早見あかり ももクロ時代の経験が私を支えている「度胸だけは誰にも負けない」
アイドルから女優への転身――早見あかりはその“難業”を成し遂げようとしている。ドラマや映画への出演が相次ぐ彼女が次に挑戦するのは、舞台『夢の劇-ドリーム・プレイ-』。難解な精神世界を題材にした、世界でも上演機会の多くない作品だ。白井晃×長塚圭史のタッグによる舞台化であり、実力派の俳優陣が顔を揃える。その真ん中に立つのが、初舞台かつ初主演の早見。計り知れないプレッシャーを背負っているであろう彼女に、現在の心境を聞いた。

撮影/すずき大すけ スタイリング/大石裕介 ヘアメイク/青山理恵(nude.) 
取材・文/野口理香子 

女優一本でやっていく 覚悟を決めた瞬間



――小学生の頃に芸能界入りされていますが、当時から女優になりたいと思っていたんですか?

スカウトされて芸能界に入ったので、正直、何も考えていませんでした。中学生になると取材で「何になりたいんですか?」と質問されることがよくあったので、「女優」って答えていました。(所属事務所の)スターダストが女優畑だから、「女優」って言っておけばいいかなって(笑)。

――そうだったんですね(笑)。2008年に、アイドルグループ・ももいろクローバー(現・ももいろクローバーZ)に加入されました。

そのときのマネージャーに声をかけられて。「あかりん、ももクロ入る?」「入りまーす」っていうノリでした。とりあえずいろいろやってみようと。

――演技のレッスンなどは受けていたんですか?

中1の頃に1年間、受けていました。ももクロと並行して、ひとりでのお仕事もさせていただくようになって、そのなかにお芝居のお仕事もあって。そこで初めてお芝居に触れて、面白さに気づいたんです。アイドルとして歌って踊って表現するよりも、演技で表現したいと思うようになりました。

――2011年にももクロを脱退してからは、女優業に専念されてきましたが、女優一本でやっていこうと決断したのはいつ頃ですか?

高校を卒業するタイミングで、大学に進学しないって決めたときかな。ももクロを辞めるときに「女優になりたい」って言ったのも、決して適当な気持ちじゃないんですけどね。

――決断した背景にはどういう理由が…?

芸能活動と学業を両立されている方もいっぱいいますけど、私は器用なタイプじゃないから、優先順位が1番に大学、2番に仕事ってなると思うんです。大学を4年で卒業するために仕事が後回しになっちゃう。もちろん、大学で学びたいことが明確にあるならそれでもいいと思うんですけど、私の場合、やりたいことも漠然としていて…。



――大学は、行こうと思えばいつでも行けますからね。

そうですよね、本気で学びたいものを見つけたら、そのときに通えばいい。だからいまは、いましかできない女優のお仕事に専念してみようと。それに保険をかけなければ頑張れるんじゃないかなって自分を追い込みました(笑)。

――2014年公開の『百瀬、こっちを向いて。』で映画初主演。2015年放送の『ラーメン大好き小泉さん』で連続ドラマ初主演。女優として確実にステップアップしている実感はありますか?

“モデル・早見あかり”という見方をされていたのが、ここ1年くらいで女優として現場に呼ばれるようになってきました。ももクロを脱退した直後は、モデルのお仕事が多くて。モデルのお仕事は好きだから今後も続けていきたいんですけど、やっぱり一番やりたいのは女優のお仕事。いまは毎日が充実していて楽しいです。

――女優のお仕事のどんなところが楽しいですか?

いろんな人になれるところです。私が私として生きていたら、きっと「早見あかり」の考え方だけで生きていくことになると思うんですけど、女優のお仕事を通して、いろんな人になることができる。今回の舞台もそうですけど、ファンタジーの世界に飛び込むことだってできますからね。

――なるほど。

それに私は飽きっぽい性格なので、いろんな役を演じて、気持ちを切り替えられるのも楽しいんですよね。たとえばドラマだったら1クール、3ヶ月ごとに出会いと別れがある。別れるときは悲しいんですけど、3ヶ月ごとに違うことにのめりこめるのは、私の性にあっていると思います(笑)。



制作発表で見せた涙 その理由は…



――そして今回、『夢の劇 -ドリーム・プレイ-』で本格的な舞台に初挑戦。1月の制作発表では、涙を流す場面もありましたが…。

そうそうたるキャストのみなさんに囲まれて、いよいよ逃げられないぞと思ったら、緊張が爆発して泣いちゃいました。

――もともと舞台に挑戦したいという気持ちはあったんですか?

舞台を見に行くことはあって、スゴいな、面白いな、どうやって作っているんだろう!?って思うんですけど、自分がそこに立っている姿を想像したことはありませんでした。未知の世界すぎますね…。

――共演者のみなさんが支えてくれますよ!

共演者の方は「大丈夫だよ」「若いんだからセリフも入るよ」って励ましてくれるし、優しいんですけど、みなさんのレベルが高すぎて…。しかも、構成・演出は白井さん、台本は長塚さん。素晴らしい舞台になることが決まっている。私が真ん中に立って、それを壊してしまわないか…不安だらけです。

――会見での早見さんの涙を見て、想像以上のプレッシャーなんだろうなと思いました。

私は強いハートの持ち主だと思われがちなんですけど、実際はビビりだし、普通の人間なんですよ。でも、腹をくくったときの度胸だけは、誰にも負けないという自信があります。



――制作発表から約2ヶ月が経ちましたが(※取材したのは3月上旬)、いまはどんなお気持ちですか?

緊張や不安がなくなったわけじゃないんですけど、いまはあんまり実感がないです。

――落ち着いている?

冷静になっているわけじゃないです。考えないようにしているんですね、きっと。本番のことを考えると怖くなるけど、どんなに怖がっていたって4月12日にお客さんの前に立つという事実は変わらないですからね。

――出演が決まった経緯を教えていただけますか?

マネージャーさんから「あかりちゃんでやりたいってオファーが来ているけど、どうする?」ってこの本を渡されたんです。それで読んでみたら、本当に意味がわからない(笑)。とてもむずかしくて…。

――ストリンドベリ原作ですが、もともと上演を目的として書かれた戯曲ではなく、精神世界の迷宮のような混沌とした内容ですもんね。

稽古が始まってからいろんな人の意見を聞いて、頭のなかで噛み砕いたりしながら、理解に努めている感じです。