約1万6500人もの障害者が不妊手術を強制された(shutterstock.com)

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 3月12日付けの毎日新聞の報道によると、国連の女性差別撤廃委員会は「対日定期審査」の最終見解を発表した――。

 最終見解では、旧優生保護法の下で「不良な子孫の出生防止」のために、約1万6500人もの障害者が本人の意思を無視した不妊手術を強制させられた事実を問題視し、その権利侵害に対して、日本政府は補償も謝罪もしていない事実を指摘している。

 そして、不妊手術の実態を調査したうえで、加害者を訴追し、すべての被害者に法的な救済や補償を実行するように強く勧告した。
 
 国連の女性差別撤廃委員会は、1981(昭和56)年、国連総会で発効した女子差別撤廃条約(女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約)の履行を監視し、提案・勧告を行うために設置された、外部専門家23名(弁護士、外交官、国会議員、学者、女性団体、NGO代表)による人権擁護組織だ。

 女子差別撤廃条約の選択議定書によると、この条約の違反によって女子差別の被害を受けた被害者は、女子差別撤廃委員会に対して被害を通報できる個人通報制度がある。

 しかし、日本はこの議定書を批准していない。批准を求める請願が国会に提出されたが、政府は「司法権の独立を侵す可能性がある」として個人通報制度を拒否している。

国民優生法により昭和16年から昭和20年までに435件の優生手術(不妊手術)

 日本で「国民優生法」が成立したのは1940(昭和15)年。太平洋戦争の開戦前夜、避妊も中絶も不妊手術も許されない「産めよ殖やせよ」の過酷な時代だった。この国民優生法に基づいて行なわれた、遺伝性疾患のある患者に対する優生手術(不妊手術)は、1941(昭和16)年から1945(昭和20)年の5年間で435件だった。

 優生手術は、生殖腺を除去せずに精管や卵管を結紮(けっさつ)して生殖を不能にする手術だ。結紮とは身体の一部を縛って固定する外科的処置をさす。断種ともいう。

 男性の優生手術は、両側精管結紮切除術(パイプカット)と呼ばれる。男性の精巣(睾丸)から精嚢につながる2本の精管を切断・閉塞すると、精嚢に精子が供給されなくなるため、精嚢腺と前立腺から分泌される精液に精子が存在しなくなる。

 だが、精液はなくならず、射精も可能だ。睾丸に血流があれば、精巣で造られる男性ホルモンも分泌される。避妊の効果(失敗の確率)を示す指標であるパールインデックス(PI)は、0.10〜0.15%と低い。

 母体保護法に基づいて行われるので、子どもが複数あり、配偶者の同意がある既婚男性であることが手術の条件だ。精巣の精子生成の機能が衰退することから、再接続手術で受精機能を回復することは困難になる。

 一方、女性の優生手術は、卵管結紮術と呼ばれる。女性の卵管を糸で縛ると、卵子が卵管を通過しなくなるため、妊娠しなくなる。パールインデックス(PI)は0.5%程度。稀に卵管がつながって妊娠することもある。

 パイプカットと同様に、母体保護法に基づいて行われるので、子どもが複数あり、配偶者の同意がある既婚女性、または妊娠・出産が生命に危険を及ぼす持病があるため、避妊を希望する女性であることが手術の条件だ。

 未婚で不妊手術を受けた場合は、結婚時に配偶者に対して手術の事実を告げる義務がある。
1948年から1996年までに1万6500件の強制不妊手術

 戦後の1948(昭和23)年から施行された「優生保護法」は、優生学上の見地から不良な子孫の出生を防止し、母体の健康を保護するために、本人の同意がなくても優生手術を実施できるように定めた法律だ。

 優生保護法は、遺伝性疾患だけでなく、ハンセン病や遺伝性以外の精神病・精神薄弱を持つ患者に対する優生手術・人工妊娠中絶・受胎調節の実地指導などを定めた。

 優生保護法の成立後の1949年から1994年の46年間に、障害者の同意なしに強制的に行なわれた優生手術は1万6500件に上る。その68%(1万1220件)は女性だ。一方、同意に基づく優生手術は80万件以上あった。

 だが、人権意識の高まりや過剰な優生思想の反省から、1996(平成8)年に、優生保護法は母体保護法に改正された。優生思想に基づいた障害者とハンセン病患者への強制的な優生手術に関する条文が削除されたため、本人および配偶者の同意のない優生手術は禁止された。

 ちなみに、本人の意思を伴わない強制的な不妊手術 は、国際刑事裁判所ローマ規程第7条で「人道に対する罪」に認定されている。

 今回、行なわれた女性差別撤廃委員会の勧告の主眼は、子どもを産んでよい人と子どもを産んではいけない人を国は選別できない、不良な子孫の出生防止は、障害者の差別につながるという点に尽きる。 

 子どもを産む、産まない能力や事情によって、女性は差別を受けてはならない。女性だけに過重な出産・育児の責任や負担をかけてはならない。男性も分かち合わなければならない。

 自由な意思による妊娠・出産は、障害の有無に関わらず、万人に保障された基本的人権だからだ。
(文=編集部)