人を部屋に招き入れて彼らを家に泊めるんです!これは大成功しますよ!」



もちろん、このプレゼンは失敗しました。多くの人は「他人=危険」と子どものころに教え込まれているので、誰も赤の他人を自宅に泊めるようなネットサービスに投資しなかったのです。



ゲビアさんは美大でデザインを学んでいました。デザインとは見た目の問題ではなく、「全体的体験」なのだと知っていたゲビアさんは「会ったことのない人々の間の信頼」をデザインしようと考えだします。



ゲビアさんの実現しようとした「信頼」はどんなものなのか?ということで、会場を巻きこんで実験が始まります。「実験に参加してくれる人は親指を立てて」とゲビアさんが言うと、多くの観客が親指を立てます。



「では、みなさん携帯電話のロックを外して……」と自分のスマートフォンのロックを外しだすゲビアさん。



そしてアンロック状態のスマートフォンを隣の人に渡すよう観客に指示します。



「今、皆さんが感じているちょっとしたパニック状態が、ホストが初めて自宅を公開する時の感覚です」とゲビアさん。寝室やトイレまで見られる「自宅公開」は、プライベートな情報を見られる可能性がある「アンロック状態のスマートフォン」に近いというわけ。



見知らぬ他人に情報を見られる可能性のあるスマートフォンを渡す、というちょっとドキドキする体験を、「信頼」を作るためのデザインに変えてみます。例えば、隣の人が自己紹介をして、名前や出身地、飼い犬の名前を教えてくれていたとしたら、少し安心感が違うはず。また、相手が150人から「アンロック状態の携帯を渡しても安心できる人です!」と評価していたら、もっと安心感が増すはずです。



他人を信頼するカギは、他の人からの「評価」にあることがわかってきた、とゲビアさん。



また、Airbnbとスタンフォード大学の共同研究によっても興味深いことがわかっています。人には「自分に似ている人」に信頼を置きやすいという一種の認知バイアスが存在し、「似てない人」になるほど人から人への信頼度は下がっていくのですが……



「他人からの評価」が加わると、結果がまったく異なるものになります。具体的に言うと、3件未満の評価は信頼度に大きく影響を与えないのですが、10件以上の評価は「自分に似ている」ということよりも他人に対する信頼度を上げるのです。このことを使えば、適切なデザインによって「他人=危険」という偏見をなくすことは可能になります。



また、信頼を築くためには「情報を公開すること」がある程度必要ということも判明。例えば「やあ」とだけメッセージを送るのでは短すぎますが、「母ともめていて……」といった内容を打ち明けるのもやりすぎ。



Airbnbは適切な大きさのメッセージ欄を用意し、利用者にメッセージを送るよう促すことで、自然と信頼を築けるようにウェブサイトやアプリをデザインしています。



「デザインによって偏見は取り払える」というアイデアに賭けたAirbnb。偏見を捨てる準備ができている人がどのくらいいるのかは未知数でしたが、2008年に設立してから8年、Airbnbを利用した予約件数は爆発的に増えています。



もちろん見知らぬ他人を泊めるのだからトラブルのリスクはあります。しかし、これまでに提供された1億2300万泊のうち、トラブルがあったのは「1%の数分の1たらず」であるとのこと。サービスの開始当初、ゲビアさんはカスタマーサービス担当で苦情の電話を直接受け取っており、「誰かの失望の声は私たちが改善し続ける最大の原動力」だと語りました。



また、予想外のことも起こります。ある男性はAirbnbを利用して他人の家に泊まっている時に心臓発作に襲われたとのこと。



その時の男性の評価が読み上げられます。「とても素晴らしい家。運動不足で心筋梗塞を起こしかねない旅行者に最適」



「とてもきれいな所で近くには病院もあります。ハビエルとアレハンドラは見ず知らずのあなたのことを救ってくれるでしょう。車で病院へと大急ぎでつれていき、バイパス手術の間中、待合室で待ってくれるし、1人で寂しくないようにと本を持って来てくれ、追加料金なしで滞在を延長してくれました。とてもオススメ!」



この、金銭的やりとりを越えた、「つながり」が共有経済、シェアリングエコノミーと呼ばれるものの目指しているものだとゲビアさんは語ります。



今時の旅行のほとんどは、効率性と均質さを追求したファストフードのようなもので、「本物の体験」をするのが難しくなっています。



私たちの住む家の多くはそもそも、「プライベート」なのもで、「分離」という考えのもとに設計されていますが、もし始めから共有されることを前提に家が設計されたとしたらどんな姿をしているでしょうか。共有の文化が都会でも普通になれば、孤立や分断の代わりにコミュニティとつながりをもたらすかもしれません。



Airbnbの他にも似たようなサービスは以前からありました。その中でAirbnbが成功したのは、幸運という要素を抜けば、「信頼」という点をデザインしたことにある、とゲビアさん。「知らない人は危険」という人に深く根付いた偏見をデザインで取り除くことができたからこそ、Airbnbは世界191カ国で78万5000人が利用する世界的サービスにまで成長したわけです。