血糖値が70/dlになると異常な空腹感や動悸、震えが起き、50/dlでは中枢神経の働きが低下。さらに30/dl以下になると意識レベルが低下し、昏睡状態から死に至ることもあると言われる。
 この低血糖状態について、厚生中央病院総合内科糖尿病外来担当医が説明する。
 「低血糖を起こす疾患・原因には様々なものがあります。最も多いのは、糖尿病の罹患者が薬を飲み過ぎた場合やインスリンを多く打ち過ぎた際、食事を抜いたり激しい運動を行い、薬が効き過ぎて血糖値が下がり過ぎること。50を下回ると大脳でエネルギー代謝が維持できなくなり、精神症状を起こし始め意識を失うことがあります」

 しかし、人体は数段階の低血糖回避システムを備えているため、最悪の事態から身を守ることができる。低血糖に陥った場合、数値を上げるホルモンの放出やコルチゾールの分泌(血糖値の維持に貢献するホルモン)を正常化させるのだ。
 「健康な人でも低血糖は起きる場合があります。血糖値が下がるとインスリン分泌量が減るのですが、一方で血糖を上昇させるホルモンが分泌されて血糖が下がり過ぎないように調節される。しかし、食事などで糖分が摂れず急に血糖が下がり過ぎると、調節ができなくなる。その際、動悸や冷汗、手の震えが出ます。これは身体が訴えるシグナルなのです」(専門医)

 そのため、糖尿病の患者においてはさらに注意が必要となる。
 「低血糖が続くとアドレナリンが大量に放出されるため、交感神経刺激症状が表れ、体の震えや大量の冷や汗のほか、夜中に突然大きな声で叫ぶなどの異常行動が見られることもあるのです」(前出・外来担当医)

 こんな例がある。サラリーマンのAさん(37)は、若くして糖尿患者となった。それも1型糖尿病。1型糖尿病といえば、膵臓がほとんどインスリンを分泌できない状態を指す。そのため自分でインスリンを用意し、注射を打つことが必要になるが、打つタイミングがずれたり薬が効き過ぎ、やはり様々な低血糖状態に見舞われた経験も持つ。
 振り返ると、その一つは注射を打った後、何らかの事情で食事を始められなかった時。二つ目は、想定していなかったタイミングで血糖値が下がり過ぎたときだ。

 ある日、Aさんは仕事の打ち合わせ後、空腹感があったので行きつけのレストランに入った。まず、手洗い場所でインスリン注射を打った。効いてくるまで約30分。顔見知りの店長に、その時間帯に料理を出すように頼んだ。
 ところが会話がはずむ様子を見て気を効かしたのか、注文品が出てこない。インスリン注射を打ってからすでに45分。Aさんが“まずいな”と思った時は低血糖状態が始まっていた。
 「意識が朦朧とし、水を口に含んで催促しましたが、すでに視野が暗く狭くなっていた。慌ててバッグに入れておいたブドウ糖をガリガリかじり、ようやく出てきたハンバーグステーキにむしゃぶりつき、何とか落ち着いたんです。まさに九死に一生ものでしたよ」(Aさん)