シリア戦で躍動した香川。オウンゴールを誘発した先制点を含め4点に絡む活躍を見せた。写真:滝川敏之(サッカーダイジェスト写真部)

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 5-0で大勝した3月29日のシリア戦で、香川は2得点・1アシストとエースとして申し分ない働きを披露。2016年に入ってから調子を落としていたが、その不安をかき消すかのようなパフォーマンスだった。

【W杯アジア2次予選第8戦・PHOTOハイライト】 日本 5-0 シリア(2016年3月29日)

 与えられたポジションは4-3-3のトップ下で、敵の2ライン(DFとMF)間でボールを受け、シャープな仕掛けと鋭利なスルーパスでチャンスを演出。66分と90分には自ら得点を挙げるなど、フィニッシュの局面でもシリア守備陣に脅威を与えた。

 この試合で再確認できたのは、香川の能力の高さだ。仕掛け、パスセンス、飛び出し、得点感覚、そのどれもがハイレベルで、背番号10に相応しいクオリティを証明してみせた。

 しかしながら、相手がFIFAランキング123位の明らかな格下だったという事実は考慮すべきだろう。加えて「シリアは長距離の移動で疲れているようだった」と香川自身が振り返ったように、コンディションも万全ではなかった。

 攻→守の切り替えが遅く、前半から日本の素早いパスワークに翻弄されるシーンが頻発。守備の組織力でいえば、24日に対戦したアフガニスタンのほうがあるいは上だったかもしれない。
 
 こうした状況を鑑みれば、香川がトップ下で輝けたのはある意味必然と言える。最終予選、ひいてはワールドカップ本大会でこれほどストレスなくプレーできるシチュエーションは、まずないと考えたほうがいい。

 対戦相手は香川を“消す”ため、中央の守備を固めてバイタルエリアのスペースを埋めようとするはずで、反則ギリギリの激しいチャージも厭わないだろう。こうした対策を施されたなかで、今の香川は輝けるだろうか。残念ながら、明るい展望は描けない。

 参考にしたいのは、ドルトムントでのプレーだ。今シーズンの後半戦から香川は主にトップ下で起用されているが、いずれの試合もまったくと言っていいほど持ち味を発揮できなかった。それは出場した5試合における専門誌『キッカー』の平均採点が「4.1」(1が最高、6が最低)だった事実からも窺える。

 リーグ屈指のタレント力を誇るドルトムントに対しては、自陣で守りを固めるチームがほとんど。ブンデスリーガのチームはいずれも戦術の完成度が高く、そのように高度に組織化された守備ブロックに香川は“無力化”された。

 ドルトムントで精彩を欠いた理由のひとつに挙げられるのは、ボールタッチの少なさだろう。敵が最も警戒していたのはバイタルエリアへの縦パスであり、トップ下の香川が良い状態でボールを受けられたシーンは数えるほどだった。
 香川はいわゆる“ボールプレーヤー”であり、ボールに触れることでリズムを掴む。パスが受けにくいトップ下で起用された場合はそれが難しくなるのだ。

 そこで推奨したいのが、4-3-3のインサイドハーフ起用である。比較的プレッシャーの少ない状況でボールを受けられるのが大きなメリットで、“消える”試合も少なくなるだろう。

 香川はアギーレ前日本代表監督の下でインサイドハーフとして起用されたが、当時は与えられた役割を上手くこなせずに苦しんでいた。幸いだったのは、ドルトムントの新監督で、今シーズンの前半戦に香川をインサイドハーフで起用したトーマス・トゥヘルの存在だ。彼の指導によりインサイドハーフの動きを学び、前半戦は4ゴール・6アシストと上々のパフォーマンスを見せた。なにより、香川自身が楽しそうにプレーしている姿が印象的だった。

 元日本代表監督の岡田武史は08年にA代表デビューさせた教え子をこう評している。

「真司は生粋のサッカー小僧。プレーを楽しめる環境を与えれば、誰にも止められない。ただ、型にはめるとその良さは半減してしまう」

 香川が今、最も楽しめているポジションはトップ下か、それともインサイドハーフか――。プレーぶりを見た印象でいえば、その答えは後者だろう。いずれにせよ、エースの起用法に再考の余地があるのは間違いない。

取材・文:高橋泰裕(ワールドサッカーダイジェスト編集部)