◆廣瀬俊朗インタビュー@後編

 北野高校、慶応義塾大学、東芝ブレイブルーパス、そして日本代表と、各カテゴリーでキャプテンを務めてきた廣瀬俊朗(ひろせ・としあき)。30年間の現役生活にピリオドを打った今、彼はどんなビジョンを描いているのか。ジャージを脱いだ廣瀬氏に「日本ラグビーの未来」について聞いた。

―― 初めてラグビーワールドカップに参加して、何を感じましたか?

廣瀬俊朗(以下:廣瀬):ラグビーワールドカップは1日中楽しめるイベントで、「スポーツは改めて素晴らしい」と感じました。観客が楽しんでくれれば、また来てくれるようになります。日本ラグビーはまだまだ考えないといけないこと、やらなければいけないことがありますが、「夢と現実のバランス」も考慮しないといけない。そうしないと、何もできない、夢物語になってしまいます。

―― そんな印象を抱いた今、引退後はまず何をやりたいと思っていますか?

廣瀬:「ラグビーの選手会」を立ち上げることですね。まだ選手のなかでも温度差がありますが、日本ラグビーのためにやるから、僕たちを信じてほしいと伝えています。2019年に日本で開催されるワールドカップまで時間はあるようでないから、できる限り早く立ち上げて、ラグビーの普及や選手の環境改善などに取り組んでいきたいです。

―― 具体的に「選手会を立ち上げたい」と思ったきっかけは何ですか?

廣瀬:昨年6月、選手たちがスーパーラグビーの日本チーム(サンウルブズ)と契約することになったことが一番の要因です。日本ラグビー協会も初めての経験だったので、「どういう過程でチームを作るか」という過程がうまくいっていなかった。そのしわ寄せが選手たちにきて、契約状況が良くないままでもサインをしてくれ、と言われてもできませんでした。選手は契約に関して素人だし、日本代表の合宿にも集中したかった。そのときに選手会があれば、契約のことを任すことができたけど、当時はなかったので、IRPA(International Rugby Players Association/ラグビー国際選手協会)にお願いしました。

 そしてもうひとつ、きっかけになった出来事があります。それは、ワールドカップを終えて日本に帰ってきて、トップリーグの開幕戦のチケットが完売となり、満員になると言われましたが、実際には満員にならなかったことです。日本ラグビー協会ばかりに任せていてもいけない。選手会が日本ラグビーのために行動することが、良い方向に行くことにつながると思っています。

―― 社員選手は各企業の労働組合にも入っています。選手会と組合は何が違うのでしょうか?

廣瀬:ラグビー部員の給料を上げようとするのであれば、各企業の労働組合に対して働きかけをしますが、選手会はあくまで「日本ラグビーを良くするため」の組織です。日本ラグビー協会に対して、日本代表や7人制代表の環境改善――たとえば、「選手をいつ休ませるのか」「保険に関してはどうなっているか」など、選手を守るための話し合いをします。だから、労働組合とは関係ありません。

 また、日本代表のマーケットが大きくならないと、「日本代表で拘束される期間のお金を上げてくれ」という話はできません。そのような、選手が意見を言ったり行動したりするとき、選手会として独立しているほうが動きやすい。企業がラグビーチームを持っているのはCSR(企業の社会的責任)の色合いが強いので、「日本ラグビーのため」という考えよりも、「自分たちの従業員のため」という思いに重きを置くのはしょうがない。そこで、誰が日本ラグビーのためにやるのかと考えたとき、選手たちも何かをやる必要があるのではないか。そういう意味でも、選手会を立ち上げたほうがいいと思いましたね。

―― いつごろ、選手会を立ち上げようと思っていますか?

廣瀬:「今年の3月中」と思っていましたが、組織はいろいろとあって難しいですね。ただ、100%決まってから立ち上げるのでは遅くなりますし、ある程度、説明したら動き出したいと思います。いきなり大きいことはできないと思うので、少しずつやっていきたい。

 あと、日本ラグビー協会の理事会のなかに『アスリート委員会』ができて、「そのメンバーのひとりにならないか?」と打診されました(3月17日の理事会で了承)。選手会の誰かが理事会に出ることは大事ですし、いろんなことが聞けますので、小さなステップにもなると思っています。この半年から1年は、選手会やアスリート委員会の仕事をやっていきたいです。

―― その後は、どうする予定ですか? 指導者やコーチングの道、またはマネジメント側の道もあるかと思いますが。

廣瀬:模索したいと思います。海外に行く道も考えていますが、今の会社の状況もあるので、ハッキリとはしていません。コーチングもマネジメントも両方やったことがないですし、正直いってどっちがやりたいのかさえ、今はわからない。本当にやろうと思ったら、どっちもできると思いますが、ずっと選手をやってきて、次はどっちがいいのか......。普及活動や講演会などをやりながら、自分自身がどうなりたいのか見えてくればいいかなと思っています。

―― 最後に、引退後の廣瀬さんのどんなところに注目してほしいですか。

廣瀬:ラグビー選手をずっとやってきましたが、コーチングにしろ、マネジメントにしろ、素人に近いので、勉強の数年間になると思います。選手会の立ち上げやラグビーのクリニックなどはやりますが、それ以外のところで経験を積んでいきたいですね。とりあえず、僕はこれからそんなに表舞台に立つ立場ではなくなり、何年間かは修行していますから、また数年後にお会いしましょう!

   ☆  ☆  ☆

 今後は指導者として一流の道を目指すのか、それとも日本ラグビーを良くするためにマネジメント側の分野で力を発揮するのか。はたまた、もっと大きな立場に立ち、日本のラグビー界だけでなく、スポーツ界の振興に貢献する人物になるのか。いずれにせよ、キャプテン経験から培った行動力とカリスマ性で、廣瀬俊朗は日本ラグビー界にとって欠かせない人物へと成長を遂げるに違いない――。


【profile】
廣瀬俊朗(ひろせ・としあき)
1981年10月17日生まれ、大阪府出身。吹田ラグビースクールでラグビーを始め、北野高校、慶應義塾大学を経て、東芝ブレイブルーパスに入団。2007年に日本代表に初選出され、同年の香港戦で初キャップを獲得する。2012年、エディー・ジョーンズ・ヘッドコーチから主将に任命され、ウェールズとのテストマッチで金星を挙げるなど貢献。2015年のワールドカップメンバーにも選出される。173センチ・82キロ。キャップ数28。ポジションはスタンドオフ、ウイング。

斉藤健仁●取材・文 text by Saito Kenji