WEEKLY TOUR REPORT
米ツアー・トピックス

 アーノルド・パーマーが、マスターズ(4月7日〜10日/ジョージア州・オーガスタ・ナショナルGC)のオープニングセレモニーともなっている、名誉スターターからの引退を発表した。2007年以来、ゴルフ界の春の祭典は、パーマーのショットで始まりを告げていただけに、彼のショットがもう見られないのは残念でならない。

「アーノルド(・パーマー)にとって、マスターズがどれほど特別なものだったのか、(私は)一番よく知っている。だから、この決断はとても大変だったに違いない」

"盟友"ジャック・ニクラウスはそう語って、パーマーの胸中に思いを馳せた。

 パーマーがゴルフ界に残した功績は計り知れない。いや、ゴルフ界だけではなく、アメリカのプロスポーツ界にとって、彼はある種の指針を示す先駆者的な存在だった。

 現在、86歳のパーマーは、メジャー7勝、そのうちマスターズには4度も優勝している。最初に勝ったのは、1958年大会。この勝利によって、ゴルフというスポーツがアメリカ国内で大衆的な人気を得るきっかけとなった。

 当時は、ちょうどアメリカでテレビが普及し始めた頃で、パーマーの活躍に国内全体が沸いた。その強さはもちろんのこと、まだ20代のパーマーは、とにかくハンサムで格好よかった。それが大きかった。

 そして、カリスマ的な存在となったパーマー。そんな彼を、世の女性たちが放っておくはずもなく、『アーニー・アーミーズ』と呼ばれる、今で言う"追っかけ"が登場するほどだった。

 プロゴルフ界が、大きなビジネスに転じたのも、パーマーの功績である。

 弁護士だったマーク・マコーマック氏とともに『インターナショナル・マネージメント・グループ(IMG)』を創設し、選手のスケジュール管理やスポンサーとの契約など、マネジメント業務を行なった。現在の"エージェント"という仕組みを作り、選手がプレーに集中できる環境を作ったのは、実はパーマーだったのだ。

 その後、IMGは選手のマネジメント業務だけでなく、世界中のゴルフトーナメントに企業のスポンサーを誘致するという、新しいビジネスモデルを構築。今やゴルフに限らず、テニスやファッションなどあらゆるイベントも手がけるようになり、世界中に拠点を持つグローバル企業へと成長した。

 また、パーマーのゴルフ界での功労、そして功績を理解しているからこそ、トップで活躍するプロの誰もが、彼には敬意を払っている。

 通常、PGAツアーの試合を選手が欠場する際、冠スポンサーのトップや関係者に、選手自らがそのことを連絡することはほとんどない。しかし、先週のアーノルド・パーマー招待(3月17日〜20日/フロリダ州)では、欠場したバッバ・ワトソンやリッキー・ファウラーらトッププロは皆、今年の大会に出場できない旨を、直接パーマーに連絡して陳謝している。それほど、パーマーは偉大な存在なのだ。

 IMGをはじめ、パーマーはゴルフ界で大成功したビジネスマンと言ってもいいだろう。現役時代からコースデザインを世界中で手がけ、日本でも傘のロゴマークで知られる、アパレル等の『パーマーブランド』は、今でも世界中で人気だ。

 2006年にシニアトーナメントから引退し、PGAツアーからも完全に退くこととなったが、衰えぬ人気のおかげで、一昨年の2014年、アメリカ経済誌『フォーブス』の長者番付において、"引退したアスリート部門"でマイケル・ジョーダン(元プロバスケットボール選手)、デビッド・ベッカム(元プロサッカー選手)に次いで、パーマーは世界第3位となった。その年収は、およそ4200万ドル(約47億円)と報じられている。

 それらの収入は、有名ブランドのアパレル収入だけではない。今やその多くは、"ある飲み物"によるものだ。

 アメリカのゴルフ場のレストランで「アーノルド・パーマー」と注文すると、必ず出てくる飲み物がある。それは、パーマーが大好きだった、レモネードとアイスティーを半分ずつに割ったドリンクだ。そのドリンクが今では、スーパー等でも缶ジュースとして売り出されるようになって、アメリカの多くの人々に愛飲されているのだ。

 このドリンクの人気からも、パーマーが老若男女を問わずに親しまれる人気者、スーパースターであることがうかがい知れる。

 その偉大なるパーマーのショットが、今年はもうマスターズで見られない。ナイスショットのあと、いつも決まって見せていた、"サムアップ(親指を立てる)"をしながら頬を緩める彼の姿は、今度のオーガスタ・ナショナルGCにはない。時代の流れとはいえ、寂しい限りである。

 現在のプロゴルフ人気を確固たるものにしたのは、アーノルド・パーマーという偉大な選手が存在したからに他ならない。今回の名誉スターター引退を機に、そんな彼の功績に改めて敬意を表したい。

text by PGA TOUR JAPAN