フィギュアスケートシーズンのフィナーレを飾る世界選手権。日本代表の女子は、いまや日本のエース格となった宮原知子と、成長著しい本郷理華、そして、1年間の休養を経て再びリンクに帰ってきた浅田真央の3名が、ロシア勢をはじめとする世界の強豪に挑む。誰が勝ってもおかしくない接戦が予想される今回の世界選手権の見どころを、プロフィギュアスケーターで、2012年世界選手権銅メダリストの鈴木明子さんに聞いた。

◆実戦から離れたことで「滑る喜び」を取り戻した

── 競技続行を決意して1年半ぶりにリンクに戻ってきた浅田選手ですが、彼女についてシーズン前はどう見ていましたか。

鈴木:試合に戻ってくることを決めたあと、何度が連絡をくれました。浅田選手の言葉から、すごく生き生きと練習していること、フィギュアスケートを楽しんでいることが伝わってきました。10月に出場したジャパンカップはすばらしい出来でした。試合前には、「どれだけできるかわからない」という不安もあったはずですが、「またリンクに戻ってきた!」「みんなの前で滑ることでできる!!」という喜びが演技からあふれていました。

── 復帰戦で浅田選手は、宮原知子選手やロシアのエリザベータ・トゥクタミシェワ選手、アデリナ・ソトニコワ選手を抑えて、見事に優勝を飾りました。

鈴木:あの試合でうまくいってしまったので、そのあとが難しくなってしまったのかもしれません。自分で自分を苦しめたような気がします。本番でもうまくできてしまったからこそ、「もっと、もっと」と考えたのでしょう。人間には欲があるので、どうしてもそうなってしまいます。

 しかし、優勝を飾った11月のグランプリシリーズ中国杯以降、ちょっと歯車がかみ合わなくなってしまいました。NHK杯(3位)も、グランプリファイナル(6位)も、12月の全日本選手権(3位)でも、なにか考え込んでしまっているように思えました。復帰戦で見せたような、パッと晴れた浅田選手らしい表情が見られません。

── 技術的にどこか悪いのでしょうか。

鈴木:ショートプログラム、フリーともに、すばらしいプログラムです。細かくチェックしても、パーツパーツは悪くありません。練習では、どのジャンプも質が高く、いいものばかり。問題は、プログラムのなかでどれだけいいものを出せるかです。NHK杯のスペシャルエキシビションで会ったとき、「私が最年長なんだよ」と言っていました。年齢のことは気にしているかもしれません。

── 鈴木さんが引退するまでは、鈴木さんが日本選手では最年長でしたからね。

鈴木:はい。記者の人には、年のことでさんざん質問されました(笑)。年齢とともに少しずつ体は変化していきます。疲れが抜けにくくなるのは当然です。浅田選手は浅田選手なりのペースを早くつかんでほしい。10月からは試合が続いたので調整が難しかったと思いますが、世界選手権まではじっくり練習できたはずなので、ボストンでは彼女らしい滑りを見せてくれると思います。実戦から少し離れたことで、「滑る喜び」をまた思い出したのではないでしょうか。それを世界選手権で見せてほしい。

◆自信をつけて150cmの体が大きく見える

── 自分の滑りを取り戻せずに苦しむ浅田選手とは対照的に、17歳の宮原選手の安定感は、ほかの選手を圧倒しています。グランプリファイナルで2位、全日本選手権で2連覇、1月に行なわれた四大陸選手権ではパーソナルベストを更新して優勝を飾りました。

鈴木:前回の世界選手権で銀メダルを獲得したことが自信になって、演技が大きくなりました。以前は「スピードが課題です」と本人は言っていたのですが、私はそうは思いません。体は150cmと小柄ですが、丁寧に繊細に滑るのが宮原選手の個性になっています。演技中の顔を見て、特にショートプログラムでも「こんな表情ができるようになったんだ!」と感心しています。

 コツコツと積み上げてきたものが形になり、成績として出ているので、これまでとは違う喜びを感じているのではないでしょうか。いい成績を残しても慢心することなく、努力を続ける姿には本当に頭が下がります。自信がついてきて、インタビューなどの声が大きく、自分の目標をしっかり言葉にできるようになりました。宮原選手の取材をするたびに成長を感じています。

── 女子ではもうひとり、本郷理華選手が2度目の世界選手権に挑みます。鈴木さんが振付を担当している選手です。

鈴木:本郷選手は、12月の全日本選手権でこれまでしたことのないミスをして表彰台に上れなかったので、本人は相当悔しがっていました。と同時に、欲も出ています。これまでは「練習でやったことが本番でできたよかった」という感じでしたが、「もっと上に行きたい」と考えているようです。「試合に出れば自己記録更新」という時期は過ぎたので本郷選手は苦しんでいますが、その壁を乗り越えられれば違う世界が見られるはずです。

── 鈴木さんは振付師として厳しい目を向けているのですね。

鈴木:今シーズン、初めて振付の仕事をさせていただいているのですが、本当に難しい。ゴールがないので、「これでいいのかな?」とずっと自問自答しています。一緒に勉強させてもらい、これまでと違ったフィギュアスケートの魅力を感じているところです。ジャンプで悩んでいるときに滑りを修正すると、うまく跳べることもあります。私が練習を見るときには本当に細かいところを注意しています。ブラッシュアップしていって、世界選手権でも本郷選手らしい演技を見せてほしいと思います。

プロフィール
鈴木明子(すずきあきこ)
1985年、愛知県豊橋市生まれ。6歳からスケートを始め、15歳で全日本選手権4位に入賞し注目を集める。10代後半に体調を崩し大会に出られない時期もあったが、2004年に復帰。10年バンクーバーオリンピック代表の座を獲得し、8位に入賞した。12年世界選手権銅メダル。13-14全日本選手権では、会心の演技で13回目の出場にして初優勝。14年ソチオリンピックでは、同大会から正式種目となった団体戦に日本のキャプテンとして出場し5位入賞、個人戦では8位入賞を果たす。14年の世界選手権出場を最後に、競技生活からの引退を発表した。引退後はプロフィギュアスケーター、振付師、解説者として活動の幅を広げている。2015年12月、選手たちの心理戦から演技の舞台裏を描いた『プロのフィギュア観戦術』(PHP新書)を上梓した。

元永知宏●取材・文 text by Motonaga Tomohiro