誰もが注目したネイマールとスアレスの対決。共に有する決定力を活かしたのは後者だった。 (C) REUTERS/AFLO

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 2014年ワールドカップのイタリア戦で、ジョルジョ・キエッリーニの左肩に噛みついてFIFAから代表公式戦9試合出場停止の処分を受けていたウルグアイ代表FWルイス・スアレスが、3月25日、実に1年9か月ぶりに代表の公式戦のピッチに戻ってきた。
 
 舞台は、ブラジル北東部レシフェで行なわれた2018年ロシア・ワールドカップ南米予選のブラジル戦。バルセロナで無敵の南米トリオ「MSN」を形成するネイマールとの初対決とあって、さらにこの一戦は大きな注目を集めた。
 
 それぞれのチームのキャプテンを務めたふたりは試合前、コイントスの際に抱き合って言葉を交わし、互いの健闘を誓い合った。
 
 ネイマールは3トップの左サイドから中央にかけてのエリアで、スアレスはエディンソン・カバーニと組む2トップの一角としてプレー。共にファウルまがいの厳しいマークを受けながら、チームの勝利のために死力を尽くした。
 
 前半、よりチームに貢献したのはネイマールだ。7分、左サイドで右SBダニエウ・アウベスからパスを受けると、内側へ回り込んで鋭いシュートを右足で放ったが、揺すったのはサイドネットの外側だった。
 
 しかし26分には、チームの2点目を演出する。中盤で巧みなドリブルでスペースを作り、右サイドへ鋭いスルーパス。これを受けたMFレナト・アウグストは、GKをかわしてシュートを叩き込んだ。
 
 ネイマールは33分にも果敢にミドルシュートを放ったが、これは右ポストをわずかに外れた。
 
 一方のスアレスは前半、厳しいマークを受けてほとんど仕事をさせてもらえなかったが、48分にようやく、本領を発揮する。
 
 左サイドでのスルーパスでブラジルの最終ラインを抜け出すと、CBダビド・シウバのマークをかいくぐり、強靭な下半身で踏ん張りながら、左足でファーサイドへ送り込んだ。貴重な同点ゴールだった。
 
 その後も、身体を張ってチャンスを作り続けたスアレスは、87分に絶妙のFKを放ったが、惜しくも外れた。
 
 試合は2‐2で終了したが、スアレスが笑顔でネイマールの肩を抱いたのに対し、ネイマールは苦笑いだったのが、この一戦における両者のプレー内容を如実に物語っていた。
 スアレスの復帰によって、ウルグアイは前線に確かなポイントが生まれただけでなく、その縦への鋭い飛び出しから決定機が作られ、しかも彼がそれを決め切ることで、チームの得点力が格段に向上した。
 
 戦術やテクニカルの部分だけでなく、チームには劣勢を跳ね返す粘りも生まれた。この試合でウルグアイが得た勝点1は、スアレスの傑出した決定力と精神力による部分が大きかったのである。
 
 試合後、上々の再スタートを切ったヒーローは、「久々に代表へ復帰するにあたって、自分の全ての力を振り絞ってチームに貢献したい、という気持ちで一杯だった。敵地で2点のビハインドをはね返したことは、我々にとっては大きな自信になる」と胸を張った。
 
 対するネイマールは、2点目をアシストしたとはいえ、シュートがことごとく外れるなど、悔いを残した。結果的にそれが、ブラジルがホームで勝点2を失う大きな要因となったのだ。
 
 大声を出しながらチームメイトを鼓舞するも、後半はチーム全体が受けに回ってしまった。キャプテンは試合後、「勝利をモノにするチャンスがあったのに、決め切れなくて本当に残念……」と顔を歪めた。
 
 ウルグアイにとっては、2位をキープする貴重な引き分けであり、ブラジルはウルグアイを抜いて2位に浮上する絶好の機会を逃した。
 
 ふたりの代表戦における初対決は、こうしてスアレスに軍配が上がった。ただし、それは、今後の南米における「MSN」対決の始まりにすぎない。

ブラジル 2‐2 ウルグアイ
得点:ブ=ドグラス・コスタ(1分)、レナト・アウグスト(26分) ウ=エディンソン・カバーニ(32分)、ルイス・スアレス(48分)

ロシアW杯・南米予選順位(5節終了時点)
1位:エクアドル(勝点13)
2位:ウルグアイ(10)
3位:ブラジル(8)
4位:パラグアイ(8)
5位:アルゼンチン(8)
6位:チリ(7)
7位:コロンビア(7)
8位:ペルー(4)
9位:ボリビア(3)
10位:ベネズエラ(1)
※4位までが自動通過。5位はプレーオフ進出

文:沢田 啓明