2016年シーズン開幕戦は、恒例のナイトレース。カタールのドーハ郊外にあるロサイル・インターナショナル・サーキットで開催された。

 今シーズンは、公式タイヤサプライヤーがブリヂストンからミシュランに変わったことと、全選手に対して同一のECU(電子制御)ソフトウェア使用が義務づけられたため、それがメーカーやライダー間の力関係にどのような影響を及ぼすのか、プレシーズンから大きな話題になっていた。だが、開幕戦を終えてみれば、勢力図は従来どおりのライバル関係で推移をしてゆくであろうことがうかがえるリザルトになった。

 優勝を飾ったのは、2015年チャンピオンのホルヘ・ロレンソ(モビスター・ヤマハ MotoGP)。ポールポジションからスタートしたロレンソは序盤から先頭集団につけ、9周目でトップに立つと終盤には一気に突き放しにかかる得意の展開で、まずは今季1勝目。ミシュランタイヤは、去年までのブリヂストンと比較すれば、最適な作動温度域に入るまで若干の時間を要するらしく、それがロレンソのレース運びにどのような影響をもたらすのかにも関心が集まった。だが、フタを開けてみれば、王道の勝ちパターンで推移した。

「苦労なく、ミスなく、レース中にもスムーズに走り切ることができたよ。完璧だった。特にレース中盤から終盤は最高の走りをできたと思う。最後の3周で違いを見せつけることができたんじゃないかな」と、安心した穏やかな表情でレースを振り返った。

 2位はアンドレア・ドヴィツィオーゾ(ドゥカティ・チーム)。ドゥカティのエンジンパワーとトップスピードは、去年もすでに他メーカーを軽く上回る性能を発揮していた。今年はさらにそれに磨きがかかり、ロサイル・サーキットの長い直線では、他メーカーに対して10km/h以上の差を開いていた。

「開幕戦から速さを発揮できて良いフィーリングで走れた。今年はいろんな要素が変わったなかで、いい内容のレースだった。チームのおかげで、プレシーズンテストの期間中にしっかりと準備を進めることができた」

 笑顔でそう話すドヴィツィオーゾは、「今日の結果が自分たちの今のレベルなのかというと、そこはまだ過信してはいけないと思う。他のレースも見てみないと自分たちの本当の実力はわからないけど、それでもまあ、今年はマシンのベースセットアップがいいし、去年よりもいい感じだとは思う」とも付け加えた。慎重な姿勢を崩さないところは、いかにもこの選手らしい。

 3位はマルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)。プレシーズンテストでホンダ勢は総じて、新しい電子制御の合わせ込みなどで他陣営に比して苦戦を強いられている様子だった。だが、シーズンが開幕してレースを終えてみればしっかりと表彰台を獲得しているのは、やはりそれがトップファクトリーの底力であり、2013年と2014年を連覇したマルケスの才能の賜物、ということなのだろう。

「2位を取れたらもっと完璧だったけど、ドゥカティは加速の伸びがものすごかった。最終ラップの最終コーナーでは無理を承知でいちかばちかの勝負を仕掛けてみたけど、結果は3位に終わった。でもまあ、上々の結果だと思う」と、マルケスはゴール前のバトルを振り返った。

 マルケスの0.1秒背後では、バレンティーノ・ロッシ(モビスター・ヤマハ・MotoGP)が4位でゴール。

「戦略をミスしたわけじゃない。今日はあれでいっぱいだった。場所によっては自分のほうが速いところもあったけれども、いつも10メートルほど離れていて、アタックを仕掛けるほどのスピードがなかった」

 表彰台まで僅差ではあったものの、その僅差の距離が実は大きかったことを、ロッシはレース後に淡々と話した。

 さて、今回のレースでは、彼らトップ4と同様に大きな注目を集めていたのが、チーム・スズキ・エクスターのマーベリック・ビニャーレスだ。スズキのMotoGP復帰とともに昨年から最高峰クラスにステップアップした21歳の若者は、昨年の段階でもすでに逸材の片鱗を見せていた。ステップアップ直後のプレシーズンテストから、現場でいつもこの若者と言葉を交わしていて感じるのは、年齢なりの溌剌(はつらつ)とした明るさに加え、それ以上に実年齢よりも落ち着いて見える冷静さと精神的なたくましさだ。スマート、クレバー、という表現がおそらくは相応しいだろうか。

 今回の開幕戦では、スズキ陣営が戦闘力をパワーアップさせてきたマシンのポテンシャルを最大限に発揮しながら、予選ではフロントロー3番手を獲得。決勝でも中盤までトップ争いに食らいついていたものの、最後はダニ・ペドロサ(レプソル・ホンダ・チーム)の背後で6位のチェッカー。

「スズキは冬の間にとても頑張っていいバイクに仕上げてきてくれた。トップを争うにはまだ完璧じゃないけど、だいぶよくなったと思う」と、ビニャーレスはマシンの性能向上を高く評価したうえで、レース中の走りに関しては、「ダニの後ろにいて思ったのは、グリップがもっといるな、ということ。それと、パワーがもっとあればオーバーテイクしやすくなると思う」と振り返った。

「開幕戦はトップシックスという目標を立てていたので、それは達成できた。でも、予選もよかったし、決勝前のウォームアップも2番手タイムだったから、心情的にはもっと上を狙いたかったんだけどね。今日はトップ勢の後ろで走っていて、『ああ、これなら自分もできるな』と思った。スズキには頑張ってさらにいいバイクを仕上げてほしい」

 マルケスと同様に、将来のMotoGPを担っていくであろうことが確実なこの選手の走りに注目すれば、2016年のMotoGPはさらに奥行きのある楽しみ方ができるだろう。

西村章●取材・文 text by Nishimura Akira