今泉 清氏に聞く『日本ラグビーの現在・過去・未来』(後編)

前編では「ラグビー日本代表の"準備力"の共有が必要」と訴えた元日本代表の今泉清氏が、自身のラグビー体験を踏まえ、さらに持論を展開した。ファン拡大策からこれからの日本代表、スーパーラグビーに参戦したサンウルブズへの期待、日本ラグビーの課題......。後編では、日本のラグビー環境や代表強化の仕組み作り、ラグビー文化の醸成などについて聞いた。

―― 空前のラグビーブームです。トップリーグも大学ラグビーも観戦客は増えました。この勢いに乗ってのファン拡大策は、今後どうしていけばいいでしょう?

今泉清氏(以下:今泉):ファンの拡大策はいろいろ方法があるでしょうが、まずはラグビーを知ってもらう、理解してもらうことが大事ですよね。どうやって広げていくのか。(日本協会は)限られた予算内、限られた人数でこういったことをやっているので、効果は期待ほど上がっていないというのが現状でしょう。

―― 競技人口はどうでしょう。サッカーは盛り上がった時にサッカー教室などをどんどん仕掛け、普及に力を入れていきましたが......。

今泉:これからの日本の人口減少傾向を考えると、ラグビーだけでいこうとしたらダメなんです。日本のスポーツ界全体で盛り上げていきましょう、というスタンスです。例えば、ラグビーがリーダーシップをとって、ラグビーとサッカー、一緒のクラブチームを作りましょうとやるんです。子供たちがクラブに入ったら、月、水、金はラグビーをやって、火、木、土はサッカーをやりましょうって。このほか、バスケットボールやバレーボール、野球なども入っていい。"クロス・スポーツ"という概念です。

―― 理想的ではありますが、日本ではまだまだ、ひとつの競技特化型が主流です。

今泉:でも、五郎丸(歩=ヤマハ発動機/レッズ)がキックを蹴れるのは小中学校とサッカーをやっていたからです。私も小中とサッカーをやっていたから、大学で突然、ゴールキックを蹴れたんです。日本の今の練習の形態を見ていると、キッカーはなかなか育ちにくい。特別に時間を作って、キックの練習をするしかないのです。サッカーをやっていると、(当然)蹴れるようになる。ボールをサッカーボールから楕円球に変えればいいだけですから。これからW杯でベスト8を狙うのであれば、左右両方の足でドロップゴールが蹴れるスタンドオフが必要なんです。いまは外国出身選手がスタンドオフをやるケースが多いですが、日本人選手をちゃんと育成しないと、ずっとスタンドオフは外国出身選手ですよ。

―― いろんなスポーツをやっても、どこかでひとつの競技に専念することになりますよね。

今泉:ある程度のところで「よし、自分はラグビーをやっていこう」「サッカーで勝負しよう」ってなるんです。そこで大事なことは、それぞれの競技団体は最終的に続けていこうと思ってもらえるような魅力的な競技環境を創造しておかないといけないということです。競技団体の間で切磋琢磨して、魅力を高め合うのです。

例えば、現場で選手が失敗したときに、なんでできないんだと怒鳴ったり、怒ったり、恫喝(どうかつ)したりすると、選手は次の日から練習に来なくなりますよ。選手は他の競技に移動すればいいんですから。

―― 競技の魅力でいうと、人気にも大きく左右されるでしょうか?

今泉:もちろん、(人気は)ないよりはあったほうがいいでしょう。ラグビー関係者に対して言いたいことは、ラグビー日本代表の選手がバラエティー番組に出ることが代表の強化になるわけではないということです。

今のラグビーブームは、日本代表がワールドカップで南アフリカなどに勝利したことで注目を集めている状況なのです。そこのところを勘違いしないでほしい。それよりも問題は、ラグビーの普及・育成です。ラグビー日本代表が活躍するのを、メディアを通して見た子供たちがラグビーをやろうと思った時にラグビーができる環境がまだないことです。

実際、日本全国に小学生までのラグビースクールは結構、あります。でも、中学校にはラグビー部がない。だったら、ラグビー協会がすべての都道府県に「中学校にラグビー部を創ってください」ともっと働きかけてほしい。その際、私たちがちゃんとコーチングスキルを持ったスタッフを派遣します、ラグビー部のコーチを提供します、としなければ増えませんよ。そうなると、ラグビー選手のセカンドキャリアの機会拡大にもつながります。

―― 環境、仕組みは大事です。

今泉:サッカーの百年構想に相乗りさせて頂き、ラグビーも一緒にやりましょうって。東京都の全国高校選手権大会の予選の1回戦、どこで試合をするか知っていますか。荒川の河川敷でもやるんですよ。ロッカーもない。雨が降ると、試合後、びしょびしょになりながら、ユニホームを着替えるわけです。寒い中、冷たい水道水で体を洗う。それを見て、親御さんが子供にラグビーをさせたいと思いますか。全国大会の予選、つまり高校3年生にとっては最後の公式戦です。このような環境でしか試合ができない状況を目の当たりにして、かわいそうで涙が出てきました。

―― まだ、このブームがラグビー文化にはなっていませんよね。

今泉:そりゃそうです。生活の一部にはなってないじゃないですか。例えば、ニュージーランドなら、オールブラックスのテストマッチが午後2時キックオフなら、正午にオールブラックスのOBが試合会場に出てきて、試合のプレビューをやりますよ。「今日は風が強い、ホームが有利だ」なんて言って。その日の気象条件の中でどういった展開のなるのかって。

また日本の場合、代表の試合があっても、地方のラグビーチームの人たちは同じ時間帯に練習試合をすることができます。ニュージーランドは違う。オールブラックスの試合があると、全国のクラブが午後2時のキックオフに合わせて、練習や試合を午前中に終わらせます。その後、クラブハウスで相手チームと一緒にビールを飲みながら、オールブラックスを応援するんです。それが文化です。

―― なるほど。文化にしたいなら、日本代表の試合がある時、全国のラグビー関係者は一緒にその試合を見るようにしないと。

今泉:2019年W杯開催地の12カ所でパブリックビューイングやってくださいとお願いしてもいい。高校生のチームも、子供たちも、みんなで日本代表を応援してくださいって。やるのは、ラグビー協会かどうかはわかりませんが。去年のW杯で、大分は駅前でパブリックビューイングをやりました。初戦の南ア戦が700人、あとは深夜でも常に1000人を超えました。その前後で歴代の代表OBが解説をしてもいいでしょう。協会もラグビー関係者も、簡単にラグビーを文化にしたいと言っているんですけど、具体的にどうなることが文化ということかを誰も口にしていません。

―― では、話題を日本代表に。新ヘッドコーチ(HC)はジェイミー・ジョセフ氏がなりました。どうですか。

今泉:これ以上の適任者はいないでしょ。選考過程はブラックボックスでわかりません。おそらく難しいハードルですが、チャレンジし甲斐があるとジェイミーは考えたのでしょう。

―― ただ、ジョセフ氏は現在、スーパーラグビーの昨季王者ハイランダーズのHCのため、日本代表合流はシーズン終了後の8月以降になります。これはどうなんでしょうか。

今泉:それはジェイミーの責任ではなく、協会との契約の問題です。

―― 新しい日本代表のスタートは6月のスコットランド戦です。試合の時だけ、日本に来てもいいのではないでしょうか。

今泉:でも仮に日本が負けて、そこで彼がテレビに映ったら、今までのジェイミーのブランドが落ちます。それはない。反対に僕はスポットで日本に来ないほうがいいと思います。準備からやって、結果を出して、やはりジェイミーがいると違うんだねって思わせたほうがいい。それがジェイミー・ジョセフのブランド化のためにはいいんです。そうすることで付加価値がついていきます。

―― スーパーラグビーへのサンウルブズの参戦はどうでしょう?

今泉:もちろん、よかったですよね。プラスです。慣れるということです。高いレベルの試合で体を当てる。これが大事なんです。実際やってみて、通用した、通用しないのがわかって、初めて慣れていけるんです。高いレベルを習慣化するためには、見て、覚える、想定して、練習する、やってみて、修正する。これを繰り返すのです。

―― サンウルブズの戦いぶり(3月26日現在、0勝4敗)はどう評価しますか?

今泉:よくやっています。マーク・ハメットHCだって、まだ自分で選手を選んだわけじゃないんですよ。それで、ある程度、結果を出しています。奇跡です。まだ、サンウルブズのディフェンスシステム、アタックシステムがシェアというか、共有されていないですけど、それでも十分戦えています。

―― 試合もおもしろいですよね。

今泉:何がいいかというと、特にレフリーがいい。日本のレフリーみたいにすぐに反則をとらないでしょ。こういう試合を日本でやることによって、日本人レフリーの質が上がるんです。レフリーはそれぞれの選手の持ち味が発揮できるようにする、いわばオーケストラの指揮者みたいなものなんです。ジャッジマンじゃありません。日本ラグビーが強くするためには、いいレフリーをもっとつくっていかないといけないと思います。

―― 今後、日本ラグビーはどのように進んでいくべきでしょうか?

今泉:ダブルスタンダードを作るべきですよ。早稲田の選手だったら早稲田もあるけど、基本的には「スーパーラグビーや、日本代表を優先しましょう」ってね。なぜかというと、日本代表がW杯で勝ったから、今のラグビー人気があるんです。強化の人も、普及・育成の人も、代表を強くなることを最優先に考えないといけません。代表が勝てるよう、上から裾野まで意思統一して、「ワン・フォア・オール・ジャパン」でいくんです。

【profile】
今泉 清(いまいずみ・きよし)
1967年9月13日生まれ。大分県出身。大分舞鶴高校から早稲田大学に進学。第3列から、ウイング、フルバックへコンバートされ、早明戦、大学選手権で大活躍。卒業後はニュージーランド留学を経て、1994年サントリーサンゴリアス入団。1995年W杯に出場。2001年、現役を引退。現在はテレビ、スポーツ紙で解説者を務めている

松瀬学●文 text by Matsuse Manabu