会社がなくなることになって春から途方に暮れています…
【石原壮一郎の名言に訊け】〜スティーブ・ジョブスの巻

Q:春だっていうのに、夢も希望もありません。10年間勤めていた会社が、ちょっと前にいきなり倒産しました。専門性の高い小さな商社です。あまりにもいきなりで、今後のことを考える余裕もなく、ただただ途方に暮れています。いきなり自分を放り出した会社に恨みもありますが、まあそれを言っても仕方ないし……。突然の失業という事態をどうとらえればいいんでしょうか。(北海道・32歳・失業者)

A:あらまあ、それは運が悪かったですね。あっ、その反動なのか何なのか、あなたにとってはラッキーなことに、喫茶「いしはら」のカウンターには今、ちょうどうってつけの方が座っています。失業のスペシャリスト、町内で失業と言えばこの方、フリーターの寅太郎さん。寅さん、どう思いますか?

 なんだてめえ、ケンカ売ってるのか。まあいいや。そうなんだよな、会社ってのはいきなり倒産しやがるんだよな。父さんもビックリだよ。倒産だけじゃないぜ。クビだってだいたいいきなりだからな。どっちにしろ、しばらく途方に暮れるのはしょうがねえよ。ゆっくり前に進んでけばいいんだ。途方、とほー、徒歩ってぐらいだからな。

 そうは言っても、いつまでも途方に暮れてもいられない。次を探さなきゃいけねえ。お前さんが「会社を恨んでも仕方ない」と言ってんのは、なかなか見上げたもんだ。屋根屋のふんどしだ。恨むことにエネルギーを使うのはもったいねえし、そっちに熱中しちまうと、前に進もうって気持ちが起きてこねえからな。

 俺はな、こう見えても、アイホン持ってんだよ。どうだ、おそれいったか。だからスティーブ・ジョブスの野郎にも一目置いてんだけど、あの野郎が、こんなこと言いやがった。

「当時は分からなかったが、アップル社に解雇されたことは、私の人生で起こった最良の出来事だったとのちにわかった。成功者であることの重さが、ふたたび創始者になることの身軽さに置き換わったのだ。何事につけても不確かさは増したが、私は解放され、人生の中でもっとも創造的な時期を迎えた」

 これだよ、失業したときに大事なのは、この気持ちだよ。失業という事実は、もう変えられれない。だけど、この失業が自分の人生にどんな意味を持つかは、自分でどうにでも変えられる。今すぐできるのは、失業を前向きにとらえることだ。「失業したおかげでまた違う仕事ができる」「失業を経験したおかげで多少は打たれ強くなったはずだ」ってね。

 で、そうやって元気を取り戻して次の仕事を見つけたあとは、そっちで何かをつかんで、いつの日か「あの失業のおかげで今の自分がある」と言えるようになってくれ。そんなにうまくいくかって? 心配すんな。人間ってのはテメエのことが大好きな動物だから、ちゃんとがんばってやってれば、たいていはそう思えるようになるはずさ。

 ま、あんまり思いつめないで、かといってヤケにならないで、気楽に地道にやるこったな。ジョブスは、こうも言ってるぜ。「ハングリーであれ、愚かであれ」ってね。自分の人生に貪欲であれ、自分を縛り付けているものから自由であれ、ってことかな。オレも、いつも腹ペコで誰よりも愚かな自信はあるんだけど、ジョブスみたいな調子にはいかないな。えっ、自分とジョブスを比べるのは図々しいって。それを言っちゃあ、おしめえよ。

【今回の大人メソッド】
◆起きてしまったことはいいように解釈するしかない
私たちは時に「思わぬ災難」や「納得できない事態」に遭遇します。もちろん、主張すべきことは主張したほうがいいに決まっているし、泣き寝入りを推奨するつもりはありません。しかし、嘆いたり恨んだりすることにエネルギーを費やすのは、百害あって一利なし。強引にいいように解釈するのが、大人の粘り腰でありハングリーな姿勢と言えるでしょう。

【相談募集中!】ツイッターで石原壮一郎さんのアカウント(@otonaryoku )に、簡単な相談内容を書いて呼びかけてください。

いしはら・そういちろう/フリーライター、コラムニスト。1963年三重県生まれ。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』(扶桑社)でデビュー。以来、さまざまなメディアで活躍し、日本の大人シーンを牽引している。『大人力検定』(文春文庫PLUS)、『大人の当たり前メソッド』(成美文庫)など著書多数。近年は地元の名物である伊勢うどんを精力的に応援。2013年には「伊勢うどん大使」に就任し、世界初の伊勢うどん本『食べるパワースポット[伊勢うどん]全国制覇への道』(扶桑社)も上梓。最新刊は、定番の悩みにさまざまな賢人が答える画期的な一冊『日本人の人生相談』(ワニブックス)
<写真/Claudio Toledo>