【恋する歌舞伎】第8回:愛はあるのにお金がない!金の重みは命の重み

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日本の伝統芸能・歌舞伎。興味はあるけどちょっと難しそう、わかりづらそう…なんて思ってない? 実は歌舞伎は恋愛要素も豊富。だから女子が観たらドキドキするような内容もたくさん。そんな歌舞伎の世界に触れてもらおうと、歌舞伎演目を恋愛の観点でみるこの連載。古典ながら現代にも通じるラブストーリーということをわかりやすく伝えるために、イラストは現代風に超訳してお届け。

今回の「恋する歌舞伎」は、香川県琴平町にある、国指定重要文化財「旧金毘羅大芝居(通称:金丸座)で上演予定の『恋飛脚大和往来(こいびきゃくやまとおうらい)封印切(ふういんきり)』。恋とお金を取り巻く男女のドラマをご紹介!◆相思相愛なのに、一緒になれないそのワケは?


大阪の飛脚問屋(※)の養子である忠兵衛(ちゅうべえ)は、遊女・梅川(うめがわ)と深い仲になり、身請けをして一緒になろうとしている。ところが手附金の五十両は払われたものの、残りのお金を払う期限も昨日で切れ、手紙の返事もよこさない忠兵衛を梅川は心配し、元気をなくしている。

ちょうどそこへ、お金を用意することができず廓(遊郭)に来るのもはばかられていた忠兵衛が、梅川の様子が気になるあまりつい店先までやってきていた。それに気付いた店の女将さんが手引きをし、久々の逢瀬がかなう2人。その嬉しさから、つい調子に乗った忠兵衛は「大きいお金が入りそうだから、改めて迎えにいく」と、アテもないのに思い切った約束をしてしまうのだった…。

※今でいう郵便屋。現金などの輸送を行った。

◆お金持ちだが人望ナシVSお金はないけどいい男


翌日、店の2階で忠兵衛が寝ているところ、廓へやってきたのは八右衛門(はちえもん)。金持ちだがいけすかないこの男も梅川を狙っていて、身請けをしようと店へやってきたのだ。その傲慢な態度は店でも評判が悪く、仲居たちの対応もそっけない。それでも図太く「梅川の身の代だ」と大金を座敷にポンと放るが、男気な店の主人は「忠兵衛さんが梅川を身請けすることになっているからこの金は受取れない」と突っ返す。廓の皆々が忠兵衛ばかり贔屓をし、自分だけが嫌われることが気に食わない八右衛門は「あいつは田舎百姓の倅。そんな大金が用意出来るはずもない」と笑う。一部始終を陰で聞いていた忠兵衛はとうとう堪忍袋の緒が切れ、八右衛門のもとへ「金ならある!」と飛び出していく。

◆座敷に音を立てて飛び散る、輝く小判。そのお金、実は…


陰で悪口をいっていたことを詫びる八右衛門だが「金があるなら出して見せてほしい」という。金包みをみせても、火鉢に打ち付けて小判の音を聞かせても納得しない。「包みから出してみせろ」の挑発に、最初は拒んでいたものの、段々ヒートアップした忠兵衛は、とうとう百両包みの封を切ってしまう。本物の小判を見せられては文句のつけようがない。ただしそれが自分の金であったなら…。

実は忠兵衛が懐に持っていたのは、お屋敷の大事なお金。当時は封を切っただけで公金横領と見なされ、死罪は確定する。それでも梅川や廓の皆が見守る手前、後に引けなくなってしまったのだ。八右衛門も「恐れ入った!」と口ではいうものの、忠兵衛が犯罪を犯したことに気がついている。こっそりと、証拠となる封印の紙ぎれを拾い役所へと急いで走って行く。

◆自由と愛を掴んだのも束の間。死への旅路が始まる…


好きな人に身請けされ、幸せを噛み締める梅川。ところが忠兵衛と2人きりになったとき、公金に手をつけてしまったからには死罪は免れないことを告げられた挙げ句「一緒に死んでくれ」と懇願される。天国から地獄へと突き落とされた心持ちの梅川だが、これも愛する忠兵衛が、もとは自分が原因でやったこと。「死んでくれとはもったいない。礼を言って死にますよ」と運命を受け入れる。本当ならば2人で死ぬより、2人で生きたかったであろう彼女の哀しみは計り知れない。この後、残された時間とお金を使って愛の逃避行劇が始まる。遊女として生きてきて、やっと幸せのスタートラインに立ったのも束の間、自由の道は死への道なのだった。
(監修・文/関亜弓 イラスト/カマタミワ)