この数年、血圧の管理目標値が緩くなっている。

 日本高血圧学会「高血圧治療ガイドライン2009年版」の降圧目標値は「135/85mmHg未満」だったが、5年後に出た14年版では「140/90mmHg未満」に修正された。

 ただし、糖尿病患者については09年版の「130/85mmHg未満」から、14年版の「130/80mmHg未満」へとさらに厳格な降圧目標値が課せられている。日本人は糖尿病に関連した脳卒中が多いから、という理由だ。

 一方、欧米では糖尿病患者を対象とした試験の結果から「130/80mmHg未満に積極的に降圧すべき理由が見つからなかった」ため、糖尿病患者の降圧目標値は「140/80〜85mmHg未満」に緩和されている。

 さらに先日、糖尿病患者への「厳格な降圧」は、逆に心血管死を増大させるという解析結果が報告された。

 研究者は、これまでに世界で報告された49試験(被験者総数7万3738人)を解析。その結果、試験登録時に上の血圧が140mmHg未満に保たれていた糖尿病患者に対して、さらに「厳格」な降圧治療を行うと、心血管死リスクが1.15倍に上昇し、全死亡リスクも増加することが示された。

 しかも降圧治療開始時点の血圧が低いほど、心血管死リスクや心筋梗塞発症リスクが増加し、降圧治療の悪影響が認められた。

 一方、上の血圧が140mmHgを超えている患者の場合は、降圧治療によって全死亡リスクや心筋梗塞、脳卒中リスクが有意に低下することも示された。

 研究者は「上の血圧が140mmHg未満の糖尿病患者に対する降圧治療は、心血管死を増大させるだけで利益は認められない」と結論している。

 降圧目標値が130mmHg未満だと、複数の高血圧治療薬に頼らざるを得ないが、140mmHg未満なら単剤で対応できる可能性が高い。食事や運動で血圧値を改善しようという希望も持てる。

 ようするに、医者のやる気より患者本人のやる気を引き出す「達成可能な目標値」が望ましいのだ。

(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)