グーグル「Project Fi」のサイトより

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 健全なる経営を行っているにもかかわらず、業界のリーダーとして君臨している企業が事業に失敗しその地位を失う。これをローエンド(低価格帯)モデルによる顧客の浸食や取り込みとして実証的に分析し解明したのは、米ハーバード大学教授のクレイトン・クリステンセンである。

 IT市場において、このようなケースは過去にも多く存在した。たとえば、PC市場では、米デルや米コンパックがローエンド型破壊者として2000年代に攻勢をかけた。また、携帯デジタル音楽プレイヤー市場では、04年以降ソニーや米デルがローエンドモデルを市場に投下し、米アップルのiPodのポジションを脅かした。

 スマートフォン(スマホ)市場も例外ではない。中国のシャオミや台湾エイスースがローエンド型破壊的技術を用いて市場を席巻したのは記憶に新しい。どちらも100ドル程度の価格で市場に参入し、韓国サムスンやアップルのシェアを奪い去った。

 スマホ市場は今や成熟化しつつある。3月3日に米IDCが発表した調査結果では、世界のスマホ市場は飽和状態に達し、これまでのような2桁成長が見込めないと指摘している。16年のスマホ出荷台数は約15億台程度で、前年比伸び率が5.7%に止まるとの予測だ。スマホの出荷台数の伸び率が1桁台になるのは、IDCが統計を摂り始めて以来初めてだという。

●競合企業のシェアを奪う狙いか

 こうした状況のなか、先頃米グーグルがMVNO(仮想移動体通信事業者)サービスである「Project Fi」を米国で開始した。15年4月に同サービスを招待制で立ち上げ検証してきたが、これを一般公開したかたちだ。

 Project Fiでは、月額20ドル(約2200円)の基本料金で国内通話やテキストメッセージ、Wi-Fi経由のテザリングが使い放題で、これに1GB毎に10ドルのデータプランを追加していくシステムを採る。使わなかったデータ分は返金されるため、データ通信費を繰り越したり固定したりしている多くの競合企業のサービスに比べて、出費を抑えられることになる。

 たとえば、Verizonのデータプランでは、1GBで50ドル、3GBで65ドル、6GBで80ドルとなっている。これに対してProject Fiでは、1GBのデータプランを選択した場合、基本料金を加えても月30ドル(約3300円)で済むことになる。さらに使わなかった分のデータ料が返金されることを考えれば、競合に比べはるかに合理的な費用で済むことになろう。

 さらにグーグルは今回新規契約者を対象にして、Nexus 5Xを199ドルで提供する。16GBのモデルの定価が349ドルであることを考えれば、4割近くの値引きとなる。

 こうしたローエンドモデルは既存の通信キャリアにとっては脅威となる。グーグルとしては、端末と月額プランをセットにしたローエンドモデルで市場に切り込むことで、競合企業のシェアを奪う狙いであろう。

 唯一の難点は、対応端末が限られている点である。今のところ、Project Fiのサービスを受けられるのは、米スプリントや米ティーモバイルの4Gネットワークに接続できる専用SIMを搭載したNexus 6、Nexus 5X、Nexus 6Pの3機種だけである。いずれも、グーグルのオリジナルモデルだ。

 今後こうした難点が解消されて、利用可能な機種が増えれば、競合企業にとってさらなる脅威となろう。Project Fiのローエンドモデルとしての真価は、近い将来問われることになる。
(文=雨宮寛二/世界平和研究所主任研究員)