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宇宙航空研究開発機構(JAXA)は4月1日、先月26日から通信が途絶えているX線天文衛星「ひとみ」(ASTRO-H)の状況について報告した。現在までに通信は復旧しておらず、依然として衛星の詳しい状態は不明であるものの、前回の記者会見から新たに分かったこともあり、より詳しい状況が明らかになってきた。

ひとみに何が起きたのか。この難問への正解は残念ながらまだ無い。衛星と通信できない以上、現時点で原因を特定することは難しいが、有力な手がかりとなりそうなのが地上からの観測情報だ。

米JSpOC(国防総省戦略軍統合宇宙運用センター)の発表によれば、ひとみの周辺に5つの物体が観測できたという。これは、ひとみに破片が出るような物理的な破壊があったことを意味する。ただし一方で、その後にひとみからの電波を受信していることもあり、致命的な破壊では無かったと見るのが妥当だ。

JSpOCの発表のあと、日本でも独自に観測を試み、ひとみの軌道上に2つの物体を確認した。仮に物体AとBとすると、光学望遠鏡による観測で、物体Aは3〜7等級と明るく、物体Bは5〜9等級と暗い。またレーダー観測では、物体Aは常時観測でき、物体Bは2回しか観測できなかった。このことから、物体Aの方が大きく、これが衛星本体だと推測される。

分離した破片と見られる物体Bが2回しか観測できていないのは、観測限界に近いためと考えられる。レーダーの識別能力は、高度600kmで直径1m程度とのことなので、物体Bの大きさもその程度である可能性が高い。JSpOCのレーダーは、10cm程度まで識別できると言われており、残りの4個については、物体Bよりも小さいということだろう。

軌道上の物体の軌道を遡れば、破片がいつ分離したのか推測できる。JSpOCの推測では3月26日の10時42分±11分、日本の推測では同日10時37分頃となっており、両者はほぼ一致。この時間に分離があったと考えてほぼ間違いない。

また望遠鏡による光学観測で明るさが不規則に変化していたことから、衛星が回転している可能性が指摘されている。JAXAはこれについて、断定は避けているものの、その可能性は当然認識している。回転により十分な発電ができず、衛星の電源がオンになったりオフになったりしていて通信ができない、というのは十分考えられるシナリオだ。

この場合、取れる対策はあまりなく、回転が落ち着くのを待つしか無い。当初は複雑な回転運動をしていても、時間が経過すれば、最大慣性主軸まわりの回転に必ず収束する。ひとみの場合、これは太陽電池パドルに垂直な軸(Y軸)になる。このY軸まわりの回転になれば、太陽電池がどこか1方向を向くようになるというわけだ。

回転軸がどちらを向くかは分からない。収束したとき、もしかしたら太陽の反対側を向いているかもしれないが、公転に伴い、いずれは太陽電池に光が当たるようになる。安定して発電できる状態になり、コマンドを送ってテレメトリを得ることができれば、衛星の状態が分かる。そこで原因を推定し、対策を立て、それを実行する。

ただし、これはかなり楽観的なシナリオだ。悪い方のシナリオだと、ダメージが大きく、科学観測が不可能になっている場合もあり得る。いずれにしても、すぐに復旧できるような状態とは考えにくく、数カ月単位の長期戦を覚悟する必要がありそうだ。

なお、通信異常や姿勢異常の原因を推測するために、JAXAでは現在、FTA(故障の木解析)を進めているという。ただ、現在のテレメトリを取得できないため、解析は難航が予想される。考えられそうな要因としては、「軟X線分光検出器」(SXS)のヘリウムタンク、バッテリ、燃料タンクなどがあるが、通信途絶前に取得したデータからは、特に異常は見られなかったそうだ。

記者会見では、デブリが衝突した可能性についての質問もあったが、現時点で、原因をデブリとする証拠は見つかっていない。軌道上にある10cm以上の大きさのデブリは軌道が特定されており、それが接近するという情報は無かった。観測できない10cm以下のデブリだった可能性は残るものの、衛星はある程度の防御もされている。JAXAは衛星内部に原因があったとする立場で原因究明を進める方針。

(大塚実)