『トウガラシの世界史 - 辛くて熱い「食卓革命」 (中公新書)』山本 紀夫 中央公論新社

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 現在、世界で最もたくさん栽培され、消費されている香辛料----トウガラシ。

 その原産地は、朝鮮半島でもなければインドでもなく、中南米。15世紀末にコロンブスによって、カリブ海の西インド諸島から初めてヨーロッパに持ち帰られ、その後、数百年のうちにヨーロッパはもちろん、アフリカやアジアなど世界各地にもたらされ、受け入れられるようになりました。

 実際、日本にトウガラシが伝来したのは、諸説あるものの、古いものでは1542年あるいは1552年だという説が。それらの説が正しければ、コロンブスがヨーロッパに持ち帰ってからわずか半世紀という驚くべき速さで伝来したことがわかります。

 いずれにせよ、遅くとも安土桃山時代には日本に伝来していたトウガラシ。江戸時代になると、その利用は盛んになったといいます。しかし、当初は現在のように香辛料としてではなく、薬として普及していたのだそう。"呉服箱からぽんぽちの唐辛子""ひどい事下女三文で子をおろし"といった川柳に見られるように、衣服の虫除けとして、さらには堕胎剤としてトウガラシは利用されており、三文(現在の約30円)で売られていたことがわかります。

 では、いつごろからトウガラシは食用として利用されるようになったのでしょうか。その普及の背景には、ソバの普及があったといいます。

 江戸時代半ばすぎに、現在のような細く切ったソバが一般化し、ソバ屋が繁栄。上方のうどんに対して、江戸ではソバが圧倒的な人気を得るようになり、その薬味としてトウガラシが欠かせないものに。と、同時に江戸の八百八町を売り歩くトウガラシ売りが出現し、江戸名物のひとつとして知られることになったのだそうです。

 本書『トウガラシの世界史』では、こうしたトウガラシの日本での伝来模様をはじめ、各国でどのように受け入れられてきたのかについて、専門的でありながらわかりやすく分析されていきます。
"犬に食べさせたら死ぬ""目に入ると失明する""毒あり、食らうべからず"といわれたトウガラシが、どのような過程を経て人びとの間に広まり、魅了していったのか。その知られざる歴史の全貌を明らかにしてくれる一冊です。