中国軍の機関紙「解放軍報」を発行する解放軍報社が運営する情報サイト「中国軍網」はこのほど、「日本のファシストの勃興と発展は、天皇の大きな支持を得た」と題する文章を掲載した。中国の公的組織が昭和天皇の戦争責任を指摘することは珍しい。な、同文章は有力な異説がある主張について、自らの論旨に都合のよい部分を“いいとこ取り”しているなど、かなりお粗末な内容だ。(写真は中国軍網の25日付報道の画面キャプチャー)

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 中国軍の機関紙「解放軍報」を発行する解放軍報社が運営する情報サイト「中国軍網」はこのほど、「日本のファシストの勃興と発展は、天皇の大きな支持を得た」と題する文章を掲載した。中国の公的組織が昭和天皇の戦争責任を指摘することは珍しい。な、同文章は有力な異説がある主張について、自らの論旨に都合のよい部分を“いいとこ取り”しているなど、かなりお粗末な内容だ。

 文章は冒頭で、福沢諭吉こそ、脱亜入欧論を提唱することにより、「朝鮮を侵略し、中国(の一部である)台湾を併呑し、中国の東北三省をさらに占領し、最終的に北京に日本国旗を打ち立てる構想を立てた」人物と論じた。

 また、1921年10月に欧州にいた陸軍士官学校16期の岡村寧次、永田鉄山、小畑敏四郎がドイツの保養地であるバーデンバーデンで会合し、軍における長州閥の打倒及び諸般の改革、国家総動員体制の確立、満蒙問題の早期解決を誓い合った「バーデンバーデン」の密約について、「全力で日本が軍国主義を歩む道を広げた」、「日本の軍におけるファシズム運動の出発点になった」と論じ、同会合や結論は「裕仁皇太子の奨励によるもの」と決めつけた。

 文章は、大正天皇の摂政であり、後に天皇に即位した昭和天皇の「大きな支持」もので、日本のファシズムは勃興し、発展したと主張。

 さらに、日本による中国侵略の意図は、田中義一首相兼外相が天皇に提出した「田中上奏文」に露骨に示されていると主張。同文書については「日本は一貫して存在を否定しているが、その種の否定は無駄である。最も重要なのは、日本が侵略政策を実行した歩みは、『田中上奏文』の既定の線路に沿って進んだからである。『田中上奏文』は日本による中国侵略の陰謀の自供書であり、世界大戦を発動するスケジュール表でもあった」と決めつけた。

 文章は、日本の戦争発動について、1929年に米国で発生した経済危機が全世界を席巻したことで、経済の基盤が弱かった日本は大打撃を受け、日本の統治集団は襲いで対外侵略の拡張を準備し、苦境を脱出しようとしたと論じた。

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◆解説◆
 冒頭に書かれた福沢諭吉のアジア観に対して、日本でも批判があることは事実だ。ただ、代表的著作あるいは考え方のエッセンスとされる「脱亜論」を読みさえすれば、福沢が中国や朝鮮の侵略を目指したわけではないことが分かる。

 福沢がまず、。西洋文明の流入を防ぐことはできず、受け入れた方が利益が大きいのは明らかである以上、積極的に受け入れねばならないと強調。

 しかるに、中国や朝鮮は「昔のまま変わらず、国家の独立を維持する方法を持たない」と指摘。さらに、日本が西洋から中国や朝鮮と同一視されるのは「日本の一大不幸」と説いた。

 福沢は、朝鮮の理不尽さや残虐さ、中国の腐敗などを具体的に指摘し、日本が同一視されるという「実害」が出ていると強調した。そして、近隣のよしみで両国を「特別扱い」する必要はなく、日本は西洋諸国と同じように両国に対すればよいと主張した。

 なお福沢は、中国・朝鮮について「志士が出て明治維新のように政治体制を変革できれば」よい状況になる可能性はあると、両国を頭ごなしに「見込みなし」と決めつけているわけではない。

 文章は、1921年10月のバーデンバーデンの密約について、「ファシズム運動の出発点」と決めつけた。しかし、当時の欧州は第一次世界大戦の直後といってよい時代だった。欧州諸国にとっての第一次大戦は、現在でも第二次世界大戦以上に悲惨な戦争体験とされる。3人はむしろ「日本が経験したことのない総力戦の実態を知り、危機感を高めた」と理解すべきだろう。軍の将来をになう若き将官として、総力戦に備えた「動員」などを考えるのは、むしろ当然だろう。

 なお、イタリアのムソリーニが率いる政党「戦闘的ファッショ(ファシスト党)が、選挙で初めて議席を獲得したのが同年だった(35人)。後に、ファシズムやナチズムに心酔した日本軍人が存在したのは事実だが、解放軍報掲載の文章によると、日本の若手将校は「世界に先駆けて、ファシズムの道を歩んだグループのひとつ」ということになる。

 田中上奏文は昭和初期に米国で「発見」されたとされる文章だが、日本では一般的に偽書とされている。1927年の作成とされる文章だが、すでに死去していた山県有朋が登場するなど、事実と矛盾する内容が多いためだ。中国で広く流布したが、日本が抗議したところ、中国政府は機関紙で「真実の文章ではない」と表明。ただしその後改めて、プロバガンダに用いるようになった。

 なお、その後の経緯が類似していることを、田中上奏文の「真実性」の証拠と見なすのは、「ユダヤ人は世界で大きな勢力を持っている。このことは、ユダヤ人には古くからの世界征服計画があることを意味する」と同様のレベルのロジックだ。(編集担当:如月隼人)