日本郵政グループは昨年11月に株式上場した。左がゆうちょ銀行の長門正貢社長 (c)朝日新聞社

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 マイナス金利導入で最も経営が懸念される「ゆうちょ銀行」。預金限度額引き上げの見通しが報道されているが、“伝説のディーラー”と呼ばれた藤巻健史氏は、預金預かりは制限すべきだと指摘する。

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 私は昭和49年に邦銀に就職し、1年3カ月の事務研修後に配属されたのは千葉支店のお金集めの部署だった。最初の仕事は「県警の方が殉職された。死亡退職金をいただいてこい」だった。「え〜、そんな〜、無理ですよ」とショックを受けた。2週間、毎日お線香を上げに通ったが、無駄だった。しかし1年後には「死亡保険金の藤巻」との異名を取るほどになった。口が回らず、しょぼくれていた私には向いた分野だったのかもしれない。

 当時の邦銀は預金の獲得に血眼だった。規制でがんじがらめの金融行政下においては、利益は資金の獲得量に比例した。預金量の多寡で銀行の格が決まり、新聞1面トップには資金獲得ランキングがしばしば載ったものだ。

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 3月12日付の日本経済新聞はゆうちょ銀行に関する記事で「企業や個人向けに融資できないゆうちょ銀行は、約200兆円の資産の運用を国債などに頼っている。そのため3メガ銀行などに比べて収益環境は厳しい」と論じている。

 マイナス金利政策を導入した直後、銀行の経営懸念が出て銀行株が大幅に下落した。これが株式市場全体の足を引っ張ったのだが、マイナス金利導入で最も経営が懸念されるのが、日経新聞にあるとおり、ゆうちょ銀行なのだ。ゆうちょ銀行は一時資産の88%を国債で運用していた。幸いなことに日銀の「異次元の量的緩和」のおかげで急速に国債保有額を減らすことができた(=日銀に売りつけた)。しかし、まだ全資産の45%ほどが国債なのだ。社債を含めた有価証券は今でも全資産の75%にものぼる。

 この国債の利回りが10年債まで一時マイナス0.1%まで下がってしまった。運用しようと思って国債を購入しても利息をもらえないどころか、逆に支払わなくてはならない。預金金利がマイナスにならないのなら、運用サイドでも調達サイドでも利息を払うことになる。今保有する国債の値上がり益でいったんは利益が出てもその後が苦しい。 メガバンクなど他の民間金融機関はそこまで苦しくはない。三井住友フィナンシャルグループの有価証券保有額は全資産の14%にすぎず(国債はその半分程度と思われる)、資産の主力は貸付金だ。貸付金の利回りは国債よりもはるかに高い。今のところマイナスになることも考えにくい。

 ゆうちょ銀行は世界最大級の銀行だ。経営環境が悪化すれば影響はゆうちょ銀行のみにとどまらない。株式市場全体にも悪影響だし、債券市場も「タテホショック」のときのような「ゆうちょ銀行の国債投げ売り」を連想するかもしれない。タテホショックとは、1987年、タテホ化学工業が国債先物取引で失敗し巨額損失が発覚、国債市場が暴落したこと。

 このようなときは「なるべく預金受け入れ額を減らし、損失の垂れ流しを防ぐ」ことが生き残りの一案だと思うが、9日のロイター通信によると、ゆうちょ銀行は4月から貯金限度額を1千万円から1300万円に引き上げる見通しとのことだ。私が民間銀行の経営者であれば、プラス金利の預金預かりをなるべく制限しマイナス金利の市場からの調達に切り替えるのだが。

 それにしても「預金を集めるな!」の時代がやってくるとは、社会人になった当時の私には想像だにできなかった。時代が変わった。

週刊朝日 2016年4月1日号