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●10億ユーロを投資し、次世代半導体プロセスの開発を本格化
ベルギーの独立系半導体ナノエレクトロニクス研究機関であるimecは、同国ルーベン(Leuven)郊外の小さな町Heverleeにある同社本部キャンパス(図1)内にかねてより建設中であった新しい300mmクリーンルーム(床面積4000m2)を2016年3月に開所した(図2)。

次々世代の半導体プロセスとなる7nm、そしてその後の5nmプロセスを用いたデバイスを開発するためには、デバイスそのものの構造や使用する材料が大きく変わってくるため、新たな半導体製造装置を一式揃えなければならず、それらの装置を設置する場所として新たなクリーンルームの建設が求められていた。こうした背景からimecでは、既設の450mm-ready 300mmクリーンルーム(天井の高さや床荷重を450mm装置対応に設計されたが、当面は300mmウェハ処理用に使われるクリーンルーム。図3、図4)の隣接地に対応クリーンルームを新たに建設した。

imecの社長兼CEOであるVan den hove氏は、新クリーンルームの開所式で「imecは、1984年に設立以来、高い目標を掲げ、世界最大の独立系ナノエレクトロニクス研究センターに成長してきたが、この成功は、世界のトップクラスの半導体メーカーを含む幅広い国際的な協業ネットワーク、世界トップレベルの卓越した科学者・技術者集団、そしてimecの誇るインフラよるところが大きい。今回のクリーンルーム拡張により、研究パートナーは、最先端の施設や製造装置を使って、IoTや持続可能な将来に向けた革新的な研究を継続して行えるようになる。これにより、将来、地元およびグローバルなハイテク産業でimecの成功は確実なものになった」と述べた。

○10億ユーロを投じて7〜5nm試作環境を整備

「今回のクリーンルームの建築費用と搬入される設備の総額は10億ユーロ(約1300億円)を超える」とVan den hove社長は話す。このうち、1億ユーロ(約130億円)をベルギー国フランダース地方政府が出資し、残りの9億ドル(約1200億円)余りを、imecと研究開発契約を結ぶ世界中の半導体および装置材料企業90社が負担するという。 

新クリーンルームの施工は、ドイツに本社を置く世界規模のハイテク・エンジニアリング企業、M+Wグループが担当した。同社はゼネコンの多い日本では余り知られていないが、台湾TSMCや米国ニューヨーク州のGLOBALFOUMNDRIES(GF)のファブ8や同州に本拠を置くGlobal 450mm Consortiumの450mmクリーンルームなど、(日本を除いた)世界中の最先端半導体ファブの多くを手掛けている。

増設クリーンルームには、正式な開所前の2016年1月から半導体製造装置(多くは開発段階のアルファ機やベータ機)の搬入が始まっている(図5)。最初に搬入されたのは、日本のアドバンテスト製のEB直接描画装置(図5)で、その後、縦型炉(ASM International製)、 イオン注入装置、重ね合わせ精度測定装置など、最新の製造装置や検査・分析装置の搬送が続いている。

●もともとは450mmウェハ対応を計画していた新クリーンルーム
○もともとは450mmクリーンルームとして計画

imecは、もともと2016年から450mmウェハを用いた7nmプロセス開発のための研究開発パイロットラインを稼働させる計画を2012年に立てていた(図7)。

この計画における第1期計画(2013〜2016年)では、既存の300mmクリーンルームで450mmプロセスモジュールをいくつか選択して評価を行い、第2期計画(2017〜2020年)で、新たに建設される450mmクリーンルームでフルフロープロセスおよびデバイスを開発することになっていた。

ベルギーのフランダース地方政府は、この計画を支援するためimecの450mmクリーンルーム建設に対して1億ユーロを資金援助することを2012年7月に発表しており、この補助金を呼び水にして、広く世界中の産業界から10憶ドル規模の出資を募ることを計画していた。

しかし、その後、業界の先頭に立って450mm化を推進してきた米Intelが、PC需要低迷やスマートフォン向けビジネスへの参入苦戦で業績が低迷し、300mmラインが埋まらず、450mm化を「期間の定めなく延期」(Intel関係者の話)してしまった。これに他の先端半導体メーカ―も右に倣えしたため、imecのクリーンルーム建設計画も宙に浮いていた。

その後、300mmウェハを用いて7〜5nmプロセス開発やデバイス試作を行うために、新たに多数の装置を導入しなければならなくなり、今回、450mmではなく300mmクリーンルームを増築することになった。この件に関して、imecの広報担当オフィサーであるHanne Degans博士は筆者の取材に対し、「現在、半導体産業界で最先端は未だに300mmであり、増築したクリーンルームには300mm装置を導入するので、300mmクリーンルームと呼ぶことにした。将来、450mmに対する要請が産業界からでてきたら、450mmへ移行することは可能であるが、今はその時ではない」との説明を行っている。

imecには新設分を含めて総床面積12000m2の200mm/300mmクリーンルーム群があり、最先端の半導体プロセス開発/デバイス試作のほか、ナノバイオ研究、ニューロエレクトロニクス研究、シリコンフォトニクス研究、イメージセンサやワイヤレスチップ開発 MEMS試作、太陽電池試作、Si基板上のGaNデバイス試作、などさまざまな目的のために使用されている。

○日本がずっこけている間にも世界は爆進する

ちなみに昨秋、imecを訪問した「世界で勝負する仕事術」や「10年後,生き残る理系の条件」などの著者で知られる竹内健中央大学教授がTwitterに「imecでは、世界の多くの企業からお金を集めて巨大な半導体クリーンルーム(試作工場)を建設中。半導体産業は成長しているのに、日本だけずっこけている現実を改めて実感した」と記していた。

日本国内だけに目を向けていては時代遅れになってしまうと言うことだ。日本では、SIRIJ, STARC, EIDECなど最後まで残っていた半導体研究機関や国家プロジェクトが日本の半導体産業の復権に貢献することなく今年度末にことごとく消え去る中、半導体大国ではないベルギーの半導体研究機関は世界中から注目を浴びて、日本の企業とも広範に協業してますます発展していくのはなぜか。日本勢は反省とともに戦略を練り直す必要がありそうだ。

(服部毅)