『面白ければなんでもあり 発行累計6000万部――とある編集の仕事目録』三木一馬 KADOKAWA

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 出版界には名物編集者と呼ばれる人が多数います。たとえば柴田錬三郎、今東光、開高健など大物作家との濃密な仕事で知られる島地勝彦さん(元集英社)。赤塚不二夫、古谷三敏、石井いさみ、あだち充といった漫画家の担当編集として活躍した武居俊樹さん。また、最近では、井上雄彦『バガボンド』、三田紀房『ドラゴン桜』、安野モヨコ『働きマン』を手がけたことで知られる佐渡島 庸平さん(元講談社)も、若き名物編集者と言えるでしょう。

 本書『発行累計6000万部―とある編集の仕事目録』の著者・三木一馬さんも、数多くのライトノベル(通称ラノベ)作品を生み出してきた名編集者のひとり。『とある魔術の禁書目録』『ソードアート・オンライン』など担当作の累計発行部数は、実に6000万部にも及びます。

 そんなヒット作を量産する三木さんが、ヒット作の誕生秘話、小説編集者として仕事をする上で大切にしてきた心構えについて語っているのが本書。

 理系出身で小説などほとんど読んだことがなく、コミケすら知らない「落ちこぼれ社員」だったと語る三木さん。自身でほかの編集者と異なる点として挙げているのが「人生のあらゆることすべてを加点法で考えてきたこと」(本書より)といいます。

 加点法とは、何もないところに「物事の良いところ」を加点、つまり評価を乗せていくという考え方。楽しい出来事をプラスにとらえることは普通ですが、問題は「辛い出来事」のとらえ方。「辛い出来事」に「人生の加点法」を当てはめるコツに気付けたことこそ、三木さんがほかの編集者と唯一異なる点だといいます。

 そもそも三木さんが所属する電撃文庫編集部の作品に対する基本的な考え方が「面白ければ何でもあり」というもの。つまらないものをつくろうと思って書く作家はいませんが、面白いの定義はあいまいで個人の主観によるところが大きいもの。三木さんは「人生の加点法」をもとに、作品の中の面白さをたくさん見出し、どうしたらその面白さがより多くの人に伝わるかを考え抜いてきたといいます。
 
 「人生の加点法」をベースに、編集とは原稿のいいところを伸ばし開花させることであると考えている三木さん。この考え方は、人生を充実させるためにも役立つと指摘します。

「人生の加点法」では、仮に失敗を経験したとしても、起こってしまった出来事をどう捉えるか、どう向き合っていくかを考えるといいます。つまり、仕事で失敗したけど、それを反面教師にもっといい仕事ができそうだから人生は楽しい、と考えることで、たくさんの悩みや問題を乗り越え、人生を前進させることができるというのです。

ヒット作を次々と生み出す名編集者の金言。本書は、「自分の好きなことで生きていく」ことに勇気をくれる1冊といえます。