浅田真央の復帰で昨シーズン以上の盛り上がりを見せたフィギュアスケートもいよいよ大詰め、30日(水)から世界選手権がスタートする。日本代表の男子は「絶対王者」の羽生結弦と、シニア1年目でグランプリファイナル2位に躍進した宇野昌磨。女子は、グランプリファイナル2位の宮原知子と、昨年の世界選手権で6位に入った本郷理華、そして、完全復活を目指す浅田真央。アメリカ・ボストンで行なわれる世界選手権の見どころを、プロフィギュアスケーターで、2012年世界選手権銅メダリストの鈴木明子さんに聞いた。

■「羽生に勝つために」高難度の技に挑む
 
── 2018年2月の平昌オリンピックまで2年を切りました。3月30日から世界選手権が始まりますが、まずはフィギュアスケート男子から今シーズンのこれまでの戦いを振り返っていただけますか。

鈴木:今シーズン、もっとも印象に残ったのはやはり羽生結弦選手の演技です。11月のグランプリシリーズNHK杯で史上初の300点超え。12月のグランプリファイナルではその最高記録をあっさり更新しました(330.43点)。まさに「異次元の」演技を見せてくれましたね。

── 羽生選手の成長と、秘めた力を改めて見せられた気がします。

鈴木:金メダルを獲得したソチオリンピックから2年。あのときは、「発展途上で金メダルを獲った」ということですね。普通は、選手生活のピークでオリンピックのメダルが獲れるかどうかなのに、羽生選手は本当にすごい。まだまだ底が見えません。どれだけすごい選手になるのか、私たちのように日本代表を経験した選手でも想像がつかないくらい。進化のスピードが速すぎて、正直、戸惑っている部分もあります。

── 羽生選手が300点超え、さらには330点をたたき出したことで、ほかの男子の選手たちにどんな変化が出ているのでしょうか。

鈴木:羽生選手に勝つためには、さらに難度の高い技に挑戦する必要があります。トップがどんどんレベルアップしているので、「これまで通り」では絶対に勝てません。だから、かなり無理をして難しい技に挑む選手が増えています。高いレベルの戦いが見られるのはすごく楽しい反面、故障しないかどうか、心配になってしまいます。

── 時系列で見れば、いまはソチと平昌オリンピックのちょうど真ん中です。選手にとってはどんな時期ですか。

鈴木:オリンピックの4年間を一区切りと考えれば、最初の2年間にはいろいろなチャレンジができます。これまでと違った演技に挑むことも、新しい自分を見せることも、完成していない技を取り入れることもできます。そういう意味では、シーズンを締めくくる今度の世界選手権が重要になります。

── 逆に言うと、2016-2017シーズンとその次のオリンピックシーズンでは、あまりチャレンジできないということですね。

鈴木:はい。どうしても「まとめる」ことを考えることになってしまいます。新しいものを形にするのは、すごく時間がかかりますから。

■宇野昌磨は「引き込む力」で勝負する

── もうひとり、日本の男子選手で大躍進を遂げたのが、18歳、高校生の宇野昌磨選手です。グランプリファイナルで3位、全日本選手権は2年連続の2位と、見事な成績を残しています。宇野選手を幼い頃から知っている鈴木さんから見て、宇野選手の成長ぶりはいかがですか?

鈴木:本当に大人になったと思います(笑)。体が大きくなってきたこともあるのですが、もともと持っている表現力に4回転とトリプルアクセルが加わって、安定感がすばらしい。シニアの1年目は難しいと言われているのに、宇野選手にはまったく関係ありません。演技のスケールが大きくて、終盤にはお客さんがスタンディングオベーションをしたくてたまらないという感じで見ています。宇野選手の「引き込む力」には驚かされます。

 私は彼が小学生の頃から知っていて、親戚のおばちゃんみたいなものなので、よく見えない部分があります。アナウンサーの方に「宇野選手には色気がありますね」と言われても素直に「はい」と答えにくいのですが、インタビューの受け答えを聞くと立派になったなと感じます。

── 今回の世界選手権に、その宇野選手と前回大会2位の羽生結弦選手が日本代表として出場します。

鈴木:シーズン序盤から飛ばした羽生選手が、締めくくりの世界選手権でどんな滑りを見せてくれるのか、本当にワクワクします。昨年は優勝したハビエル・フェルナンデス選手(スペイン)に逆転されたので、燃えているはずです。もう私が考えられるレベルのはるか上をいっているので、羽生選手がどこに完成形を求めているのか、世界選手権で確かめたいと思っています。

 私がデトロイトで練習したとき、パトリック・チャン選手(カナダ)のショートプログラムを見せてもらいましたが、かなり調子を上げていました。あのパーフェクトなプログラムを見てみたい。チャン選手やデニス・テン選手(カザフスタン)、前回優勝のフェルナンデス選手が、羽生選手を意識してどんな構成で臨むのか、楽しみです。そこに宇野選手が絡んでほしい。

 それ以外の注目は、中国のボーヤン・ジン選手です。4回転ルッツが、本当にすごい。「あれだけ高く上がれば回れるよね」とうらやましくなるほど。プログラムの完成度はまだまだですが、今後日本選手にとって脅威になるでしょう。

── 異次元の強さを見せる羽生選手のことを、ほかの選手たちはどう思っているのでしょうか。

鈴木:「羽生選手に勝てなくても仕方がない」とは思っていないでしょう。特別な存在だと認めてはいますが、追いつき、勝つために挑んでくるはずです。フェルナンデス選手は4回転3本とトリプリアクセル2本も入れてきています。これ以上はないというくらいの難易度です。「絶対王者」であっても、簡単には勝てないと思います。


【プロフィール】
鈴木明子(すずきあきこ)
1985年、愛知県豊橋市生まれ。6歳からスケートを始め、15歳で全日本選手権4位に入賞し注目を集める。10代後半に体調を崩し大会に出られない時期もあったが、2004年に復帰。10年バンクーバーオリンピック代表の座を獲得し、8位に入賞した。12年世界選手権銅メダル。13-14全日本選手権では、会心の演技で13回目の出場にして初優勝。14年ソチオリンピックでは、同大会から正式種目となった団体戦に日本のキャプテンとして出場し5位入賞、個人戦では8位入賞を果たす。14年の世界選手権出場を最後に、競技生活からの引退を発表した。引退後はプロフィギュアスケーター、振付師、解説者として活動の幅を広げている。2015年12月、選手たちの心理戦から演技の舞台裏を描いた『プロのフィギュア観戦術』(PHP新書)を上梓した。

元永知宏●取材・文 text by Motonaga Tomohiro