話題の米ハリウッド映画『オデッセイ』を見ていて突然「中国国家航天局」が出てきたのには驚いた。しかも、窮地に陥ったNASAを支援する救世主としての登場だった。中国の存在感は、現実の世界同様、映画の世界でも確実に高まっている。写真は同映画のパンフレット。

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話題の米ハリウッド映画『オデッセイ』を見ていて突然「中国国家航天局」(CNSA)が出てきたのには驚いた。しかも、窮地に陥った米航空宇宙局(NASA)を支援する救世主としての登場だった。3年前のヒット作『ゼロ・グラビティ』でも宇宙に取り残されたライアン博士(メディカル・エンジニア)が中国の保有する宇宙ステーション「天宮」にたどり着き、最後は中国の有人宇宙船「神舟」で地球帰還を果たした。中国の存在感は、現実の世界同様、映画の世界でも確実に高まっている。

舞台は2040年頃の火星。人類による3度目の有人火星探査ミッション「アレス3」は火星で活動を始めて18日目に、猛烈な砂嵐に襲われ、ルイス船長(女性)は船外活動を中止し、船内への避難を指示。しかし全6人のクルーのうち、植物学者でメカニカル・エンジニアのマーク・ワトニー(マット・デイモン)が折れた通信アンテナの直撃を受け、吹き飛ばされる。必死の捜索を行ったものの、発見できなかった。ルイス船長は「ワトニーは死亡した」と最終的に判断。そのまま火星にとどまっていると、宇宙船ヘルメス号の船体が倒壊する恐れがあるため、地球への帰還の途に就いた。ところが、ワトニーは奇跡的に生きていた。計画によると、次の探査機が火星にやってくるのは4年後。科学知識とポジティブ思考によるワトニーの生き残りを懸けた独りぼっちの闘いが始まる―。

「ワトニー死亡」の公表後、火星の衛星画像を調べていたNASAの職員は彼の生存に気付き、火星に食料を送るための補給機の準備を開始する。しかし、時間との闘いを強いられたNASAの救出計画は、食料補給船の打ち上げ失敗でとん挫。NASAは救出手段を失う。そこに登場するのが打ち上げ失敗をテレビで見ていたCNSAの局長だ。「なぜアメリカはわれわれに支援を求めないのか?」とつぶやく。

中国はちょうどその時、極秘に太陽探査衛星を打ち上げるために強力なブースター(補助推進装置)付きロケットの開発に成功したところで、そのブースターを使えば、補給物資の火星への供給は可能だった。しかし、そのことはNASAなどには知らされていなかった。CNSA局長はNASA長官にブースター提供を申し入れ、NASAはそれを受け入れる。それが決め手となり、ワトニーは救出に向かったヘルメス号と合流、地球への奇跡の帰還を達成する。

中国はブースターをあえて提供することで、米国に公然と貸しを作り、中国の宇宙航空技術の高さを世界にアピールできた。支援ロケット発射からワトニー地球生還までは手に汗握るシーンの連続で、必死に字幕を追ったが、内容をすぐには理解できなかった。あとで考えて見ると、中国によるブースター提供交渉の裏では米中の大いなる駆け引きが展開されていたようだ。中国は見返りに、将来のNASAの火星ミッション(アレス5)のクルーに中国人宇宙飛行士を乗り込ませる条件をしっかりNASAにのませていた。中国のオファーは単なる助け船ではなかった。

中国にNASAを助けられるだけの力があったのは確かだ。しかし、その役目が日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)に回ってきていてもおかしくなかったのではないか。米中は宇宙ではまだ敵対的な関係のはずである。それにもかかわらず、あの場面で中国が救世主の役割を演じたのには少しばかり違和感を覚えたのは私だけだろうか。

そう思わせるのは、最近のハリウッド映画における不自然なまでに露骨な「中国ヨイショ」傾向だ。『ゼロ・グラビティ』も中国は米国の味方、ロシアは悪役として描かれ、中国製の宇宙船が大活躍した。中国は既に日本を抜いて世界第2位の映画市場にのし上がっており、ハリウッドには中国との共同製作や中国人俳優の起用などで中国傾斜が目立つ。中国の不動産王が今年初め、『ジュラシック・ワールド』などのヒット作を製作した米大手映画製作会社レジェンダリー・エンターテインメントを約4000億円で買収した。恐らく今後、中国傾斜が強まるのは確実だろう。

救世主・中国の登場は原作(アンディ・ウィアーのオンライン小説『The Martian』邦題『火星の人』)の内容に沿ったもので、あの時期、あのタイミングで補給船を打ち上げる手段を持っている国として中国が選ばれたことに異論はない。それなのに違和感がなかなか消えないのは日本人としてのひがみ根性かもしれない。(編集委員・長澤孝昭)