発煙筒とレーザーがつくる、この世ならざる一瞬のアート

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暗闇の中に現れる、光る球体にレーザー。アーティストのデイヴィッド・オーグルは、こうした幻想的な風景を、何の変哲もない場所から生み出し、その光景を写真でとらえ続けている。その美しい一瞬の影には、多大なる工夫と偶然があった。

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2/8Sail|PHOTOGRAPH BY DAVID OLGE/ANDREW BROOKS

3/8Relativity|PHOTOGRAPH BY DAVID OLGE/ANDREW BROOKS

4/8OTW|PHOTOGRAPH BY DAVID OLGE/ANDREW BROOKS

5/8Set|PHOTOGRAPH BY DAVID OLGE/ANDREW BROOKS

6/8Singularity|PHOTOGRAPH BY DAVID OLGE/ANDREW BROOKS

7/8Radial|PHOTOGRAPH BY DAVID OLGE/ANDREW BROOKS

8/8Dusk|PHOTOGRAPH BY DAVID OLGE/ANDREW BROOKS

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美しく輝く球体、光を放つ煙、そしてレーザー。リバプール在住アーティスト、デイヴィッド・オーグルは、これらを利用して、まるで異世界のような精巧な彫刻作品をつくり上げている。

彼のプロジェクト「Looming」(「不気味に現れる」の意味)は、写真とインスタレーションアートを魅惑的に組み合わせたプロジェクトだ。

オーグルは何もない風景の真ん中を歩き回り、そこでLEDや発煙筒、アクリルの球体といった持ち運べるものを使用して、ほんの一瞬、その場限りの彫刻作品をつくり出し、写真を撮影する。例えば、マッチを擦って火をつけ、LEDのスイッチを入れ、風景のなかに作品をつくり上げる。そうした瞬間を、画像として保存するのだ。

「かなり特殊で、隔離された場所。そのとても特別な瞬間を撮影した、ある種のポストカードのようなものですね」とオーグルは言う。「一瞬の儚さを保存する、ぼくなりの表現方法なのです」

オーグルは5年の歳月を費やし、彫刻とインスタレーションに取り組んできた。ゴム気球や釣り糸、そしてプラスチックストローなどを利用して、倉庫や鉄道のトンネル、ある時は工場で、風変わりで色艶やかな作品をつくってきたのだ。

だがやがて、オーグルはもっと自然のなかで作品を表現したくなったという。そして写真という空間だけに存在する、「テンポラリーな作品」というアイデアを思い付いたのだ。

風景を一変させる手法

写真家アンドリュー・ブルックスとステファン・アイルズとともに、2015年2月に初めての撮影を行った。イングランド北部のアインズデール(砂丘国立)自然保護区、クランク洞窟、そしてウェールズのアングルシーの3カ所を彼らは複数回訪れ、撮影スポットのできる限り近くまでクルマで、それ以降は歩いて向かった。オーグルは前もって撮影場所を下見するのが常だったが、セレンディピティによって場所を見つけることもあった。

オーグルは球体や発煙筒、LED、そしてレーザーのように自分で簡単に持ち運びできるものを好んで使用する。「使えるテクノロジーや材料、予算には制限がありますよね」と彼は言う。「つまり、いかに自分がもてるものを使って、最高に新しい作品を生み出すかが重要なのです」

オーグルはいつも、午後遅めの時間から自分の好きな場所を見つけ出し、夕暮れ時あたりに撮影を開始する。多くの場合、撮影は夜間にまで及び、ある時などは午前3時を回ったこともあった。ぞれぞれの作品はどれも異なり、彼の選んだ場所や持ち込んだものに応じて、精巧につくり上げられる。

ある夕暮れ時、オーグルは海辺の穴に球体を置き、赤色LEDや発煙筒によって、燃え立つ赤い熔岩のような作品をつくり出した。LEDでその場所を照らし出す一方で、数本の発煙筒に火をつける。すると偶然、絶好のタイミングで風が巻き起こり、光を反射した煙の渦が生み出された。その光景はほんの一瞬だったが、オーグルが撮影をするには十分な時間だった。

オーグルは、自らの作品のことを「何の変哲も無い風景を一変させる手法」だと考えている。そして海や雪の降る景色といった、まったく違う場所や気象条件で、予想しえない現象を試しながら撮影することを望んでいる。

「わたしにとって、これらの写真は風景を空想的に表現するものなのです」と彼は言う。「人間の活動がまったく感じられない、想像のなかの美しい世界。その実在しない世界の中心で、特別なものを見つけるような体験なのです」

Lunar|PHOTOGRAPH BY DAVID OLGE/ANDREW BROOKS

※ 「Loomings」は、英国のベリー美術館及び彫刻センターで5月14日まで展示されている。