NHK 大河ドラマ「真田丸」(作:作三谷幸喜/毎週日曜 総合テレビ午後8時 BSプレミアム 午後6時)
3月20日放送 第11回「祝言」 演出:田中正


喜びと憎しみと


「祝言の席を血で汚すおつもりですか?」(真田信幸/大泉洋)

真田信繁(堺雅人)は子を身ごもった梅(黒木華)と結婚することになった。紆余曲折ありながら行われることになった婚礼の式が、家康(内野聖陽)と通じて昌幸(草刈正雄)を裏切ろうとしている室賀(西村雅彦)を仕留める血塗られた場所となる。

前半、約23分間は、祝言をやるやらないに関する喜劇的なターンと、室賀の密かな裏切りというシリアスなターンが交互に描かれて、後半、それが祝言の場でひとつとなった時、それはまるで、オーケストラの演奏を聴いているような興奮だ。三谷幸喜、こんなに緻密に凝ったことを50回以上やり続けていたら体力もつのか、と心配になるほどの凄みだった。

11回について、堺雅人は、昨年行われた会見の席でこんなふうに述べていた。
「(台本を読んで)喜びと憎しみが同じくらいのピークでせめぎあいながら1話のなかで収まっているその感じに、ちょっと鳥肌が立ったんですよね。喜びと憎しみが同じくらいのレベルに達したら同じ感情になるんだなと思って。冠婚葬祭と死、血の匂いとめでたい匂いは実は同じなのだと。同じ人間から発するものだからそりゃあそうなんだと改めて感じる、凄みすら感じる回なんですよね。そのくせ、前半、くだらない(笑)ことで揉めたりしていて。でもそのくだらなさが、あとから全部回収されているんです。でもその、その、暗殺自体もそのくだらないやりとりと言われればそんな気もしないではないし……」(意訳)

まさにそういう感じで、三谷幸喜は、人間のあらゆる欲望を、式の場に詰めてぐつぐつと煮こんで見せた。結婚前に子供を作ってしまったちゃっかり信繁、決まりだから梅を正室にできないが、ちゃんと結婚式をあげてあげたい。側室に結婚式などさせたくないと思う母・薫(高畑淳子)。昌幸に対して不信感を抱く室賀。その室賀の企みを式を利用してその阻止しようと考える昌幸。式が終わるまでは弟には真実を知らせたくない信幸。信繁への思いを認めたくないきり(長澤まさみ)。それをはっきり指摘する梅。婚礼で、夫・信幸に頼まれたことを必死で遂行しようとするこう(長野里美)・・・このへんまでは各々の本音がわかる。だが、囲碁をしながら「同じような人生を歩んで来た。幼い頃よりわしの前にはいつもおぬしがいた だがわしは、人として 武士としておぬしにおとったとおもったことは一度もないただの一度も」と語る室賀と、そんな室賀に自分につけと言う昌幸。このふたりはどこまで本音でどこまで芝居なのか最後の最後までわからない。

三谷は、人間、いろんな欲望があるよねえと、碁石を白黒、並べて見せるのではなく、碁石が、白から黒へ、黒から白へ変わる瞬間の軌跡をも描いていて、そこにこそ見応えがある。しかも、それが、昌幸と室賀のハードなやりとりだけでなく、信繁と信幸の、それは言うけど、それは秘密なのか! と人の基準は様々であることを笑う「口吸い」話でも、一貫して、価値観の変化に対する視点が生かされているところが面白い。
その三谷の脚本の面白さをわかりやすく視覚化しているのが演出家による絵作りだ。これは以前のレビューでも書いたが、今回も、室賀と昌幸の囲碁勝負の時、シンメトリーに撮られたふたりの背後に、信幸がいて、彼が昌幸のほうに寄っていることで、明らかに室賀の分が悪いことがわかる。

オープニングの映像にも意図が感じられる。城の中に入ると、薄暗い室内に格子から光が漏れて、その光と影のコントラストが印象的で、真田昌幸を中心に移り変わる人の思惑を視覚化しているようにも見える。とりわけ、11回では、このオープング映像が意味深に感じられた。
こんなふうに、脚本も画も、凝りに凝ったドラマなのだが、堺が、暗殺自体もくだらないと言えないこともないと鋭い指摘をしているように、おそらく作家の視点は、薫ときりの台詞に集約されているのではないか。

暗殺の場に、新婚ほやほやの信繁と梅を連れていき「あなたたち いいの これで?」と問いかけるきり(連れていくのもどうかと思うが)。
梅との結婚を許してもらおうと策を弄する信繁に「どうしてそのような小細工するのです。なぜ正々堂々と向き合わないのです」と糾す薫。これは相手の出方を伺いながら芝居ばっかりしている昌幸や信繁たちへの痛烈な批評ではないだろうか。
実際、ラストで信繁は「あの時 梅のために怒り泣いたのは私ではなかった」と苦悶している。
ぼんやりしていると思った長男・信幸すら、室賀が浜松に行っていることを探る芝居に参加していて、じつは、ぼんやりキャラは演技なのかとドキドキさせられた。いったい男たちはどこまで騙し合いをし続けるのか。

もっとも、三十郎(迫田孝也)みたいに、梅のいる前で「おきりさんと一緒になるものと」とか言いだす正直さはどうかと思うけれど。
こんなふうに、言わないことの面白さだけでなく、言っちゃう人(薫や三十郎)や、本音がねじれちゃう人(きり)の可笑しさや辛さもちゃんと描いている豊かな「真田丸」、12回は、いよいよ、青春編クライマックスと盛り上げる。
(木俣冬 イラスト・エリザワ)