安田純平Facebookより

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 昨年6月に内戦下のシリアに入国して以降、行方が分からなくなっていたフリージャーナリスト・安田純平氏のものとみられる動画が公開された。

 安田氏はアルカイダ系の武装組織「ヌスラ戦線」に拘束されているとされ、動画では「私の国に何かを言わなければなりません。痛みで苦しみながら暗い部屋に座っている間、誰も反応しない。誰も気にとめていない。気づかれもしない。存在せず、誰も世話をしない」と日本政府が救出に向けて動いていないと語っていた。

 もちろん、このセリフはテロ組織側に言わされている可能性が高いが、しかし、安田氏について、日本政府がまったく救出に動こうとしなかったのは事実だ。

 安田氏がヌスラ戦線に拘束されているとの情報は、昨年7月、本サイトがいち早く報道していた。しかし、政府も新聞、テレビもこの情報を一切無視してしまったのだ。

 いっておくが、彼らがこの情報を知らなかったわけではない。そもそも、政府は「安田氏拘束」の情報を少なくとも7月はじめの時点で確認していた。事実、安田氏の妻も今年の夏に外務省から「シリアで拘束された可能性が高い」という連絡があったことを今日の朝日新聞で認めている。

 ところが、政府は救出に向けて動くどころか、拘束情報を隠蔽してきたのである。

 まず、昨年7月9日の時点で、菅義偉官房長官と岸田文雄外相は会見で記者からこのことを質問されている。だが、菅官房長官は「拘束されたとの情報には接していない」と完全否定。また、岸田外相も「少なくとも現在、邦人が拘束されたとの情報は入っていません」「(安田氏がシリアに入ってることも)確認していない」とシラをきった。

 その後、7月17日にはCNNで安田氏の拘束が報道されたが、それでも政府は認めなかった。7月31日の会見でも、菅官房長官は「政府としては、ありとあらゆる情報網を関係方面に駆使しながら情報収集に努めている」としつつも、「拘束されたことについては、政府として確認していない」と、言い切った。

 しかも、この情報隠ぺいは、当時、進んでいた安保法制への影響を考えてのことだった。官邸担当記者はこのように語っていた。

「議論が白熱していたあの段階で下手に情報が出れば、強行採決がふっとびかねない。だから、隠せるだけ隠したということでしょう」(官邸担当記者)

 安倍政権は、人命よりも、アメリカへの忠誠、選挙、政治日程を優先させ、この件を見て見ぬ振りをしていたのだ。しかも、唖然としたのは、政府が否定した途端、新聞、テレビも一切、この事実を報道しなかったということだ。

 その後も対応はかわらず、安倍政権は一切動こうとしなかった。そして、とうとう今回の動画公開にいたってしまったのだ。

 岸田文雄外務大臣は「映像は承知しており、その映像の分析を行っているところだ。政府にとって日本人の安全確保は重大な責務であり、情報網を駆使して対応している」と話しているが、本当にまともに対応する気があるのだろうか。

 湯川遥菜氏、後藤健二氏の時にも政府は何の交渉もしなかったうえ、実は救出できるチャンスがあったのにも関わらず、その機会すらことごとく潰していた事実がその後の検証で明るみになっている。

「今回も、安倍政権は本気で救出に動く気はまったくありません。テロリストとは交渉しないという原則論を貫くつもりです。そのまま放置して、状況が悪くなっても構わないとも考えているはず。それこそ安保法制の時と同じく『だからこそ安全保障が必要だ』『改憲が必要だ』という論議にすりかえていくでしょう」(官邸詰担当記者)

 改めて指摘しておくが、自国民の生命保護は国家の義務であるうえ、戦場ジャーナリストは、日本の大マスコミの社員たちが行かない「危険地帯」に出かけ、情報がまったく届いてこない戦場の現実を伝える貴重な役割を担っている。しかも、安田氏は後藤さんの処刑に至る経緯を解明しようとシリア入りしていたともいわれているのだ。

 安田氏を見殺しにしようという安倍首相の態度は、国民の生命を守るという義務を放棄しているだけでなく、国民の「知る権利」への冒涜である。そのことを忘れてはならない。
(編集部)