シリア戦で代表通算100試合出場を達成した岡崎(9番)。序盤から果敢にゴールを狙ったが、数ある決定機をモノにできなかった。写真:佐藤 明(サッカーダイジェスト写真部)

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 5日前のアフガニスタン戦の試合後、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督は「美しい勝利」と5-0の完勝を称えていた。そのアフガニスタン戦と同じスコアだったシリア戦での記者会見でも、指揮官は同じ言葉を繰り返し、さらに「スペクタクルだったとさえ、言えるかもしれない」と付け加えている。

【W杯アジア2次予選第8戦・PHOTOハイライト】 日本 5-0 シリア(2016年3月29日)

 グループ1位の座を賭けて挑んだシリア戦で、勝点1差で上回る日本は相手を圧倒した。前半はオウンゴールによる1点のみと攻めあぐねたが、後半は一転、ゴールラッシュを披露する。香川真司が鮮やかな反転シュートを突き刺すと、カウンターから本田圭佑がヘディングシュートを沈め、香川が再び、ネットを揺らし、最後は途中出場の原口元気が長友佑都のクロスを頭で押し込んだ。
 
 この試合で代表通算100試合出場を達成した岡崎慎司にゴールが生まれなかったのは、残念な結果ではある。ハリルホジッチ監督も「彼には1点を取ってほしかった」とコメントしているほどだ。
 
 もっとも、香川や本田など“決めるべき選手”が決め、2次予選の計8試合を通じてひとつの失点も許さず、7勝1分、27得点・0失点という堂々の成績で最終予選に駒を進めたのだ。指揮官が上機嫌になるのもうなずける。
 
 大量得点を奪った反面、モノにできなかった決定機の数も少なくなかった。よりシビアな戦いが予想される最終予選では、チャンス自体が少なくなる。たった一度の好機が勝敗を左右する試合もあるだろう。アフガニスタン戦でも最初の1点(43分)を奪うまでに時間がかかっている。シリア戦は決定機の数を考えれば、7、8点取ってもおかしくない内容だった。
 
“仕留める力”は課題だが、ただシュートに至るまでの過程には見るべき点が多かった。コンパクトな陣形を保ち、選手同士の距離感を意識して、3人目の動きを織り交ぜながら、ワンタッチ、ツータッチでテンポ良くボールを動かす。連動した崩しはチームが目指すべきスタイルであり、息の合ったコンビネーションは随所で見られた。
 
 7分、相手陣内の右サイド深くでボールをキープした酒井高徳が香川に預け、すかさずリターンをもらうと、後方から攻め上がってきた長谷部誠にダイレクトではたく。ニアサイドに侵入した長谷部のマイナス気味のパスを受けた岡崎のシュートは枠を捉え切れなかったが、スピーディな連動性にシリアのDFたちはまるでついていけていなかった。
 
 18分の宇佐美貴史→本田→香川→本田の崩しや、26分には本田→岡崎→本田→酒井高とつないで決定機を演出。いずれも得点には結びつかなかったものの、「良い距離感でやれた」と岡崎が言うように、コンビネーションの質は確実に向上していると言えるだろう。
 攻撃面でのアプローチは、試合を重ねるごとに共通理解が深まっているようだ。宇佐美も「1年間やっていますし、どういうシステム、どういうメンバーでも、(戦術は)浸透はしているかなと思う」と手応えを口にしている。
 
 ハリルホジッチ監督が語る「土台、基礎」の構築が順調に進んでいることを改めて確認できたのが、シリア戦の大きな収穫のひとつと言っていい。“スペクタクル”なゴールショーよりも、むしろ、こちらのほうが重要だ。
 
 そうしたチームカラーがより表現できていたのが前半であり、指揮官も「最初の25分から30分はかなりハイレベルなプレーをしていたと思うし、レベルの高い動きを作り出していた」と評価している。その一方で、繰り返し発言された「オーガナイズが崩れた」というフレーズからも、シリア戦のターニングポイントを見出すことができるだろう。
 
 引き金となったのは、山口蛍の負傷交代と原口のボランチ起用だ。
 
 山口は相手との接触で顔面を強打し、プレー続行が不可能に。この時点で、例えば金崎夢生を途中出場させ、長谷部をアンカーに据えて、わずかな時間でもアフガニスタン戦でテストした4-4-2にシフトチェンジしても面白かったが、指揮官は即座に原口を送り出して、そのまま2ボランチの一角に据えた。
 
 結果的にこの交代を境に、日本には4ゴールが生まれ、そして失点につながってもおかしくないピンチを招くことになる。
 
“マイナス面”はさっそく見て取れた。原口投入後のわずか4分後、マハムード・アルマワスの強烈なミドルに冷や汗をかかされる。この一撃はポストに助けられたが、長谷部との連係も不十分なまま、原口が寄せ切れずにフリーで打たせてしまった部分はあった。
 
 原口のボランチ起用はこれが初めてではなく、練習ではゲーム形式のメニューでもプレーしており、「(山口)蛍が怪我をしなくても、ボランチで出たと思うので、準備はしていました」(原口)という。こうした背景からも、アフガニスタン戦ではダイヤモンド型の右サイドで先発した原口だが、ハリルホジッチ監督の中ではボランチとしての優先順位が高いことがこれではっきりした。
 
 メンバー発表時の「彼は真ん中もできる」という発言は、トップ下ではなくボランチを指していたのだ。
 原口にとってボランチは本職ではない以上、日本の中盤の守備力は当然、低下した。しかし、「ボールを奪ってから、前に出ていく」(ハリルホジッチ監督)その推進力が、チームの攻撃力を高めたのは間違いない。「“攻撃的には”良かったと思う」と原口自身も試合を振り返っている。
 
 とはいえ、全体の攻守のバランスが崩れ、終盤には二度の決定的なピンチに見舞われたのも事実である。西川周作のビッグセーブがなければ、ハリルホジッチ監督も「美しい夜だった」などと余韻に浸っている場合ではなかったはずだ。
 
 原口のボランチ起用は、リスキーなオプションである。2次予選よりも厳しい戦いとなる最終予選でどこまで機能するかは、現時点では判断が難しいが、それでも「土台、基礎」が固まりつつあるチームの次のステップとして、ハリルジャパンが戦術の幅を広げようとトライしているのは悪いことではない。
 
「競争意識を植え付けたい」というハリルホジッチ監督の“企み”も透けて見える。2ボランチの組み合わせは、原口の台頭でまたひとつ数を増やした。その意味では、シリア戦で出場の機会のなかった柏木陽介は危機感をさらに強くしたかもしれない。
 
 シンガポール、カンボジアに連勝した昨年の11月シリーズでは、インテンシティ(プレー強度)の高い長谷部や山口、遠藤航とは異なるゲームメーカータイプとして、柏木はその存在価値を高めた。“攻撃力アップ”の貴重な戦力として急浮上したが、その流れは今回の3月シリーズでリセットされたようだ。
 
“ボランチ原口”は柏木へのメッセージ――。指揮官の本当の狙いがそこにあるとすれば、柏木の今後の巻き返しには大いに期待したい。
 
 同様に、トップ下を巡る争いもヒートアップしてきた。アフガニスタン戦では清武が4ゴールに絡む活躍を披露してみせた。迎えたシリア戦では、「その座は譲らない」と言わんばかりに、先発フル出場した香川が2得点・1アシストと意地を見せた。
 
 初戦のシンガポール戦では躓いたが、終わってみれば圧倒的な力の差を見せつけ、理想的な戦いぶりで2次予選を首位通過し、最終予選への出場を決めたハリルジャパン。揺るぎないベースが築かれると同時に、熾烈な競争によってチーム力はさらに高まりを見せようとしている。
 
取材・文:広島由寛(サッカーダイジェスト編集部)