デザイナーの小西哲哉CCO

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「3Dプリンタで部品を出力し、3万円程度の材料費で作れる」と言われると、何を思い浮かべるだろうか。プラモデルの話ではなく、2015年グッドデザイン賞も受賞した電動義手「HACKberry(ハックベリー)」なのだ。その見た目は、SF映画に登場するようなスタイリッシュさで、義手のイメージを大きく変えるデザインだ。

義手を健常者も憧れるようなツールに

「HACKberry」を開発したのは、代表の近藤玄大CEOと、メカエンジニアの山浦博志CTO、デザイナーの小西哲哉CCO、わずか3人で構成されるベンチャー企業「exiii(イクシー)」だ。近藤氏と山浦氏は大学院時代、同じ研究室で義手やリハビリ機器の研究をしていたが、大手メーカー就職後も義手の研究を続けたいと考えていた2人に声をかけられたのが、小西氏だった。

「当時はパナソニックでウェアラブル端末のデザインを担当していました。義手はいわば究極のウェアラブル。デザインのし甲斐があると感じました」(小西氏)2013年に英大手家電メーカー、ダイソン主催の「James Dyson Awards」にコンセプトモデルの電動義手を出品。日本人初となる2位を受賞すると3人は起業し、本格的に開発に取り組み始めた。

HACKberryの基本コンセプトは「3Dプリンタで作れる電動義手」であること。そのため、各パーツは3Dプリンタで出力するのに適した形状にデザインされており、スタイリッシュな見た目の一因となっている。

「ウェアラブル端末をデザインしていた経験から、道具がデザインされていないのには違和感がありました。義手も腕時計やスニーカーのようにデザインされ、ユーザーが好きなデザインを選んで個性を表現するものにしたいと考えたのです」(小西氏)

確かに、HACKberryは健常者も憧れるような「格好よさ」がある。問い合わせてくるユーザーからも「デザインが気になった」という声が多く寄せられ、海外の展示会でも、実際に装着したユーザーの姿を見て、多くの人が握手を求めてくるという。

低コスト化で普及めざす

マイナスをゼロにするのではなく、生身の腕に似せた義手とは違うプラスをもたらす、健常者と義手ユーザーのコミュニケーションを変える、という意味で、このデザインもひとつの義手のあり方だろう。

「人の意識やイメージを変える力を持っているのが、デザインだと思います。HACKberryを見た人たちの反響から、自分もそんなデザインをすることができたと実感しますね」(小西氏)

しかし、3Dプリンタを利用するのは、見た目のためだけではない。理由のひとつは低コスト化による電動義手の普及だ。義手はユーザー数が非常に少なく、年間の製造数も100本程度とされている。製造している企業もほぼ1社のため、何かをつまむだけ、といった最低限の機能の電動義手でも150万円にはなる。

公開されている設計図をもとに3Dプリンタで部品を出力し、ユーザーが自分で組み立てれば、材料費の3万円程度ですむ。専門的な作業に特化した義手ほどではないものの、靴ひもを結ぶ、洗濯物を取り込む、歯磨きをするといった日常生活の補助程度は問題なくこなせる。

もちろん、組み立てにはある程度の専門知識が必要になるし、そもそも3Dプリンタが必要だ。それでも、「使ってみたかったけど使えなかった」というユーザーにとっては、低コストで電動義手を入手する機会にはなる。

オープンソースで世界に広げる

もうひとつの理由は、オープンソース化、つまり設計図やプログラムを一般に公開して、誰でも自由に利用できる状態にし、多くのエンジニアに開発に参加してほしい、と考えているためだ。

「3人だけでは、開発のスピードやより精度を高めるための時間が、どうしても長くなります。オープンソース化すれば、ユーザーが開発者にもなり、HACKberryを使いながらリアルタイムにフィードバックを送ってくれます」(小西氏)

そのためには、複雑な生産設備で作られるものではなく、3Dプリンタで出力できるという手軽さが必要になる。2015年5月に、商用ライセンスも許可したうえでオープンソース化して以来、狙い通り、世界中から多くの反響があるという。米国やロシア、中東などからは、販売の打診も来ている。

「ポーランドのエンジニアは、先天性上肢欠損の子どものために、サイズを70%まで縮小。モーターや部品を変更して再設計したHACKberryを作り、最近動く状態になったと連絡をくれました」(小西氏)

さらに多くの人に参加してもらえるよう、現在、モーターなどの部品や基盤などをキット化し、販売する計画を進めている。

「オープンソース化しているハードウェアというのはまだ少なく、僕たちも試行錯誤を続けている状態です。エンジニアだけでなく、医療関係者や装具士など、さまざまな分野の専門家にもHACKberryのコミュニティに参加してもらいたいですね」(小西氏)

エイジングスタイルは「GOOD DESIGN Marunouchi」とコラボレーションし、2016年3月30日にGOOD DESIGN Marunouchi(東京都千代田区)にて、トークイベント第1回「歩行と姿勢のデザイン」を開催する。詳細はこちら

参考
「HACKberry」を動かしている様子(YouTube)
https://youtu.be/LgA_p9dB_5Y
「HACKberry」より前に開発された電動義手「handiii」(YouTube)
https://youtu.be/iTIMLzPLPOI

(Aging Style)