『女子高生ビジネスの内幕』(宝島社)

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「条例によらず、県民運動で取り組む」とするこれまでの方針を踏襲し日本で唯一淫行処罰に関する条例を制定していない長野県で、青少年健全育成条例に関する議論が続いている。

 1950年代以降、各都道府県が次々と淫行処罰を規定した条例をつくるなか、かたくなに県民運動による被害防止を貫いてきた長野県の姿勢が変わったのは、やはりインターネットの普及などに端を発する社会状況の変化や性被害増加の影響がある。

 昨年10月、国連「子どもの売春、児童売春、児童ポルノ」特別報告者のマオド・ド・ブーア=ブキッキオ氏が日本記者クラブでの会見で、「日本の女子学生の13%が援助交際している」と発言した件は、「13%」という数字に根拠がなく後に撤回されるなどの騒動があったものの、ただ、ブキッキオ氏の会見は国外から見てそれだけ日本の青少年を取り巻く環境が危ういと映るということでもある。

 しかも、インターネット上には「10代の女の子と遊びたいなら、長野へ行けばいい。警察に捕まらないから」といったコメントが散見されるようになり、実際、県警は過去2年の間に大人から誘われたり脅されるなどして性被害にあった青少年が20人いたが、現行法では摘発できなかったというデータを明かしている。

 しかし、淫行処罰を規定することが、本当に児童買春の防止策につながるかどうかは、疑わしい。

 その典型が、2010年代に入って、青少年を性搾取の現場へと導いていったJKリフレやJKお散歩などの、いわゆる「JKビジネス」だ。このJKビジネスを継続的に取材してきたライターの井川楊枝氏は『女子高生ビジネスの内幕』(宝島社)で、警察が摘発を繰り返した果てに、現在では地下ビジネス化してしまい、逆にそこで働く青少年たちが危険な環境に置かれてしまっていると指摘している。

 マッサージであったり、一緒に散歩することであったりと、表向きには性的なサービスを行わないと謳いながらも、少女たちが店に内緒で(店が率先してやらせている場合も多々あるが)客と直接金銭のやり取りをして性的なサービスを提供する「裏オプション(裏オプ)」が問題視されることで、これらJKビジネスは一気に摘発されていくことになるのだが、井川氏によると、JKビジネスは始めからそのような性的な要素を含んだものではなかったという。

 例えば、JKリフレの起源は、一般的な性風俗ではなく、秋葉原で人気だった「メイドリフレ」だった。メイドリフレは、メイド喫茶から派生した形態のお店で、通常のメイド喫茶であれば普通のお給仕以外のコミュニケーションは取れないが、リフレであればマッサージなどで直接身体を触ってもらえることから人気が出たサービスだった。そのメイドリフレのオプションにコスプレがあり、そのなかでも女子高生の制服が人気だったことから、JKリフレへと派生していくことになる。つまり、JKリフレは始め「萌えビジネス」のひとつであり、客もちょっとした接触以上の過度な触れ合いは求めないシャイなオタクたちだった。だからこそ、店は18歳未満の少女も雇い入れたし、そのことが表立って問題視されることはなかった。

 この構図は、JKお散歩も同じだ。JKお散歩も、もともとは「メイド観光案内」が起源で、メイドさんが秋葉原の観光スポットを案内してくれるという萌えビジネスの一環であり、後にJKお散歩で問題視されるようなラブホテルやカラオケボックスなどで売春行為を行うといった類のものではなかった。

 しかし、その状況は12年の夏ごろを境に一変する。『女子高生ビジネスの内幕』で取材に答えるJKリフレ店店長の丸井さん(仮名)はその経緯をこのように語る。

「いつの時代も、女子高生との接触に興味を持つ人たちっていうのは世の中に一定数いるんですよ。1990年代だと、それはテレクラだったわけでしょ。その後、デートクラブだったり、出会い喫茶になったんだけど、どれも規制が入って18歳未満の利用が厳しくなったんです。それからネットの時代に移行して、出会い掲示板だったり、SNSなどになった。基本的にはどれも援助交際ですよ。でも、それらも警察のサイバー捜査なんかが出てきて難しくなる。じゃあどうするかってなったとき、合法的な出会いの場として、JKリフレが注目されちゃったんですよ。でも、問題だったのは、JKリフレっていうのが、もともとメイドリフレからの流れの萌えビジネスだったっていうことです。握手やチェキで1000円とか2000円とか払うお客さんをターゲットにしているアイドル産業と似たようなものですよ。そこに援助交際文化に慣れ親しんできた肉食系の男たちが、ドバーッと秋葉原に流れ込んでしまったわけですよね。そりゃ、JKリフレが荒廃しちゃうわけですよ」

 現在JKリフレについて語られるとき、このような経緯はほとんど顧みられることはないが、もともと萌えビジネスだったJKリフレは、メイン客層がオタクから援助交際常習者に変わることで変容していき、そこから前述の裏オプションが跋扈するようになる。そして、13年1月27日、都内のJKリフレ店18店舗に労働基準法違反などの疑いで一斉捜査が入り、中学3年生2人を含む15〜17歳の少女76人が保護、続いて2月6日には4店舗の関係者23人が労働基準法違反の容疑で逮捕・書類送検されるという結末を迎える。

 この逮捕劇はテレビや新聞などでも大きく報道され、JKビジネスの危険性が一般的に周知されるのだが、この一斉捜査はJKビジネスの「終焉」とはならなかった。むしろ、それから延々と繰り返される「いたちごっこ」の始まりにしか過ぎなかったのである。

 この一斉摘発の際、リフレは狭い密室でハグなどの触れ合いサービスを提供していることから「客に慰安、快楽を与えることを目的とする業務」と指摘することができたのだが、JKお散歩に関しては警察もそのような指摘ができず、摘発以降もお散歩店には18歳未満の女子高生が引き続き従事していくことになる。

 しかし、すでに援助交際の温床となっているJKビジネスにおいて、特に、店の監視が行き届かなくなるお散歩はさらにひどい売春産業と成り果てる。お散歩の流れで、カラオケボックス、マンガ喫茶、ラブホテルなどに行き、そこで行われる売春行為が問題化。そして、13年4月1日には、就労をやめさせるため、JKビジネスに従事する女子高生を保護対象ではなく補導の方針に転換することになる。実際、同年12月16日には、15歳〜17歳の少女13人が補導されている。

 これらの厳しい摘発により、JKビジネスは表向き正常化される。「触れ合い」や「デート」などが有害業務とされたため、18歳未満を雇っても許されるのは、サービスを会話程度のコミュニケーションに抑えた「JKコミュ」と呼ばれる業態に限られるようになる。

 これまでどおりのリフレやお散歩の店からは、18歳未満の女の子(「アンダー」と呼ばれる)が消え、制服を着ていても従事する人は全員18歳以上となった。しかし、女子高生であっても18歳以上であれば労働基準法にも児童福祉法にも引っ掛からないことから、18歳の女子高生は「新18歳」と明記されJKビジネスにおいて人気を呼ぶように......。日本のロリコン文化の業の深さをまざまざと見せつけられるような現象である。

 ただ、一度おいしい蜜を吸った業者たちはJKビジネスから去ったわけではなかった。ここから問題の地下ビジネス化が起きるのである。

 なぜ、違法性が指摘されるようになっても、地下ビジネス化してまでJKビジネスを続けるのだろうか? それは、逮捕されたとしても大した罰則がないからだ。JKビジネスに関わった経営者は主に労働基準法違反で逮捕されるのだが、同法の罰則は「6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金」、そして初犯であればまず実刑にはならず罰金刑で終わってしまう。

 その一方、JKビジネスは店を始めるにあたっての初期費用が他の風俗産業に比べ圧倒的に安く済む。ネット掲示板に「裏オプ」や「アンダー」を匂わせるようなコメントを書き込めば、それだけの宣伝ともいえないような宣伝だけで客が集まってくる。客である男たちの女子高生信仰の闇の深さを感じさせる話だが、それだけ旨味のあるビジネスのため、逮捕された時の罰則と天秤にかけ、違法性の高いビジネスを行う方を選ぶ経営者が後を絶たない。

 井川氏は『女子高生ビジネスの内幕』のなかで、いまでも存在する「アンダー店」の様子をルポしている。「18歳未満が働く店」と題されている掲示板のスレッドで名指しされているJKお散歩店に赴き、付いた女の子に取材を行っている。黒髪を肩まで伸ばした17歳の女の子は「普段はどこに行くの?」という井川氏の質問に対し、「漫画喫茶とかホテルとか。あっちのほうに完全防音の漫画喫茶とかがあって、そこだとホテルと同じようなものですよ。全部やるんだったら3は欲しいかな。この近くに安いホテルがあるからそこもいいんじゃないかな」と3万円での援助交際の誘いを白昼堂々かけてきたという。

 こういった違法店で働くことは、当然ながらそこで働く女の子たちにとって危険極まりない。そのような店は彼女たちの身の安全を保証してくれないからだ。送り届けるドライバーがいて、なにか異変があればそのドライバーが駆けつけてくれる一般的なデリヘルで働くのとはまったく異なる。実際、逮捕されたJKビジネス経営者は裏オプションが横行していたことについて「女の子がそういう行為に及んでいたことを一切知らなかった」と容疑を否認することが多々あり、なかには、就労している女子高生に対し「彼女たちはボランティアで来てもらっています。ボランティアなので給料を払っていません。だからお店は関係ありません」とすら言ってのける経営者もいる。この状況が続けば、傷害や殺人事件に発展するようなトラブルが起きるのも時間の問題だろう。

 摘発を続けることで違法性のあるJKビジネスを取り締まることは大事だが、そのいたちごっこの結果、そこで働く女性たちの身に危険がおよんでいる。これまでとは違う、抜本的な対策を考えるべき時にきている。
(井川健二)