問題となった「心房細動治療(薬物)ガイドライン(2013年改訂版)」

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 NGO「薬害オンブズパースン会議」(代表:鈴木利廣)は今月3日、日本循環器学会、日本心臓病学会、日本不整脈心電学会(旧日本心電学会、旧日本不整脈学会)と関連製薬会社に対し、公開質問を送付した。

 これら学会は2014年に「心房細動治療(薬物)ガイドライン(2013年改訂版)」を公表しているのだが、同ガイドラインに多大な影響を受ける製薬会社5社から年間1億円を超える金銭が、ガイドライン作成に携わった学会員に支払われていたためだ。

 降圧薬の臨床試験データ偽造をめぐり問題視されたアカデミアと製薬企業の関係が、今度はガイドライン作成の観点から問われている。

改訂ガイドラインはNOACを強く推奨

 学会が作成する診療ガイドラインは、臨床現場に大きな影響を持つ。疾病の診断基準、標準治療などが示されており、多くの医師が日常診療の参考としている。改訂された心房細動治療ガイドラインも例外ではない。
 
 さて、心房細動患者の多くは、心臓の中で血の塊(血栓)が形成されるのを防ぐ薬(抗凝固薬)を飲まなくてはならない。そうしないと血栓が血流に乗って脳へ行き脳血管が詰まってしまうためだ(脳塞栓症)。
 
 脳塞栓症を予防にはこれまで、ワルファリンという薬しかなかった。しかし2011年以降、新たな飲み薬が使えるようになり、2014年には4種類が使用可能となった。これらの薬は「NOAC(ノアック)」と呼ばれている(新規経口抗凝固薬の英語頭文字)。

 改訂された心房細動治療ガイドラインでは、この「NOAC」が強く推奨されている。
  
NOAC販売社からガイドライン作成関係者11名に1億1400万円余の金銭

 薬害オンブズパースン会議によれば、このNOACを販売している製薬会社5社から、心房細動ガイドライン作成関係者11名に対し、2014年1年間のみで1億1,400万円余が支払われていた。うち2名は、2,000万円以上を受領している。名目は「講演料」「原稿料」「コンサルティング料」だ。

 この結果を受け、ガイドラインの公正性に疑問を覚えた同会議はNOAC販売会社に対し、NOAC販売承認(厚生労働省による)からガイドライン改訂まで間に、ガイドライン作成関係者に支払った金銭、加えて作成関係者の所属組織に支払った寄付の全額を、開示するよう要求した。

 同時に先述3学会に対しては、上記の学会員による金銭授受把握の有無、またガイドラインの公正・中立性に関する見解を問うている。
心房細動に「未承認」のNOACをガイドラインが「推奨」

 薬害オンブズパースン会議の指摘以前から、心房細動治療ガイドラインには「NOAC寄り」だとの批判があった。その1例は「未承認NOACの推奨」だ。

 ガイドラインでは、どのような心房細動患者にどのような抗凝固薬が適しているのか示されている。その際、ガイドライン作成時にはまだ心房細動への使用が承認されていなかったあるNOACが、「推奨」、あるいは「考慮可」として明記された。厚生労働省が心房細動への使用をまだ認めていない薬剤を、ガイドライン策定斑独自の判断で「推奨」したのだ。
 
 もちろん、この点は策定斑の中でも問題となった。ガイドラインが「2013年改訂版」にもかかわらず、公表が2014年にずれ込んだのは、この点の合意形成に時間がかかったためだと説明する関係者もいる。

発売後半年を待たずにNOAC推奨の「緊急ステートメント」を出した過去も

 心房細動治療ガイドライン策定斑によるNOAC推奨は、今回の改訂が初めてではない。わが国最初のNOACが売り出されて半年も経たない2011年8月、「心房細動における抗血栓療法に関する緊急ステートメント」なる文書が日本循環器学会から公表された。事実上のガイドライン(2008年版)改訂だった。前回ガイドラインには入っていなかったNOACが、発売後半年も経たないうちにファルファリンと並んで「推奨」されていたのだ。

 ワルファリンにしてもNOACにしても、抗凝固薬は使い方の難しい薬である。下手をすれば大出血を引き起こす。それゆえ最初は、抗凝固薬の経験が豊富な専門医から使い始め、安全な使用法を模索していく。そして安全な使い方が確立されれば、ガイドラインでの推奨も考慮されよう。

 そういう意味で、ほとんどNOAC使用経験が集積されていない時期の「緊急ステートメント」には、違和感を覚えた医師も多かったはずだ。

 皮肉なことに、このステートメントが出された当日、ステートメント推奨のNOACによる大出血への警告が、製造社から発せられた。

 薬害オンブズパースン会議の公開質問に対し、関係学会、NOAC販売社がどのような回答を寄せるのか、注視していきたい。 
(文=黒澤貴/医事ジャーナリスト)