「CIVICTECH FORUM 2016」会場

2016年04月01日
TEXT:片岡義明

ITを使った市民による地域課題解決の取り組み「シビックテック」をテーマとしたイベント「CIVIC TECH FORUM 2016」が東京・港区の建築会館にて3月27日に開催された。

同イベントは昨年初めて開催となったカンファレンスで、今年もシビックテックに関わる人たちが全国各地から訪れた。昨年は「公共とITの新しい関係」と題して、シビックテックの可能性と課題について考えたが、今年は「ローカル」と「ビジネス&テクノロジー」という2つをテーマとしている。各地で行われたシビックテックの事例を紹介しつつ、ローカルにおけるシビックテックのあり方を模索するとともに、シビックテック分野のビジネスについても考察した。

基調講演では、一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンスの木下斉氏が、「ローカルに変革を」と題して講演を行った。補助金に頼らない事業を通じたエコシステムの構築に取り組んでいる木下氏は、「地方が補助金依存で、活性化策をやればやるほど衰退していくという負のスパイラルから抜け出るために、テクノロジーをどのように使うかが重要」と語った。


木下斉氏

「行政から言われたことをやるのが“地方活性化”だと思っている人も多いですが、そのような発想から脱却するには、今ある課題をきちんと解決していくための方策が必要となります。地域が元気になるためには、『入ってくるものを増やして、地域内でいかに取り引きを増やしながら、出て行くものを減らすか』という“三位一体”を意識することが大事です。重要なのは“余剰”を残すことで、その余剰を使って次に投資をするという連鎖を続けるためにも、いかに行政に依存しない民の“稼ぐ力”を作り出すかが課題となります。社会状況は劇的に変化しているので、過去のものを維持するために技術を使うのではなく、これから時代を切り開いていく、新しい“代替”をみなさんの手で作って欲しいし、私も作りたいと考えています」(木下氏)


シビックテックに求められるもの

今回のイベントのメインパートナーである株式会社リクルートホールディングス Media Technology Lab.の室長である麻生要一氏による講演も行われた。麻生氏は、「ローカルと大企業のシビックテック」と題して、リクルートが行ってきたシビックテックの取り組みを紹介。柏市においてスマートシティの実証実験を行い、地域活性ビジネスを考えるハッカソンを開催したほか、塩尻市において市の職員や民間企業とともに市政検討のイベントを行ったことなども紹介。また、一時保育のプラットフォーム「CoPaNa」や、保育園と保護者をつなぐコミュニケーションサービス「kidsly」、掃除に特化した家事代行サービス「Casial」、妊娠・出産から職場復帰までを応援するアプリ「カムバ!」など、さまざまな課題解決のサービスを提供していることも紹介した。麻生氏はシビックテックで大切なこととして、「地域を主体にする」「技術はシンプルに」「事例を積み上げる」といったキーワードを紹介した上で、「2016年度も引き続き地域課題を解決していきたい」と語った。


麻生要一氏


ハッカソンも開催

このほか、地域課題解決に向けた実証実験の事例紹介も行われた。全国の新聞販売店をネットワーク化し、シニアのサポートを行っているMIKAWAYA21の鯉渕美穂氏は、過疎地域で“買い物難民”となった人たちを支援するため、ドローン宅配サービスの実現を目指して新たに取り組んでいる。過疎地域では買い物代行のニーズが多く、「ドローンが届けてくれるなら、ぜひ頼みたい」という声も少なくないという。2月に徳島県で行った実証実験では、徳島新聞の専売所付近を宅配ドローンが離陸し、畑上空を速度3m/sの速さで高度50m程度を北東方向に500m飛行し、個人宅前の畑に着陸するルートを1往復して、食パンや卵、牛乳などの宅配を行った。実験で見えてきた課題としては、「オートパイロットが必須」「安全な離陸・着率技術」「安心な飛行の実現」「シニアにも使いやすいサービス」「安価でのサービス実現」といったポイントを挙げた。同社は2018年での実用化を目指して取り組んでいる。


ドローン宅配サービスの実証実験

また、福島県会津若松市に拠点を置く株式会社デザイニウムの前田諭志氏は、IoTプラットフォーム「SORACOM(ソラコム)」と、フリーな地図データを作成するプロジェクト「OpenStreetMap(OSM)」を利用して除雪車の位置を把握する実証実験を行ったことを紹介。従来は、「除雪車が来ない」という市民からの問い合わせがあった場合、一旦電話を切ってからオペレーターに除雪車の位置を聞き、折り返し電話をかけるという流れとなっていたが、このシステムを使うことにより、従来のような煩雑な作業を行わなくて済むようになる。SORACOMを採用することでコスト軽減や一元管理を実現しており、端末や利用者が増えても負担が少ない。


除雪車位置情報把握システム

さらに、鹿児島県肝付町 役場企画調整課参事兼福祉課保健師の能勢佳子氏が、地域のコミュニケーションツールとしてテレビ電話を導入したことを紹介。テレビ電話では、テレビ電話の画面に触れてもらうために、毎朝起きてから画面をタッチする「おはようタッチ」という機能を搭載したほか、介護予防ビデオ体操も収録した。また、週に1回は地域包括支援センターから電話をするサービスも提供している。能勢氏は、「情報は相手が受け取ってはじめて情報となり、受け取る人がわからない言葉は情報とは言えないし、受け取る人がわからない技術は役に立ちません。受け取る人がわからないシステムはいざというときに機能しないため、地域課題解決のツールには地域の人々が馴染みのあるものを使う必要があります」と語った。


テレビ電話を導入

このような各地の事例紹介のほか、シビックテックの資金調達環境をテーマとしたパネルディスカッションや、金沢市や石川県内で活動するプレイヤーによるパネルディスカッション、米国のシビックテックをテーマとしたトークセッションなど、さまざまなセッションが開催された。また、屋外の広場では、入場時に配布された「CTFコイン」を地域の特産品と交換するというイベントも行った。家族連れでも参加しやすいように、子ども向けのテクノロジー&プログラミング学習ツールを体験できるコーナーや、登壇者と直接交流できる「AMA(Ask Me Anything:何でも質問)」コーナーも開催されたほか、第1回でも好評だったグラフィックレコーディング(講演内容をイラストを交えながらわかりやすく視覚化すること)も行われた。


パネルディスカッションやトークセッションも実施


地域の特産品をコインと交換


子ども向けのテクノロジー体験コーナー


グラフィックレコーディングも実施

イベントの締めくくりとして、運営委員長の柴田重臣氏(Code for Ibaraki)は、「シビックテックのテーマは多岐にわたり、それぞれ課題も違うので、簡単には回答は出てこないと思います。また、シビックテックを実践するには困難も多く、単純に熱意だけでは進まないことも多いです。シビックテックの推進には文化自体を変えていく必要があり、実現には長い時間がかかるので、そのためにはみなさんの力が必要です。シビックテックの“テック”で重要なのは、多くの人がつながることだと思いますし、今日これだけの人数の熱意が可視化されたことを励みに、今後も頑張っていきたいと改めて思いました」と語った。


柴田重臣氏

テクノロジーによる地域課題解決のさまざまな事例が紹介され、シビックテックの現状を俯瞰することができたこの「CIVIC TECH FORUM」、今回のイベントで生まれた参加者同士のつながりが、今後どのような新しい動きを生み出すのか注目される。

「CIVIC TECH FORUM 2016」公式サイト
URL:http://civictechforum.jp/
2016/04/01