頸椎亜脱臼で両手両足が麻痺した西田さん(写真は公式Facebookより)

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 先日3月4日に行われた「日本アカデミー賞」授賞式に司会者として出席した俳優の西田敏行さん。

 数日前のバラエティ番組「探偵! ナイトスクープ」(朝日放送)で、ベッドから落ちて頸椎を亜脱臼したと告白。両手両足が麻痺しているため、レッドカーペット上にも姿を見せず、終始座ったままの状態で司会進行を務めた。

 西田さんは、もともと首の負傷箇所に違和感を抱えていたという。2001年にも頸椎症性脊髄症と診断されて手術をした経験がある。

 頸椎症性脊髄症は、老化にともなって椎間板(脊柱を構成している骨の間に存在する円形の軟骨)が変性することや、脊椎を作る骨に棘が形成されることで、脊髄が圧迫される病気だ。

 頸椎症性脊髄症の症状は「手足がしびれる」といった感覚障害や、「手指が使いにくい」「足がふらつく」などの運動障害だ。女性よりも男性に多く、特に激しい運動をしていた人や、喫煙者に起きやすい傾向がある。

タバコと首の痛みの関係が初めて明らかに

 ちなみに西田敏行氏は、現在は節制しているものの、以前は1日に60〜70本もタバコを吸うヘビースモーカーとして有名だった。タバコは「健康に百害あって一利なし」がもはや常識。そして、頸椎のトラブルとは一見すると関係がなさそうに思えるが......。

 実は、喫煙が首の椎間板を変性させ、強い痛みを引き起こす危険因子になる可能性は、以前から指摘されてきた。そして今回、アメリカで行われた新たな研究で、初めて喫煙によって頸部の椎間板が損傷する可能性が明らかになった。

 米・エモリー大学の研究グループは、今回182人のCTスキャンを分析した結果、現在、喫煙をしている人は喫煙していない人に比べて、頸部の椎間板変性疾患が進行していたと発表。この疾患は30〜50代の少なくとも約30%が、それに起因する痛みを持つ一般的なものだ。

 これまでの研究で、喫煙と腰の椎間板変性との関連は示されていたが、 頸部についても同様の関連が示されたのは今回が初めてだという。

 「これはタバコの害の新たな一例となる」と述べるのは、研究を率いたエモリー大学物療医学・リハビリテーション部門研修医のMitchel Leavitt氏。「今回の研究は、患者に禁煙の必要性を説く脊椎クリニックの医師の援護射撃となるだろう」と付け加えている。

ニコチンでウサギの椎間板がもろくなった

 従来から、椎間板ヘルニアで入院する人の喫煙率は、平均よりも高いことも指摘されてきた。ではなぜ、喫煙が腰痛や頸部痛を悪化させる一因になるのだろうか?

 2002年に日本大学教授の松崎浩巳氏が行った実験では、ウサギに常時タバコを吸っているのと同じレベルでニコチンを8週間与え続け、解剖して椎間板の変化を調べた。すると、ニコチンを与えたウサギの椎間板は周囲の血管の数が半数に減り、弾力を失ってスカスカの状態に変性していた。

 次にラットを使い、今度はタバコを1日20本吸った状態で実験を行った。この場合、ウサギほどひどい椎間板の変性は見られなかったが、それでも椎間板の周囲の毛細血管の数が、他の部位に比べてかなり少なくなっていたという。

椎間板はご存じのように、背骨と背骨の間でクッションの役割を果たすもので、栄養分は周囲の毛細血管から供給されている。しかし、タバコのニコチンには血管を収縮させる作用があるため、腰椎周辺の毛細血管を潰してしまい、栄養が行き渡らなくなる。

 また、腰椎間板はコラーゲンで作られている。コラーゲンはビタミンCの働きでできるが、ニコチンはビタミンCの消費を促進する作用があり、コラーゲンを減らしてしまうのだ。

 こうして椎間板が弾力を失うと、脊椎に異常な動きが生じてくる。それを補おうとして周囲の靭帯が厚くなり、骨棘が生じ、それらが神経や血管を圧迫して血流障害や痛みを引き起こす。腰痛をもたらすさまざまな病気の原因の70%に椎間板が関与しているといわれ、首の痛みでも全く同じメカニズムが考えられる。

 もちろん椎間板ヘルニアの危険因子はタバコだけではない。たとえば、コラーゲンの変性は遺伝的な要素もあり、親が腰痛持ちの場合は一層注意が必要だ。

 腰痛や首痛はがんのような病気とは認識されないが、慢性化すれば明らかに生活の質を下げるもの。タバコが影響するとはっきりしている以上、痛みに悩まされている人は、今度こそ禁煙の契機にすることをお薦めしたい。
(文=編集部)